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Anthropic Platform責任者が語る「壁のない生態系」の作り方 ― 3層アーキテクチャとClaude Tagの舞台裏

Claudeを開発するAnthropicは、単なるAIモデル提供企業ではなく、開発者が独自のプロダクトを構築するための基盤(プラットフォーム)企業としての側面を強めている。同社でPlatform部門を率いるKatelyn Lesse氏とAngela Jiang氏へのインタビューでは、社内外の両方に向けて展開されるこのプラットフォームの設計思想が語られた。本稿ではその内容を整理し、AI活用を検討する企業の経営層や投資家にとって参考になる視点を解説する。


1. 「2つの北極星」を持つプラットフォーム戦略


Anthropic Platformは、外部開発者向けのAPIと、社内の各プロダクトが利用する基盤の両方を担っている。Lesse氏は、この二面性について「別々の太陽系のようなもの」と表現し、それぞれに異なる指針(ノーススター)を設定していると説明する。

1-1. 社内向け:スピード重視

社内向けの指針は、各チームが、「AGIらしいプロダクト」を迅速に出荷できるようレバレッジを最大化することにあるという。速度への強いこだわりが特徴だ。

1-2. 外部向け:あらゆるビルダーへのツール提供

外部向けの指針はより複雑で、「どんなビルダーに対しても、Claudeを使って作りたいものを作れるツールを提供する」ことにあるとLesse氏は語る。この方針の一環として、AWSやGoogleといったハイパースケーラーとの緊密な統合や、Skills・MCP(Model Context Protocol)といった業界標準の策定にも力を入れているという。

2. プラットフォームを構成する「3層のケーキ」


インタビューの中核をなすのが、Jiang氏が示した「知識(Knowledge)」「実行(Execution)」「調整(Coordination)」という3層のフレームワークだ。

2-1. 知識層:モデルの基礎能力

最下層に位置する知識層は、Messages APIのような、Claudeというモデルそのものの設計や振る舞いを表現する基盤部分にあたる。ここから発展し、ツールの標準化、さらには、SkillsやMemoryといった、特定の文脈情報をモデルに与える仕組みへと拡張されてきたという。

2-2. 実行層:Claude Managed Agents

次の層である実行層は、モデルに実際の作業をこなさせる部分だ。Lesse氏は、この層について「低レベルのハーネスに加えて、管理されたインフラの組み合わせ」と定義し、現在の代表的な製品として「Claude Managed Agents」を挙げている。サンドボックスの起動・停止管理や、セッションの再開を可能にするトランスクリプトの保存といった、地味だが重要なインフラ課題をあらかじめ解決しておくことが狙いだという。

2-3. 調整層:戦略という新概念

さらに、その上に位置づけられるのが調整層で、Anthropicは、ここで「戦略(strategies)」と呼ぶ概念を模索しているという。Jiang氏は、「トークンは互換的な存在ではない。あるトークンは、助言役、あるトークンは、実行役というように、異なる役割を与える必要がある」と説明し、これらを組み合わせた「メタハーネス」の設計が今後のロードマップの中心になるとの見通しを示した。

3. インフラを囲い込まない「モジュール式」の思想


Anthropicは、自社インフラへの囲い込みを意図的に避けている点も特徴的だ。

3-1. 外部パートナーとの積極的な連携

Lesse氏は、「サンドボックスや保存レイヤーを自社が管理すべきだとは考えていない」と述べ、Modal、Vercel、Cloudflare、さらには、Amazonの新しいマイクロVMなど、複数の外部インフラと連携する「セルフホスト型サンドボックス」を提供していると明かした。また、ファイアウォールの内側にあるMCPサーバーへ接続できる「MCPトンネル」も展開しているという。

3-2. 「重要なのはアーキテクチャ」という考え方

同氏は、「エージェントをどのインフラ上で動かすかは重要ではない。重要なのは、それらをどう組み合わせれば、強力で信頼性のあるスケーラブルなアーキテクチャになるかだ」と述べ、特定のインフラへの依存を前提としない設計方針を強調した。

4. 社内発プロダクト「Claude Tag」の裏側


インタビューでは、社内向けエージェント「Claude Tag」の開発経緯にも触れられた。

4-1. 業界の先行事例を踏まえた社内ツール

Jiang氏によれば、ShopifyのRoieやSquare/BlockのBuilderbotなど、企業が自社専用のエージェント基盤を構築し、Slackなどからアクセスできるようにする事例が業界内で見られており、Claude Tagはこうした取り組みをAnthropicなりに体系化したものだという。

4-2. 「インターフェースは重要ではない」という誤解への反論

同ツールがSNS上で「ただのSlackボットではないか」と話題になったことについて、Jiang氏は「重要なのはインターフェースではなく、その裏側にあるコンテキストエンジニアリングとアーキテクチャだ」と反論する。同氏は、Slackに限らずMicrosoft TeamsやWhatsApp、メールなど、人間が既に使っているコミュニケーション手段にエージェントが自然に参加していく未来を見据えていると説明した。

5. ハーネス構築のベストプラクティス


Lesse氏は、ハーネス(AIエージェントの実行基盤)構築における実務的な助言も示している。

5-1. プロンプトキャッシングとコンテキスト管理

基本的な取り組みとして、プロンプトキャッシングの徹底や、古いツール呼び出し履歴をコンテキストウィンドウから適宜削除することを挙げ、これらがコスト削減に直結するとした。また、成果を測定する「Evals(評価)」の重要性にも言及している。

5-2. ドメイン特化が効くのは「検証ロジック」

タスクや業界特化型のハーネスが必要かという問いに対し、Lesse氏は、「特に法務や金融のように、間違いが重大な結果を招く領域では、モデルと実行の間の検証ロジックをカスタマイズすることが、製品の差別化要因になる」と述べた。一方で、コンテキスト処理自体の部分は多くのハーネスが汎用的に対応できるため、過度に重視する必要はないとの見解も示している。

6. トークンコストの「合理化」局面をどう乗り切るか


インタビュー終盤では、AI活用が、「トークン最大化(token maxing)」の段階から「トークン合理化」の段階へ移行しつつあるという議論が交わされた。

6-1. 利用を止めるのではなく、賢く配分する

Jiang氏は、「AIの利用を止めることは間違った動きだ」と述べ、多くの企業がシャドーIT的にAI利用を拡大させた結果コストが急増している実態に触れつつも、タスクの複雑さに応じてモデルを振り分ける「ルーティング」の設計を推奨した。ただし、「Claude向けに設計されたプラットフォームであるため、Claude以外のモデルへのルーティングには重点を置かない」という自社の立ち位置も明確にしている。

6-2. Stripe時代の経験からの教訓

Lesse氏は、Anthropic入社前に在籍していたStripeでのAWS費用管理の経験を引き合いに出し、「一律の上限を設けてそこで思考停止するのは危険だ。同じ成果をより低コストで達成する方法を、後から賢く見直していく発想が必要になる」と述べた。

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