Animal Spiritsが読み解く「サーキュラー」ハイパースケーラー投資の限界
金融ポッドキャスト「Animal Spirits」のマイケル・バトニック氏とベン・カールソン氏が、2026年7月14日放送回で、IBM決算ショック、ハイパースケーラーの設備投資サイクル、AI雇用への影響、そして債券市場の魅力回復まで、幅広いマクロトピックを議論した。本稿では、投資家にとって特に重要な論点を中心に整理する。
1. IBM決算ショックとハイパースケーラーの「サーキュラー」投資
1-1. IBM株、寄り付き前23%急落
放送当日、IBMが失望決算を発表し、寄り付き前の株価は23%下落した。ベン氏が、「IBMがまだ重要な企業だと本当に思わなければならないのか」と疑問を呈したのに対し、マイケル氏は、「時価総額2700億ドル、世界最大級の企業の一つがこの規模で下落するのは無視できない」と反論。「20%を超える1日での下落は、投資家にとって『市場は冷酷だ』ということを改めて示す出来事だ」と述べた。
1-2. ハイパースケーラーのフリーキャッシュフローが半導体に流出
議論は、ハイパースケーラー各社のフリーキャッシュフローと半導体企業のフリーキャッシュフローを対比させたBank of Americaのチャートに移った。マイケル氏は、これを「今年最高のチャート」と評しつつ、「ハイパースケーラーのフリーキャッシュフローが崩壊し、それがそのまま半導体企業に渡っている構図は、まるで恐喝されているようだ」と表現した。
この流れに関連し、Meta CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が、約2年ぶりにXへ投稿し、「低価格帯の強力なエージェント型コーディングモデルMuse Spark 11」の提供開始を発表したことも紹介された。マイケル氏は、「ハイパースケーラー同士が互いを出し抜き合い、価格を切り下げ合う総力戦に発展した場合、これだけキャッシュフローを投じながら収益性が上がらないのではないか」との懸念を示した。
1-3. 半導体株の異常なボラティリティ
直近50日間における半導体指数(SOX)の平均絶対日次変動率は、3.36%に達しているというデータも紹介された。マイケル氏は、「これほどの水準のスパイクは、コロナショック、金融危機、ドットコムバブル崩壊時にしか見られなかった」と指摘し、「これだけ値動きが激しいにもかかわらず、ドットコムバブル崩壊時の水準にまだ及んでいないことに、むしろ驚かされる」と述べた。
さらに、Goldman Sachsのモメンタムファクターが過去3週間で記録的な下落を見せたというデータにも言及。「セミの上昇が行き過ぎていた可能性がある」との見方が示された。
2. 「弱気になる10の理由」と「強気になる10の理由」
2-1. マイケル氏の弱気シナリオ10選
マイケル氏は、先週紹介された「強気になる10の理由」への反論として、自身で「弱気になる10の理由」をまとめた。主な論点は以下の通り。
ハイパースケーラーの設備投資の大半は「サーキュラー(循環的)」にすぎない
マグニフィセント・セブンが市場をアウトパフォームできなくなっている
AIの影響が実体経済に波及し始めている(GDP成長の押し上げ要因としてAI支出の寄与度が拡大)
個人投資家が「オールイン」の状態にある
インフレ率は依然として相対的に高い(4.2%から3.5%まで低下したものの、依然高水準)
住宅ローン金利が年初来高値付近で7%に接近
慢心(S&P500は年初から6カ月で10%上昇、前年は18%、その前年は25%、2023年は26%上昇)
AIは「バブルの条件」をすべて満たしている
17年間、本格的な景気後退を経験していない
リターンが良すぎる(過去数年で年率24%程度)
2-2. Claudeによる客観評価:「強気論の方が説得力がある」
興味深いことに、マイケル氏は、この弱気論と、先週紹介された強気論の両方をClaudeに入力し、どちらの論拠がより説得力があるか尋ねたという。「Claudeの回答は、弱気論の方がはるかに脆弱だというものだった。強気の理由は『今起きていること』である一方、弱気の理由は『起こり得ること』にすぎず、実際には起きていない、という指摘だった」とマイケル氏は紹介した。
2-3. バリュエーションは「スラムダンク」ではない
マイケル氏は、自身の弱気論リストに意図的にバリュエーション(CAPE倍率など)を含めなかったと説明。Bloombergのデータによれば、NVIDIAのPER(株価収益率)は2019年初頭以来最も割安な水準にあるという。「Nvidiaは、この4年間でS&P500やNASDAQ100のトップ10入りしていなかった企業だ」とベン氏は指摘し、「Appleが15年かけて経験したサイクルを、Nvidiaは圧縮して経験しているのではないか」との仮説を示した。
Duality Researchのデータでは、テクノロジー株のフォワードPERは10年平均・5年平均を下回り、2025年初頭以来最低水準に近いという。マイケル氏は、「多くの人が『バブルだ』と考えている最中に、テック株のバリュエーションは実際には改善している」と指摘した。
2-4. 個人投資家の「オールイン」説への反証
Vanda Research(Kevin Gordon経由)のデータによれば、個人投資家による単一銘柄の週次純買越額は、コロナ後最低水準まで落ち込んでいるという。ベン氏はこれについて「単一銘柄ETFで代替的に買われている可能性がある」と指摘した。
3. 「earnings vs バリュエーション」フレームワーク
Chart Kid Matt氏が示したデータによれば、S&P500の実績EPSは、アナリストの事前予想の5%以内に収まる確率が67%と、比較的高い精度を保っているという。予想と実績が大きく乖離するのは、景気後退時に限られ、それ以外の局面ではアナリストの利益予想は比較的信頼できるという。マイケル氏は「本気で弱気になりたいなら、景気後退を前提にせざるを得ない。それが唯一の道筋だ」と結論づけた。
一方で、両氏は、「AI支出の減速が軽度の景気後退を引き起こす可能性は十分にある」との見方も共有した。ただし「ハイパースケーラーは、まだ本格的に借入を始めてもいない。アクセルを踏み込む余地はまだ十分にある」との指摘もあった。
4. 小型株とAIトレードの広がり
Carson GroupのSonu氏の分析として、小型株(ラッセル2000)の好調自体が、「AIトレード」の一部である可能性が紹介された。ラッセル2000構成銘柄の24%が何らかの形でAIに関連しており、上半期リターンの52%が、AI関連銘柄由来だという。テクノロジーがラッセル2000に占める比率は約18%にとどまるが、次に大きい産業セクター(17%)の多くもAI関連との見方が示された。
5. 「株式市場は失敗できないほど大きい」という論点
5-1. 家計純資産に占める株式の比重が住宅を上回る
Joe Weisenthal氏の分析として、米国家計の株式エクスポージャーが過去最高水準にあるだけでなく、家計純資産全体に占める株式の割合が、いまや不動産を上回っているというデータが紹介された。マイケル氏はこれを「新常態」と位置づけ、「1980年代初頭のように株式が家計純資産の10%程度だった時代には二度と戻らないだろう」との見方を示した。
5-2. FRBによる株式買い支えの可能性
Eric Balchunas氏(Bloomberg)の分析として、「株式市場は、失敗するには大きすぎるのか」という論点も議論された。同氏は、米国民の55〜60%が株式を保有している状況を踏まえ、次の下落局面でFRBが株式を買い支える可能性を示唆したという。マイケル氏は、「日本や中国はすでにこれを実施してきた。米国でも起きても驚かない」と述べた。
5-3. 「株式市場が政治を動かす」という力学
マイケル氏は、株式市場の急落が政治的決定を促してきた過去の事例を列挙した。2008年のTARP法案否決後の急落、コロナショック時の財政出動、そして、今年の「解放の日(Liberation Day)」関税ショック後の90日間の関税一時停止決定などを挙げ、「今後、株式市場の急落はより頻繁に、より速いペースで政治的判断を強制する『フラッシュクラッシュ』として機能するようになるだろう」との見方を示した。ただし「これがうまく機能するのは、企業収益が伸び続ける限りにおいてだ。企業業績が鈍化すれば、政治家には株価を押し上げる手立てがない」と付け加えた。
6. K字型経済論への懐疑
Mike Zaccardi氏のデータとして、高所得世帯の税引き後賃金上昇率が鈍化する一方、低所得層の賃金上昇率が同水準まで追いついてきたことが紹介された。両氏は、これまで語られてきた「K字型経済」というナラティブが行き過ぎていた可能性を指摘。「経済は常にK字型であり、それは今後も変わらないが、そのナラティブを我々は行き過ぎて語っていた」との見方で一致した。
7. AI雇用への影響:「悲観論は今のところ外れている」
7-1. OpenAI CEOも認める「雇用創出」効果
Sam Altman氏の発言として、「これまでのところ、AIは純粋に雇用創出的だった。この能力水準に達すれば何らかの影響が出るだろうと予想していたが、そうなっていない」という趣旨のコメントが紹介された。両氏は、皮肉交じりに「ついにPR担当者が彼に働きかけたのだろう」としつつも、「Anthropicのダリオ・アモデイ氏が、『半年でホワイトカラー雇用が』と警告していた予測は、今のところ実現していない」と振り返った。
7-2. Indeedのデータ:Claude Code登場後、ソフトウェア求人は増加
Indeedのチーフエコノミストのデータとして、Claude Codeがローンチした2025年2月末以降、米国のソフトウェア開発職の求人件数は15%増加した一方、求人全体は同期間で7%減少したことが紹介された。この伸びのうち71%はシニア職からのもので、37%は求人タイトルに「AI」を含むものだったという。
マイケル氏は「AIが最も得意とされていたのがまさにソフトウェア開発職であり、その分野で求人が増えているというのは示唆的だ」とコメント。20〜24歳の若年層の失業率についても、2023年から2025年にかけて一時的な上昇があったものの、ChatGPTがローンチされた2022年初頭からほぼ横ばいで推移していることが指摘された。
7-3. 慎重な留保:「求人数」は正しい指標か
ベン氏は、「求人件数は適切な指標なのか」と疑問を呈し、「ソフトウェアエンジニアの人数自体が大きく減少しているというチャートを見た記憶がある」と述べた。この点についてConnor Sen氏の分析も紹介され、専門職・ビジネスサービス職の前年比雇用者数の伸びは、AIの影響というより「パンデミック期の過剰採用の反動(ブルウィップ効果)」の正常化に近い動きだと指摘されている。
とはいえ、マイケル氏は、「モデルはより強力になり、トークン消費量は増え、モデルの使い方への習熟度も上がっているにもかかわらず、ホワイトカラー雇用のトレンドは1年前より良好に見える」という点を強調。「AI悲観論者が完全に間違っていたとすれば、それは素晴らしいことだ」と述べつつ、「『もう少し待てば』という予測がいつまで通用し続けるのかは分からない」と留保も示した。
8. 債券市場の魅力回復
Pimco ETFsのレポートを引用し、固定収益市場全体で利回りが過去の水準と比べて魅力的になっていることが紹介された。ハイイールド地方債の税引き後同等利回りは9%に達しており、プライベートクレジットの利回り(同じく約9%程度)と比較検討する価値があるとの見方が示された。両氏は、「5年前であれば、この利回り水準は投資家にとって夢のような話だっただろう」と述べ、「金利上昇・高インフレ環境下では、これまで以上に大きな安全マージンを持って債券に投資できる」との見解で一致した。

