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米国医療費はなぜ高いのか——マーク・キューバンが語る構造的問題と透明性という解法

マーク・キューバン(Dallas Mavericks前オーナー、Cost Plus Drugs共同創業者)とBill Gurley(Benchmark Capital)が対話形式で米国の医療費問題を論じた。その核心にあるのは「透明性の欠如」と「利益相反が組み込まれた構造」だ。Cost Plus Drugs設立から4年を経た現在、この取り組みが示す示唆は製薬領域にとどまらず、米国医療システム全体の問題を照らし出している。


1. Cost Plus Drugsが生まれた背景


1-1. 「コールドメール」から始まった

キューバンが、医療業界に深く関わるきっかけは、2016〜17年頃のACA(オバマケア)見直し議論だった。テキサス州在住の実業家として「では代替案を」と問われたことで独自に医療費の構造を調べ始めた。そこへ、Dr. Alex Ashmayanskyから一通のコールドメールが届く。希少な小児がん治療薬など供給不足に陥った特殊ジェネリック薬の製造を手がける調剤薬局を立ち上げたいというものだった。

キューバンは、その提案自体よりも、「この業界に欠けているのは透明性だ」という気づきを得たことに意義を感じた。「信頼とは透明性を自己利益で割ったものだ」というのが彼の言葉だ。コスト開示、15%の固定マークアップ、そして誰でも確認できる価格リストの公開——この3つを柱に2022年1月にサービスを開始した。わずか111品目でのスタートから、4年で数百万人が利用するプラットフォームへと成長している。

1-2. マーケティング費用ゼロ、口コミだけで拡大

「広告に1セントも使っていない。その分、価格を低く保てる」とキューバンは述べた。最初の実証は自分が所有するDallas Mavericksだった。18か月間のジェネリック医薬品購入額を調べると、既存のPBM(医薬品給付管理会社)経由で16万9,000ドルかかっていたものが、Cost Plus Drugsなら1万9,000ドルで済んだという。このデータが説得力を持ち、他の法人・個人への展開につながった。

2. PBM(医薬品給付管理会社)とは何か——なぜ存在するのか


2-1. 「合理的な理由はない」

Gurleyの問い「なぜPBMは米国に存在するのか」に対するキューバンの答えは端的だった。「良い理由はない」。

PBMは、大手保険会社に買収され、現在は事実上その傘下に収まっている。保険会社が数億人の被保険者を抱える中、製薬メーカーに対して「私たちが管理する生活者に薬を届けたいなら、PBMにアクセス料を払え」という仕組みを構築した。「PBMが存在する理由はただ一つ、自分たちが管理する生活者へのアクセスをオークションにかけることだ」とキューバンは断言する。

2-2. 「最も救済が必要な瞬間」に高値を請求される構造

ACA(オバマケア)のシルバープランを例に挙げると、免責額(デダクタブル)は4,500〜5,000ドル程度が標準だ。血液凝固防止薬エリキュースの定価は1錠約600ドル。免責額を満たすまでの間、患者は定価で支払う義務を負う。「PBMが価格交渉で力を発揮しているとするなら、なぜ患者が最も苦しい時期に定価を払わなければならないのか」とキューバンは問う。

HRマネージャーや福利厚生担当者への講演でキューバンは必ず聞く。「PBMが行っていることの中で、あなたが手放せないほどユニークかつ差別化された機能を一つ挙げてください」——これまで手を挙げた人は一人もいないという。

2-3. フォーミュラリー支配という権力構造

PBMの核心的な力は「フォーミュラリー(薬剤採用リスト)」の管理にある。キューバンがブランド薬メーカーに「15%マークアップで取り扱いたい」と申し入れると、返答は常に「ぜひそうしたいが、大手PBMから、もし承諾するなら我々の薬をフォーミュラリーから外すと言われている」というものだ。

一例として挙げられたのがGLP-1系薬(肥満・糖尿病治療薬)をめぐるイーライリリーとノボノルディスクの入札競争だ。あるPBMがより多くのリベートを提示したノボ社を選び、リリー社の製品をフォーミュラリーから除外したという。患者にとってより効果的な薬であったとしても、支払い額が選択基準になり得るという現実を示す。

3. 医療費の構造——薬以外の「90%」の問題


3-1. 卸売業者と価格の歪み

製薬メーカーから卸売業者、薬局、患者へと流れる医薬品の流通経路も問題を抱える。卸売業者はブランド薬を定価(WAC)で仕入れ、早期支払いなどで約5%の利益を得る。この「定価を起点とした構造」が下流の価格算定を歪め、実勢価格(ネット価格)への移行を阻む要因になっている。「これは保険会社にとっても、PBMにとっても都合がいい。患者にとってだけ都合が悪い」とキューバンは述べた。

3-2. 病院・保険会社の「タイタンの戦い」

医療全体の支出に占める薬剤費の割合は約10%とされる。残る90%の問題も深刻だ。大規模病院システムと大手保険会社が市場支配を競い合う構図の中で、患者はその間に挟まれる。

具体的な例として挙げられたのが「未払い問題」だ。保険会社と病院が3,500ドルで合意した手術費用があったとする。「当然、保険会社は3,500ドルを支払うと思うでしょう。違います」とキューバンは言う。保険会社はわずかな書類不備を口実に支払いを拒否・遅延させ、病院側に立証コストを負わせる。この事務処理コストが、米国の医療費の20〜40%とも言われる管理コストの一因となっている。

3-3. 免責額と「サブプライムレンダー化」する病院

米国人の40%が手元に400ドルの現金を持たないと言われる。4,000ドルの免責額を抱えた患者が病院を訪れた場合、患者は費用の一部を支払えず、病院は実質的に「融資者」の役割を担うことになる。医療破綻の多くが「保険はあるが免責額を払えない」ケースであるという指摘は、制度の歪みを端的に表している。

4. キューバンが描く解決策——オープンソース医療


4-1. 直接契約と「スケジュールできるものは交渉できる」

Cost Plus Drugsのモデルを医療全体に拡張する試みとして、キューバンは自社の自己保険プランで直接病院と契約を結ぶ方式を採用している。「事前承認なし、現金即払い、代わりに割引を」という条件を提示すると、多くの病院が受け入れた。

さらに一つの条件を加えた。「この契約を公開させてほしい。他の会社が真似できるように」。cost pluswellness.comに契約内容を公開しており、他の自己保険企業が参照して交渉の武器として使えるようにしている。「ビジネスにしたいのではなく、オープンソースにしたい。ただ彼らを困らせたい」というのがキューバンのスタンスだ。

4-2. 規制面での突破口

現在、テキサス州とテネシー州では、Cost Plus Drugsで薬を購入した際のレシートを保険会社に提出すれば、免責額にカウントされる制度が実現している。他の48州ではこの仕組みがない。フォーミュラリーをPBMから切り離すことが最も効果的な規制改革だとキューバンは主張し、「それだけでPBMのレバレッジはすべて消える」と述べた。

4-3. ヘルスケア起業家へのアドバイス

会場からの質問に対し、キューバンは医療分野での起業の難しさを率直に語った。「消費者はまだ医療の"ショッパー"ではない」「保険会社がコスト削減を望んでいると思うのは誤解だ」——この2つが起業家がよく犯す認識の誤りだという。大企業ではなく、CEOに直接話せる中小企業から始め、結果を積み上げることが現実的な道だと述べた。

まとめ


米国医療費問題の核心は、情報の非対称性と市場支配を組み合わせた構造的な利益相反にある。キューバンが示す処方箋は単純だ——コストを見せ、マークアップを固定し、契約を公開する。医薬品領域での実績が証明するように、「透明性」はそれだけで競争環境を変え得る。問題は制度の複雑さではなく、誰もコストを見せようとしてこなかった点にある、というのがこの対話の核心的なメッセージだ。

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