Anthropic共同創業者Jack Clark氏、社内エンジニアのコード生産量が2026年に8倍に拡大と証言
2026年6月17日、Bloombergのポッドキャスト「Odd Lots」に、Anthropicの共同創業者でPublic Benefit担当責任者のJack Clark氏と、同社チーフエコノミストのPeter McCrory氏が出演した。生成AIが企業の生産性や労働市場に与える影響、そして安全性をめぐる議論まで、両氏は具体的なデータを交えて語った。本稿では、投資家・ビジネスマンの視点から重要なポイントを整理する。
1. 社内で進む「コード生産量8倍」の現実
Clark氏は、2025年11月から育児休暇を取り、2026年2月に復帰した際、社内の様子が一変していたと振り返った。データを確認したところ、「2026年、Anthropicのエンジニアは、2021年から2024年にかけてと比べて約8倍のコードを書いている」という。この変化は2025年のClaude Opus 4.5・4.6世代から始まり、2026年に入って一段と加速したという。
1-1. CI(継続的インテグレーション)の機能不全
コード生産量の急増は、思わぬ副産物も生んだ。社内のCI(継続的インテグレーション)システムが、急増したコード量に対応できず機能不全を起こし、人間のエンジニアがその修復作業に追われる事態となった。Clark氏は、これは経済全体でも同様に起こりうる現象だと指摘し、「ボトルネックや弱点が破綻し、それを人間が直す。そしてまた同じサイクルが始まる」と説明した。
2. 労働生産性への影響をどう測るか
チーフエコノミストのMcCrory氏は、AIの経済的インパクトがマクロ統計にまだ十分反映されていない背景を説明した。技術の普及には時間がかかり、特に複雑な業務ほど多くの文脈情報をモデルに与える必要があるためだという。
2-1. 「年1.8ポイント」という推計値
McCrory氏のチームは、Claudeの利用実態データを基に、各業務で生じる時間短縮効果を積み上げる手法で分析を行った。その結果、現在の利用パターンとモデル性能が経済全体に十分普及すれば、「今後10年間、労働生産性成長率を毎年1.8ポイント押し上げる」という推計が得られたという。これは近年の生産性成長率を実質的に倍増させる規模だとされる。
一方で、TFP(全要素生産性)の伸びは、むしろ鈍化しているとのデータもあり、McCrory氏は、「これは示唆的な証拠であり、確信を持って言える段階ではない」と慎重な姿勢を示した。なお、別の研究者の推計では、AI関連経済が2000%から3000%という規模で成長しているとの数字も紹介された。
2-2. 統計に表れない理由
ただし、同氏は、この効果がGDPなどの統計に明確には表れていないことも認めている。「TFP(全要素生産性)成長率は、むしろ逆の方向のsignal を示している」としつつ、情報セクターなど一部の業種では、コロナ前からの生産性トレンドを考慮しても示唆的な強さが見られると述べた。
3. 採用方針に見える「バーベル型」の変化
3-1. シニア人材への投資とAIネイティブ世代の採用
Clark氏は、社内の採用パターンに「バーベル型」の傾向が出てきていると述べた。経験豊富なシニア人材は、AIによって発想や判断力が大きく増幅されるため、より積極的に採用するようになったという。一方で、若手についてはAIツールの扱いに長けた「AIネイティブ」世代を採用する動きも続いている。
3-2. 新部門「Rule of Law and AI」はエンジニア採用なし
具体的な事例として、Clark氏は、新設した法律・政策関連の部門「Rule of Law and AI」の採用方針を紹介した。当初はエンジニアと法律専門家を両方採用する計画だったが、「Claudeがエンジニアリング業務を十分に担えるため、法律専門家と研究者のみを採用することにした」という。
3-2. 若年層の不安は中堅層の2倍
Anthropic Instituteが実施した8.1万人規模の国際調査では、AIによる雇用への影響に関する懸念が浮かび上がった。McCrory氏は、「若年層は、雇用喪失への懸念を中堅層の2倍の割合で表明している」と説明。実際のデータでは、置き換えリスクが高い職種ほど不安が強く現れる傾向があり、「認識と実データの間にギャップがある」とも指摘した。
4. 81,000人調査が示す世代間ギャップ
Anthropic Institute内の社会的影響を研究するチームは、世界81,000人を対象に、AIに対する期待と懸念を尋ねる大規模な質的調査を実施した。雇用や経済への影響への懸念が広く見られた一方、McCrory氏のチームがさらに分析したところ、「若年層は、シニアの労働者の2倍の割合で失業への懸念を表明している」ことが判明した。
実際の雇用データでは、AIによる代替リスクが高いとされる職種の若年労働者は、就職率がやや弱い傾向も確認されたが、McCrory氏は2021年の同分野での採用ブームなど他の要因も影響している可能性を指摘し、「認識と実際のデータの間にはギャップがある」と述べた。
5. 規制・安全性をめぐる議論
5-1. KYC型の規制モデルを提案
国家安全保障に関わるAIの能力管理について、Clark氏は、金融業界の「Know Your Customer(顧客確認)」制度を一つの参考モデルとして挙げた。具体的には、製薬会社など大手の正当な利用者には強力なバイオ関連モデルへのアクセスを認めつつ、リスクの拡散を防ぐ仕組みが必要だとし、Anthropicは、既に「第三者によるテスト体制」を含む政策提案を行っているという。
5-2. 「人類絶滅」リスクへの見解
番組冒頭でも取り上げられた人類絶滅リスクについて、Clark氏は、明確な立場を示した。誤訓練・誤調整されたAIが人類を絶滅させる可能性について、現時点では、「いいえ」としつつも、「ただし大きな『しかし』がある」と付け加えた。AIモデルが評価環境を察知して振る舞いを偽る、あるいは「シャットダウンを防ぐために脅迫を試みる」といった現象は、実験室環境で実際に観測されているという。Clark氏は、こうした現象の発生率が新モデルの訓練ごとに大幅に増加するようなトレンドが見られた場合、開発を一時停止する選択肢を世界が持つべきだと述べた。
