Glean創業者Arvind Jain氏「エンタープライズ業務の90%以上は複数モデルで代替可能」と明言
エンタープライズAI企業Gleanの共同創業者兼CEO、Arvind Jain氏がポッドキャストに出演し、フロンティアモデル企業との関係、オープンソースへのシフト、AI投資の費用対効果、そして、採用戦略までを率直に語った。同氏はかつて企業向けストレージ会社Rubrikを共同創業しており、Rubrikは、既に上場を果たしている。パーソナリティは「起業家は勝つことに高揚するタイプか、負けることを恐れるタイプか」と切り出したが、Jain氏は迷わず後者だと答えている。
「常に何がうまくいかないかを心配していて、それが夜も眠れなくなる理由だ」
同氏は、「疑い深い者だけが生き残る」という考え方を好むと述べ、Rubrikでの成功後も、この姿勢は変わっていないという。「新しい会社を始めるたびに、ゼロからのスタートのようなものだ。以前の教訓はあっても、これは新しい世界であり新しい環境だ」との考えを語っている。本稿では、この対談の内容を項目ごとに整理し、投資家・ビジネスパーソン向けに詳しく解説する。
1. Gleanとは何か ── 検索から企業向けAIプラットフォームへ
1-1. 「Google for your work life」から始まった
Gleanは、もともと企業向け検索サービスとしてスタートした。社内の何百、何千ものシステムに散らばった情報を、従業員が素早く見つけられるようにするサービスであり、Jain氏は、これを「仕事生活のためのGoogle」と表現している。しかし、AIモデルの性能向上とともに、同社のプロダクトはAIプラットフォームへと進化した。
現在のGleanについて、Jain氏は次のように説明する。
「ChatGPT、Claude、Geminiのすべてを組み合わせたスーパーセットのような製品体験であり、従業員にとっての“co-worker”であり、会社のあらゆるコンテキスト、つまり社内で仕事がどのように行われているかと接続されている」
2. フロンティアモデル企業への依存リスク
2-1. Palantir CEOの発言をどう見るか
対談は、Palantir CEOのAlex Karp氏が、先週CNBCで、世界最大級の企業が「フロンティアモデル提供企業に対してこれまで以上に懐疑的になっている」と発言したことから始まった。Jain氏は、これについて、次のように整理している。
まず、ソフトウェア企業が、一般に「モデルに自分たちの事業が飲み込まれるのではないか」と恐れているのと同様に、企業側のリーダーたちも、自社のコアとなる知的財産やデータ、仕事の進め方が、特定のモデル提供企業への技術的依存になってしまうことを懸念しているという。ただし、同氏は、Karp氏の発言の核心は、「AIがうまく機能していない企業ほど、それを言い出しにくい空気がある」という点にあると補足している。
2-2. 「運用上の依存」という新しい懸念
Jain氏が特に強調したのは、単なる技術依存を超えた「運用上の依存(operational dependence)」という概念だ。同氏は、業務のやり方が時間とともに最適化され、その多くが文書化されないまま従業員個人の経験知として蓄積されていくプロセスを説明した上で、次のように述べている。
「そうした組織的な学習(institutional learning)のすべてが、実際に業務を行うエージェントの中に蓄積されていく。もしそのエージェントの運用を自分でコントロールできず、蓄積された学習を自社が所有していなければ、実質的にそのAI企業に完全に依存することになる」
同氏は、これこそが今、企業が直面している根本的な課題だと位置づけている。「AIをどう活用するかだけでなく、コントロールを保持し、複利的に積み上がる学習を自社のものとして維持できるかどうか」が問われているという。
3. オープンソースへのシフトの背景
3-1. 転換点はコスト
企業がフロンティアモデルからオープンソースへとシフトする動きについて、Jain氏は、「まさに今、その転換点にいる」との見方を示した。当初は、企業が自社データを外部に出すこと、そして、モデル企業がそのデータで学習することへの懸念が強く、これが移行の障壁になっていたという。しかし、現在は、適切な契約を結んでいれば企業データが学習に使われないという安心感が広がり、その懸念は薄れてきているとしている。
その結果、現在の移行を後押ししている最大の要因は、コストだとJain氏は明言する。
「企業がAIの年間予算を組んでも、1〜2ヶ月でその予算を使い切ってしまうという話をよく耳にする。それがオープンソースへの需要を大きく加速させている」
3-2. オープンソースの性能向上という追い風
コスト面の圧力に加え、オープンソースモデル自体の性能が向上してきたことも大きい。Jain氏は、Gleanの社内チームが初めて「フロンティア水準の性能に3ヶ月以内で追いついたオープンソースモデル」として、中国製の「GLM 5.2」を挙げ、「自分たちのワークロードの大半をこのモデルで実行できると社内チームが感じたのは、つい最近、文字通り1ヶ月足らず前のことだ」と明かしている。
4. フロンティアモデルはコモディティ化しているか
4-1. 90%以上は複数モデルで対応可能
Jain氏は、エンタープライズのユースケースに関して次のように述べている。
「90%、あるいはそれ以上のユースケースは、オープンソースを含む多くの異なるモデルによって十分に対応できる」
Glean自身も、顧客に対して「コストコントロール」を主要な価値提案の一つとして位置づけており、タスクが完了する際に最適なモデルを自動的に選択し、適切と判断した場合にはオープンソースモデルを使用するという運用を行っているという。
4-2. 「オープンか閉じているか」ではなく「中国製かどうか」
一方で、Jain氏は、「オープンソースかクローズドソースか」という対立軸そのものが、今後は意味を失っていくと指摘する。真の論点は、「中国製モデルを受け入れられるかどうか」だという。
「問題は、オープンソース対クローズドソースではない。中国製モデルを受け入れられるかどうか、それだけの話だ」
オンプレミスで運用でき、中国側に何かデータが送信されるわけでもないにもかかわらず抵抗感が残る理由について、Jain氏は、「単なる安心感の問題」であり、「何か問題が起きたらどうするか」「見えないバックドアがあるのではないか」といった漠然とした不安、さらには「その利用実績が競合に利用される可能性がある」といった懸念が絡み合っていると分析している。
4-3. 3年後の予測
3年後の見通しについて問われたJain氏は、明確な数値予測を避けつつも次のように述べた。
「エンタープライズのワークロードの大半は、3年以内に確実にオープンソースモデル上で稼働するようになると、私たちは顧客に伝えている」
5. AnthropicやOpenAIは競合か、それとも資産か
5-1. 「垂直展開は表面的」という評価
AnthropicがFigmaのデザイン領域や法務、金融といった業界向けの「垂直パック」を展開していることについて、Jain氏はこれを深刻な脅威とは見ていないと明言した。
「彼らがFigmaやリーガル、金融の領域で実際に行っていることについては慎重に評価すべきだと思う。こうした垂直パックを展開してはいるが、私の見立てではかなり表面的なものにとどまっている」
同氏は、既存ツールから完全にワークロードを移行させたユーザーの事例をほとんど見ていないとした上で、実際にはAIが「市場を広げている」側面が大きいと指摘する。デザインの例で言えば、既存のプロのデザイナーは引き続きFigmaを使う一方、非デザイナーがClaudeで簡易なデザイン作業を行うようになった、という形で市場全体が拡大しているという見立てだ。
5-2. Gleanが実際に直面する競争
とはいえ、Jain氏は、Anthropicとの競争が実際に日常的に存在することも認めている。企業の顧客からは、「ClaudeもMCP経由でエンタープライズシステムと接続できるが、Gleanと何が違うのか」と問われることが多く、その都度「コンテキストとは実際に何であり、それを構築することがなぜ複雑なのか」を説明する必要があるという。
さらに、興味深い指摘として、Jain氏は、Anthropicの「Claude Cowork」や「Claude Desktop」が主に「質問応答」のユースケースで使われている点を挙げ、「実は彼らの方が、他社より先に私たちと競合し始めていたとさえ言えるかもしれない」と述べている。世界最大のAI活用ユースケースは、依然として「情報探索と質問応答」だからだ。
5-3. モデル企業を「資産」と捉える視点
Jain氏は、最終的に、フロンティアモデルのトレーニングを行っていない企業にとっての向き合い方について、次のように総括している。
「フロンティアモデルのトレーニングを行っていないほぼすべてのAI企業にとって、モデル企業は競合ではなく大きな資産と捉えるべきだ。Anthropic、OpenAI、Googleが行っていること、そして、オープンソースで起きているイノベーションはすべて、私たちにとって朗報だ」
創業者へのアドバイスとしても、「フロンティアモデル企業が、自分の領域に参入してくることを心配するのではなく、問題解決に集中すべきだ」との考えを示している。
6. AI投資の費用対効果 ── 「本当にROIは出ているのか」
6-1. 価値が見えやすい領域と、見えにくい領域
番組では、Palantir CEOのKarp氏の発言を引き合いに、「2026年後半から2027年は、企業がAI投資のROIを問い直す年になる」との論点が提示された。Jain氏は、これに対し、価値が明確に測定できる分野とそうでない分野があると整理している。
カスタマーサポート領域は、前者の代表例だという。「サポート担当者が1日に処理できる件数が、AI導入前は10件だったのが、導入後は12件になった」といった形で、生産性向上を具体的な数値として示せるためだ。
一方、AI投資の大部分が向けられているコーディング領域については、状況がより複雑だと指摘する。「ほとんどの開発者は、すでに手書きではなくAIでコードを書いている」ものの、「製品を実際により速く出荷できているかというと、多くの企業がそうではないと答えている」という。コーディング速度の向上は、製品出荷全体のごく一部の要因に過ぎないためだ。
6-2. Glean自身のコード生成の実態
Jain氏は、自社の状況についても明かしている。Gleanでは、初期コードのほぼ100%がAIによって生成されており、「もはや手書きでコードを書いている人はほとんどいない」という。一方で、人間によるコードレビューは、厳格に維持しており、AIが生成したコードを無審査でリポジトリに直接反映させることはしていないと説明する。
社内では一時、「AIがこれほど大量のコードを書けるようになった今、ボトルネックはコードを書く人間からレビューする人間に移った」として、コードレビュー工程自体を撤廃する提案が出たこともあったという。実際に他の多くの企業がその方向に進んでいることも認めつつ、Jain氏は、「レビューを省略すれば、開発プロセスを速くする意味自体が失われかねない」との慎重な立場を崩していない。
6-3. 月100万ドルのオンコールエージェント
AI投資対効果に関する最も具体的な事例として、Jain氏は、社内のエンジニアリング向け「トリアージエージェント」の話を紹介した。従来、15人体制のオンコールチームが、本番環境で発生する問題やシステムアラートを一件ずつトリアージしていたが、現在はエージェントがこの業務の95%を自動的に処理しているという。
しかし、その運用コストは決して安くはない。
「そのエージェントには月100万ドルを費やしている。そして、それが人間よりも本当に効果的なのか、本当に効率的なのかというと、実は疑問符がつく状態だ」
この発言は、AIエージェント導入が必ずしも明確なコスト削減につながるとは限らないという、投資家にとって重要な示唆を含んでいる。
6-4. トークン浪費という構造的問題
Jain氏は、多くの企業がAI導入で陥りがちな失敗パターンについても言及した。企業がAIをMCPサーバー経由で社内システムに単純に接続し、モデルに「力任せ」でタスクに必要な情報を組み立てさせるようなやり方では、次のような問題が生じるという。
「このやり方では、AIは非常に遅くなる。適切なコンテキストを組み立てるだけで多くの時間がかかり、トークンの大部分がまさにその作業に浪費されるため、コストも非常に高くなる。しかも、AIが本来得意でない、あるいは必要としていない作業にAIを使おうとしてしまっている」
同氏は、AIに真に高いパフォーマンスを発揮させるには、「AIの周辺に投資する」必要があると強調する。つまり、AIに適切なコンテキストを事前に提供する仕組みを整えることで、より低いコストと速いスピードでの稼働が可能になるという考え方だ。
7. 「AIで自分を置き換える」という目標への疑問
経営者の中には、従業員に対して積極的に「自分自身をAIで置き換えるように」と促す動きも見られる。これについて、Jain氏は明確に懐疑的な立場を取った。
「“自分をAIで置き換えろ”という目標を掲げるのは、私の考えでは間違っている。それはAIに対して過大な信頼を与えすぎている。今のAIはまだそこまで準備が整っていない」
パーソナリティから「あなたのEA(エグゼクティブ・アシスタント)の仕事は置き換えられると思うか」と問われると、Jain氏は「業務の大半は代替できるだろうが、最後に残る“無形の部分”は代替できない」と回答している。妻へのプレゼント選びのような、AIには把握しきれない個人的な機微を例に挙げつつ、そうした「残り10%」の存在ゆえに、その役割自体が完全に消滅することはないとの見方を示した。
8. 採用方針 ── 従業員1,000人超から5,000人へ
多くのCEOがAI活用によるチーム縮小を志向し、「人員を増やすことはもう信じていない」と公言する中で、Jain氏は明確に異なる方針を打ち出している。Gleanの従業員は現在1,000人を超えており、5年後の見通しについて次のように述べた。
「願わくは5,000人になっていてほしい」
同氏は、この方針の論拠として、コカ・コーラとペプシのような競合関係を例に説明する。両社が同じAIツールにアクセスできる状況で、一方が、人員を縮小し、もう一方がそのまま多くの人員を維持した場合、後者は同じ仕事をより多くこなすのではなく、10倍優れた製品を作る、あるいは10倍多くの製品を生み出す方向に人員を活用できる、という理屈だ。人員が多い側が最終的に競争で優位に立つとの考えである。
同時に、Jain氏は「人員が多ければ良い製品ができるという単純な話ではない」とも認めており、コロナ後に多くの企業が人員を15〜20%削減し、「それによって20%速く動けるようになった」と語っていた経緯にも触れ、組織が肥大化すれば互いに動きを遅くするという側面も否定していない。それでも同氏は、「人材は資産であり、正しいプロジェクトに正しく配置すべきものだ」との立場を崩さず、モデル企業自身が積極的に採用を続けている点も、その裏付けとして挙げている。
9. 資金調達とスタートアップ環境への懸念
9-1. 「最も割高に感じた」シリーズC
Jain氏は、Gleanの資金調達の歴史を振り返り、最初のラウンド以外はほとんど自ら資金調達に出向いたことがなく、関係構築を通じて自然と出資者が決まっていったと説明した。その中で、シリーズCについては次のように振り返っている。
「シリーズCが、事業実績に対して最も“割高”に感じられたラウンドだったと思う。当時はまだほとんど事業がなく、調達額もおそらく300万〜500万ドル程度だったにもかかわらず、評価額は10億ドルを超えていた」
この高いバリュエーションについて、Jain氏は、スケール時の不安よりも、「採用候補者に対して“我々は特別なものを作っている”というメッセージを送る意味合いが大きかった」と説明している。実際、「Kleiner PerkinsやDST、Sequoiaのような投資家が付いていれば、優秀な候補者が突然話を聞きたがるようになる」とし、投資家の評判が採用力に直結する現実を認めた。
9-2. 過剰な資本がもたらす歪み
Jain氏は、現在のスタートアップ環境全体についても懸念を示した。「今のスタートアップには資本が有り余っており、それが持続不可能な組織構造を生み出すことがある」と指摘し、シード資金を調達したばかりのスタートアップがエンジニア一人に50万ドルもの報酬を支払うような事例を挙げている。「創業者も投資家もそれを問題視していないが、それは決して持続可能な勝ち筋ではない」との見解だ。Google のような巨大テック企業がそうした高額な人材獲得競争に加わる必要がないことと対比させ、この資本の過剰供給がスタートアップの規律を歪めていると警鐘を鳴らしている。
