Canva共同創業者Cameron Adams氏「もはやデザイン会社ではなくAI会社」— 月間2.5億人利用の巨大サービスが語る転換の中身
デザインプラットフォームCanvaは、月間2億5,000万人が利用する規模にまで成長した企業だ。その共同創業者でChief Product Officer(最高製品責任者)を務めるCameron Adams氏が、Cannes Lions Festivalのステージで行われたPodcast「Rapid Response」のインタビューの中で、同社が過去1年間で「デザインを行うAI会社」へと自己定義を変えたと明かしている。本稿では、このインタビュー内容を基に、Canvaの組織運営や製品戦略における具体的な取り組みを整理し、AI活用を検討するビジネスパーソンや投資家向けに要点を解説する。
1. 「デザイン会社」から「AI会社」への転換
Adams氏は、この1年を振り返り、「これまでずっとマラソンを走ってきたが、この1年はそのマラソンの中で少しだけ全力疾走している感覚だった」と表現した。同氏によれば、Canvaは、現在、自社を「AIを扱うデザイン会社」ではなく「デザインを行うAI会社」と位置づけているという。
1-1. 独自AI研究の蓄積
この転換を支えているのは、社内に抱えるAI研究者やML(機械学習)エンジニアの層の厚さだとAdams氏は説明する。同氏は、「単にLLMを再パッケージ化しているのではなく、深い技術的研究と独自の知的財産がプラットフォームの中に存在している」と述べ、外部モデルへの依存だけでなく、自社固有の技術基盤を構築してきた点を強調した。
1-2. 「スピードボート」型の組織運営への回帰
組織面では、6,000人規模の企業を大型客船のように動かすのではなく、「多数のスピードボートが週単位のペースで顧客価値を届けている」状態に近づいていると表現している。これは、Canva創業初期のスタートアップ的な機動力への回帰だとAdams氏は位置づけている。
2. 現場への浸透:社内実験文化の作り方
AIツールの導入において、Canvaは、特定のツールを一律に強制しないという方針を取っている。
2-1. ツール選定は各チームの裁量に委ねる
Adams氏は、「ClaudeもChatGPTもGeminiも、どのツールを使うか強制していない」と述べる。各チームには、予算を与え、自分たちの業務課題に合わせてツールやワークフローを試行錯誤する自由を持たせているという。同氏は、その理由について、「ツールを強制すると、社員はしぶしぶそれを使うだけで、必要な実験的な姿勢に入っていかない」と説明した。
2-2. 「AI Discovery Week」という社内施策
具体的な取り組みとして紹介されたのが、約1カ月前に実施した「AI Discovery Week」だ。この期間中、社員には、通常業務を離れ、抱えている課題や他業界の同僚から聞いたアイデアをAIツールで試すよう呼びかけたという。最終日には、成果発表会が開かれ、法務・財務・製品・エンジニアリングなど各部門から約400〜500件のプロジェクトが披露された。
Adams氏によれば、このうち約半数はすでに社内または顧客向けに実運用段階にあるという。象徴的な例として挙げられたのが、法務チームが構築した商標チェックツールだ。同チームは、製品名の商標登録可否の確認に毎年数千時間を費やしていたが、このツールの導入により年間1,500時間分の作業を削減したとされる。
3. 「Canva AI 2.0」に見る設計思想
Canvaは、2026年4月、テンプレートではなく、文章による指示からデザインを生成する会話型アシスタント「Canva AI 2.0」を発表している。この機能設計において、Adams氏は明確な原則を持っていると語る。
3-1. 「人間を運転席に置く」という原則
同氏は、「AIが創造性や審美眼、判断力をすべて自動化してしまい、ユーザーが関与しなくても済むような製品を作りたくない」と述べ、Canvaが目指すのは、AIによる自動化ではなく、AIが出したアイデアをユーザーが手を加えて発展させられる仕組みだと説明する。「AIから101枚の画像やコピー文、ブログ記事の下書きをもらうことはできる。しかし、それを自分なりに手を加え、自分の色を出し、本当に届けたい相手に響くものにする必要がある」という発言は、Canvaの製品哲学を端的に表している。
3-2. すべての出力を「編集可能」に保つ
この考え方に基づき、AIが生成したものはすべて通常のCanvaデザインとして編集・共有できる仕様になっているという。マーケティングチームや営業、人事チームともコラボレーションできる「一級市民」として扱う設計であり、AI機能を後付けの飾りにしないことが重視されている。
4. 「SaaS終焉論」への見解
2026年前半に話題となった「SaaSアポカリプス」(AIの進化によりソフトウェア企業が陳腐化するという議論)について、Adams氏は次のように応じている。
「すべての作業を一箇所で完結できる世界が実現するとは思わない」とし、Canvaのように視覚コミュニケーションという特定領域に特化したツールは、より深く豊かな体験を提供できると主張する。同氏は、ユーザーが最終的に求めているのは「より良い結果」であり、Canvaは、独自の「Canva design model」(同社が2025年に発表した、業界初とされる基盤デザインモデル)によってそれを実現できるとの見方を示した。
5. モデル非依存という開発方針
Canvaは、特定のAIモデルに依存しない開発方針を取っている。Adams氏は、「ClaudeとGeminiとChatGPTが競い合っている状態は素晴らしい。それがイノベーションを生む」と述べ、複数のモデルが切磋琢磨する環境がユーザーにとってより多くの選択肢とより良い成果をもたらすとの考えを示した。
6. 「まだ1%地点」という自己評価
インタビューの終盤、Adams氏は、「私たちは常に全体のわずか1%しか進んでいないという表現を社内で使っている。残りの99%は、成長・進化・変化を続けているからだ」と述べている。ホスト役のBob Safian氏は、この発言について、評価額420億ドル規模の企業がなお「1%」と自己評価している点に触れ、その野心的な姿勢を印象的なポイントとして挙げていた。
Adams氏は、加えて、Canvaが目指す方向性が「デザインそのもの」から「ユーザーの目的達成」へとシフトしつつあるとも語った。「以前は多くの人が一枚の画像を作るためだけにCanvaへ来ていた。今はより目的に近づいている。売上を増やしたい、非営利団体の影響力を高めたい、といった相談ができるようになった」という発言は、AIを組み込んだ製品が単なる制作ツールから意思決定支援ツールへと役割を広げつつあることを示唆している。
