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「最悪の融資は最良の時代に生まれる」——Howard Marksが語る不確実性とAIの時代の投資論

Oaktree Capital Managementの共同会長Howard Marksは、48年にわたり、ハイイールド債をはじめとするサブ投資適格債の世界に身を置いてきた。そのMarksが、AIの台頭・プライベートクレジットの変容・市場の楽観主義について、鋭い視点で語った。

本稿はそのインタビューの核心を整理する。


1. AIは「史上最も予測困難な変化」


1-1. 技術の重要性と投資の重要性は別の話

Marksは、まず重要な区別を置く。「AIが技術としてバブルではないとは言える。だがAIへの投資がバブルでないとは言っていない」

AIそのものの重要性は認めながら、投資対象としての評価は別の問いだという視点だ。

1-2. 不確実性こそがAIの本質

Marksは、投資において「何が起こるかの予測」と「その予測が正しい確率の評価」の両方が必要だと述べてきた。だがAIの登場はこの構造を一層難しくした。

「AIのもとでの生活は、私がこれまで考えてきた中で最も予測困難なものだ。そして、その重要性を与える力こそが、予測困難性をも与えている」

何をするのか、何をしないのか、どこまで人間の仕事を代替するのか、そして、大量の失業が生じた社会はどうなるのか——いずれも前例のない問いだとMarksは指摘する。

2. プライベートクレジット——「特別さ」が消えた時


2-1. 非銀行貸し手の台頭と「賢者と愚者の法則」

2011年、金融危機後に規制強化された銀行がバイアウト融資から撤退したことで、非銀行系の直接融資が台頭した。当初は資金需要が高く供給が限られていたため、高い金利と安全性を要求できた。

しかし、投資の世界には不変の法則がある。「賢者が始めにすることを愚者は終わりにする」とMarksは語る。初期の成功が注目され、参入者が増え、競争によって利率と安全基準が引き下げられる。

2-2. 「125ベーシスポイントのプレミアムは公正だが豊かではない」

インタビュー当時、パブリッククレジットの利回りが、約7%であるのに対し、ダイレクトレンディングは約8.25%だった。「125ベーシスポイントの流動性プレミアムは適切だが、けして潤沢ではない。プライベートは公的と均衡している——公正だが、それ以上ではない」

Marksはこれを「特別さが消えた状態」と表現した。

2-3. リテール投資家への販売と「カサブランカの衝撃」

プライベートクレジットが、BDC(ビジネス開発会社)などの形でリテール投資家に販売されたことについて、Marksは、映画「カサブランカ」のシーンを引用する。

「警察官がずっと賄賂を受け取ってきたバーに入り、『ここでギャンブルが行われているとは驚きだ』と言う。投資家が今不満に思っていること——流動性のなさ、時価評価のなさ——はすべて最初から分かっていたことだ。好景気の時に見落とされていたものが、状況が悪化すると問題になる」

3. 「最悪の融資は最良の時代に生まれる」——デフォルトサイクルの行方


3-1. 17年間の好景気が生んだ構造

株式市場は、2009年3月を底に反転し、以降17年間ほぼ一貫して上昇した。2020年3月のパンデミックによる急落も数週間で回復し、2022年の下落後もS&P500は概ね倍になった。

Marksは、この状況をこう分析する。「好景気は資金を投じる欲求を促し、分析・規律・高い基準・懐疑心を阻害する。代わりに、FOMO(乗り遅れへの恐怖)が支配するようになる。FOMOが懐疑心に取って代わると、悪い案件が通ってしまう」

3-2. バフェットの言葉——「裸で泳いでいたのは誰か」

デフォルトは、正常な現象だとMarksは言う。「潮が引いて初めて、誰が裸で泳いでいたかが分かる。困難な経済環境になって初めて、誰が愚かな融資をしていたかが明らかになる。その時期は先に待っている」

2020年の懸念されたデフォルト率15%は実際には5.5%に留まった。長期にわたる低デフォルト環境が、人々をデフォルトの不在に慣らしてしまったとMarksは警告する。

4. 楽観主義の証拠——Google100年債と「5年先も読めない時代」


4-1. 100年債は何を意味するのか

Googleが、5.8%で100年債を発行した事実について、Marksは、「楽観主義と信任性が支配している証拠」と断言する。

「5年先も予測できない時代に、30年や100年の見通しに基づいて融資するのは——楽観主義であって懐疑心ではない。そういう環境では超過リターンを得るのが難しくなる」

5. AIとOaktreeの関係——「AIは予測するが、答えを出さない」


5-1. Claudeに送ったメモの経験

Marksは、自身がClaudeを使った経験を率直に語る。メモを書き終え、息子の勧めでClaude(Anthropicの AI)に送ったところ、送信から2分でフィードバックが返ってきた。「驚かされた。それは本当に印象的なプロセスだった」

AIが蓄積した膨大な知識・パターン認識・論理的な一貫性・感情的バイアスのなさは評価する。「天井か底かで過度に興奮したり落ち込んだりすることがない。これは人間の80〜90%よりも優れた点だ」

5-2. それでもAIに「任せられない」理由

しかし、Marksは明確な限界も述べる。

「AIは直感を持たない。目論見書を読んで、首の後ろの毛が逆立つような感覚——それはAIには持てない」

また、長年の経験で「悪い人物を見抜く」能力——AIには再現しにくい人間的判断——が運用の成否を分けてきたとも語る。

そして、最も重要な点として、AIは「答えを出す」のではなく「予測をする」存在だと定義する。

「スマートフォンでメールを書くとき、次の単語を予測する。AIは1,000万の文章を読んで『この次にはXという単語が73.7%の確率で来る』と予測する。それは仮説だ。私はAIの言うことを基に人のお金を投資しようとは思わない」

人間がその仮説を検証・判断する役割は残るが、その検証に人間の誤りが再び入り込む。それでも人間の判断は不可欠だとMarksは結論づける。

6. 「最も過小評価されていること」——BlockのAIによる40%削減


最後に、Marksは強い言葉で締めくくった。

「18日前の金曜日、従業員1万人のBlockという会社が、4,000人を削減すると発表した。AIがより安く、より速くその仕事をできるからだという理由で、1日で40%の従業員が消えた。これが何を意味するか、本当に理解している人がどれだけいるだろうか」

まとめ——「慎重に、しかし積極性の準備を」


Marksの投資スタンスは「慎重」だ。ただし、それは永続的な守りではない。「私たちは過去のサイクルで積極的になってきた。その時が来たとき、地球上で最も積極的な——おそらく唯一積極的な——存在になりたい」

今の市場には、FOMOが懐疑心を凌駕している兆候が多い。それでも何かが崩れたとき、「十分に安くなった資産」を見極める目と行動力を持っておくこと——これが48年の投資経験が教える唯一の答えかもしれない。

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