「Sell America?」の正体——米国株“偏重”をほどく2026
「Sell America(米国を売れ)」という言葉は、響きが強すぎて誤解を招きがちです。Barron'sのポッドキャストStreetwiseで司会のJack Howが取り上げたのは、米国を“嫌って投げ売りする”話ではなく、米国株に偏った配分を少し整えるという、より現実的な論点でした。ゲストのLori Calvacina(Royal Bank of Canadaの米国株ストラテジスト)が語ったのは、2026年の相場観そのものよりも、投資家が「不安」と「割高感」とどう付き合うか、という実務の話です。
1. “Sell America”の正体は「米国ゼロ」ではない
このフレーズの第一のポイントは、極端な行動を意味しないことです。Calvacinaは、これを文字どおりの「米国資産を全部売る」ではなく、地域配分の調整として捉えます。つまり、
米国株の比率を「ゼロ」にするのではなく、“過去ほどのオーバーウェイトをやめる”
新規の資金(追加投資)を、米国以外にも少し振り向ける
という程度の話です。
彼女が紹介した印象的な言い回しがあります。会議のつかみとして「“Never sell short America(米国をショートするな)”」と言う人がいる、という逸話です。ここで重要なのは、“Sell America”が「米国に賭けるな」ではなく、「集中しすぎるな」に近い、という整理です。
2. なぜ今“米国偏重の見直し”が話題になるのか
2-1. バリュエーション(割高感)の相対比較
RBCの年初見通しでは、米国のバリュエーションが意識される一方、欧州は「大きく上がったのに高すぎない」可能性が示唆されました。Calvacinaは、オーストラリアやカナダなど一部の先進国も高めに見える一方で、欧州は実証的に見ると「長期平均にかなり近い」と語っています。
ここでのメッセージは単純です。“高い/安い”は絶対値より相対値で効いてくる。米国が素晴らしい年でも、「相対的に割高なら資金が揺り戻す」余地がある、という視点です。
2-2. AIとハイテク集中への“ジッター(神経質)”
2025年後半、機関投資家の間で「AIの投資はいつ生産性として回収されるのか」「利益成長の減速やバリュエーションの伸びすぎはないか」といった不安が語られた、という指摘もありました。
その文脈で出てくるのが、いわゆるMAG 7から「その他へ」というローテーション(集中の解消)です。言い換えるなら、**“米国売り”というより“米国の中の成長株/AI主導の部分が売られやすい局面”**があり得る、という話でした。
3. 「政治の話は避けたい」でも避けられない——不確実性の値付け
番組側は、World Economic Forum(Davos)の週に、Donald Trumpの演説予定を控えたタイミングで収録していました。ここで出てくるのが、「政策への懸念が米国株の逆風になるのか?」という問いです。
Calvacinaの答えは、断定ではなく市場観察でした。つまり、
市場は地政学リスクをすぐには織り込まないことがある
ただし、状況が“決定的”になると急に動く
というものです。
彼女は例としてWorld War IIを挙げ、「フランス侵攻のような決定的局面まで大きく崩れなかった」趣旨の話をしています(極端な例だが、市場の“待つ姿勢”の説明として)。また、CDCが社会の停止を警告し、Italyでロックダウンが進み、さらに日本沖のクルーズ船隔離など出来事が連続して、COVID-19の局面で市場がようやくピークアウトした、という「遅れて反応する」例も示しました。ここでの結論は、市場は“分かるまで待つ”ことがある、です。
4. 下落は4段階で考える——「恐怖のティア(Tier)」整理
本編でもっとも実務的なのが、Calvacinaの「4 tiers of fear(恐怖の4段階)」です。彼女は下落局面を、経験則として次のように分けました。
Tier 1:5〜10% …「よくある調整」
Tier 2:14〜20% …成長不安(グロース・スケア)。2010年代の複数局面や、2025年の関税ショックがここに入る
Tier 3:景気後退や大きな戦争 …Global Financial Crisis級の話に近づく
Tier 4:約50% …ITバブル崩壊やGFC級の“歴史的”ドローダウン
ポイントは、投資家心理のコントロールです。彼女は「若い投資家は“そのうち戻る”と持ち続けがちだが、深い下落は雇用や家計にも波及しうる」と示唆します。つまり、値動きの問題が、生活の問題に変わる。ここを切り分けて考えるための“定規”がティア分類です。
5. では2026年、S&P500一択の人はどう整える?
司会のHowが投げた質問は現実的でした。「株と債券の比率(60/40など)は決めている。だが株部分がS&P 500だけ。どう“着飾る”べきか?」
この問いへの示唆は、二段構えです。
地理分散(Geographical diversification)
“Sell America”より穏当な表現として、彼女は「地理分散トレード」と呼びます。米国が悪いからではなく、偏りを薄めるという発想です。米国以外(特に欧州)を、相対的なバリュエーションやローテーションの文脈で検討しうる、という話でした。米国内でも「売られやすい所」を理解する
リスクオフ(ディリスク)局面では「人は“持っているもの”を売る」。海外投資家が米国エクスポージャーを落とすとき、米国の中でもNasdaq的な成長・AI寄りが相対的に売られやすい、という観察が出てきます。ここから導ける実務は、S&P500の中身(集中度)を意識し、過度な一極集中を避けることです。
結論として、この回が教えてくれるのは「米国を売れ」という扇動ではありません。むしろ、
「米国株が強い時ほど、配分の偏りと“恐怖の深さ”を定規で測れ」
という編集可能な知恵です。相場は政治やニュースに反応“することも、しないこともある”。だからこそ、言葉に振り回されず、「分散」と「想定下落の段階」を手元に置いておく——それが2026年の“現実的な備え”です。

