MetaのメタバースがVRを離れる——Horizon Worldsのモバイル転換が示す戦略の変化
MetaがHorizon Worldsの方針を大きく転換した。VRプラットフォームとして2021年に立ち上げたこの仮想空間を「ほぼ完全にモバイル中心」へ移行し、Quest VRプラットフォームとは明確に切り離すと発表したのだ。2020年以来で約800億ドルの損失を積み上げてきたReality Labs部門の状況を踏まえると、これはメタバース戦略における実質的な方向転換として読める。
1. 何が変わったのか——発表の内容と背景
1-1. Horizon Worldsのモバイル化
Horizon Worldsは、もともとフルバーチャルリアリティ体験として設計されていたが、Metaはその方向を明確に修正した。発表の中で同社は「ゲームを真に変え、はるかに大きな市場を開拓するために、モバイルに全力を注ぐ」と述べ、RobloxやFortniteといった既存のモバイル・ゲームプラットフォームとの競争を意識した戦略へのシフトを示した。
Reality LabsのコンテンツVP、Samantha Ryan氏はブログ投稿でこう語った。「世界最大のソーシャルネットワーク上の数十億人と、それらのゲームをつなぐ独自の能力のおかげで、同期型ソーシャルゲームを大規模に提供できる強力な立場にある。この戦略は2025年から展開が始まり、今やメインフォーカスとなっている」。
1-2. Reality Labsの相次ぐ縮小
方向転換の背景には、Reality Labs部門の継続的な苦境がある。同部門は2020年以来で約800億ドルの損失を計上しており、先月には約1,500人(同部門の約10%)が削減された。複数のVRゲームスタジオも閉鎖され、2023年に買収したVRフィットネスアプリ「Supernatural」も新規コンテンツの制作を停止し、「メンテナンスモード」へ移行したと報じられている。
2. VRは終わったのか——ハードウェアへの継続投資
Metaのコミュニケーションで興味深いのは、VRを完全に放棄したわけではないという点だ。Ryan氏は「市場の成長と成熟に合わせ、異なるオーディエンスセグメントに対応した将来のVRヘッドセットの充実したロードマップを持っている」と明記しており、Questハードウェアへの投資継続を示唆している。
ただし、Horizon Worldsという「コンテンツ・体験」の側面とVRハードウェアを切り離すことで、ヘッドセット事業をAIウェアラブルやスマートグラスの延長線上に再定義しようとしている構図が見える。
3. メタバースからAIへ——Metaの軸足の移動
3-1. Zuckerbergの発言が示す優先順位
先月の決算説明会でMark Zuckerberg CEOは、「数年後には、人々が装着するほとんどのメガネがAIグラスになっていない世界は想像しにくい」と述べた。さらにMeta製スマートグラスの販売が昨年の3倍に達し、「コンシューマーエレクトロニクス史上最も急成長している製品の一つ」と評した。
この発言は、Metaの長期的な賭けが「閉じた仮想空間」から「日常に溶け込むAIウェアラブル」へと移っていることを端的に示している。
3-2. メタバースの位置づけの変化
2021年に社名をFacebookからMetaへ変更した際、Zuckerberg氏はメタバースを会社の将来像の中心に据えた。それから約4年、Horizon Worldsのモバイル化とReality Labsの縮小は、当時の構想が大きく修正されたことを意味する。AIモデルの開発と普及、スマートグラスの市場化という方向性が、少なくとも現時点でのMetaの優先事項となっている。
4. 投資家・ビジネスパーソンへの示唆
MetaのHorizon Worlds転換は、プラットフォーム戦略の観点から二つの示唆を持つ。一つは「モバイルファースト」という確立された市場への回帰であり、RobloxやFortniteが積み上げてきたユーザーベースへの接近戦という意味合いがある。もう一つは、VRという「体験のためのデバイス」からAIグラスという「日常のためのデバイス」への製品軸の移動だ。
800億ドルの損失というコストは大きいが、Metaが得た教訓——クローズドな仮想空間より、既存の数十億人規模のソーシャルグラフとの接続性の方が価値を生みやすい——は、プラットフォームビジネスを考える上で参照価値がある。AIウェアラブル市場が本格化する局面で、MetaのソーシャルグラフとAIの組み合わせがどのような競争優位を生むか、引き続き注目される。

