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Coinbase CEOが語る金融の未来——ステーブルコイン・AIエージェント・長寿バイオ

ノルウェー政府系ソブリン・ウェルス・ファンドのCEO Nicola Tangenによるポッドキャスト「In Good Company」に、Coinbase共同創業者兼CEOのBrian Armstrongが登場した。

暗号資産取引所のトップとして知られるArmstrongだが、対話の内容はCoinbaseのビジネス戦略から、AIエージェントによるステーブルコイン決済、さらには長寿バイオテクノロジーへの投資まで幅広い。本稿ではその核心を整理する。


1. 「金融システムは壊れている」——起業の原点


1-1. AirbnbとアルゼンチンでみたInequalityの現実

ArmstrongがCoinbaseを創業するに至った背景には、二つの体験がある。

一つは、Airbnbでのエンジニア経験だ。190カ国に送金する必要があったが、例えばウルグアイへの送金には7〜10%の手数料がかかり、3〜5営業日かかった。

もう一つは、ブエノスアイレスでの1年間の生活だ。「アルゼンチンがハイパーインフレを経験するのを目の当たりにした。高インフレは社会の最貧困層を最も傷つける。それが文化全体をどれほど変えるかを実感した」

この体験がビットコインのホワイトペーパーへの関心を生み、2010年12月に初めて読んだ際に「これは最近読んだ中で最も重要なものかもしれない」と感じたという。

2. ステーブルコインが「過小評価」されている理由


2-1. 決済の3条件をすべて満たす唯一の手段

Armstrongは、決済手段を「コスト・スピード・グローバルリーチ」の3軸で評価する。

クレジットカードはグローバルリーチがあるが、手数料が2〜3%かかる。Swiftはグローバルに使えるが、2〜3営業日かかる。一方でステーブルコインは、「この3条件すべてを満たす唯一の決済手段だ。1秒以内に世界中に送金でき、コストは0.1セント以下。水のように最も抵抗の少い道を流れる」と述べた。

2-2. 「100〜1,000倍の成長余地がある」

現在のステーブルコイン市場規模は、約3,000億ドル。これに対し、マネーマーケットファンドは7兆ドル、連邦準備銀行に預けられた銀行の準備金は3兆ドルだ。

「ステーブルコインが銀行預金を脅かすという議論が出るが、数字を見れば規模が全く違う。3,000億ドルは7兆ドルに比べてごく小さい」とArmstrongは指摘し、デジタルドルが「100〜1,000倍」成長する余地があると述べた。

2-3. 国債需要を生むステーブルコインの構造

米国のステーブルコイン規制では、発行体は90日以内の短期米国債(Tビル)を裏付けとして保有する必要がある。現在、ステーブルコインは米国債保有者ランキングで16位に相当する規模に達しており、Armstrongは、「米財務長官からすれば、ステーブルコインの拡大は、米国債への需要が増えることを意味する。ドル建てのものが多いため、米ドルの基軸通貨としての地位を強化することにもなる」と述べた。

3. AIエージェントとステーブルコインの交差点


3-1. AIエージェントは「銀行口座を持てない」

Armstrongが最も力を込めて語った新領域が、AIエージェントによるステーブルコイン決済だ。

「将来、AI エージェントの数は人間よりも多くなると私は考えている。しかしAIエージェントは銀行口座を開設できない——KYCには政府発行のIDを持つ人間が必要だからだ。一方でAIエージェントはステーブルコインウォレットを持つことは完全に可能だ」

Coinbaseは、そのためのインフラを整備した。旅行の予約・AWSのリソース確保・GitHubのドメイン登録など、AIエージェントがユーザーの代わりに様々なタスクをこなし、そのたびに決済が発生する。さらにエージェント同士がエージェントに対して決済するという「マシン・ツー・マシン」の支払いも始まっている。

3-2. 5ヶ月で1億トランザクション

Coinbaseが、約5ヶ月前に公開したX42プロトコル(エージェント間のウェブリクエストにステーブルコイン決済を付加できる仕組み)は、すでに1億件のトランザクションを処理した。

「まだGDPの一定割合を占める規模ではないが、急速に成長している。年2〜5倍のペースで成長すると予測している」とArmstrongは述べた。

4. Coinbase内部のAI活用——「試さない人はクビにした」


4-1. コードの50%以上がAI生成

現在のCoinbaseでは、エンジニアが書くコードの50%以上がAIによって生成されており、カスタマーサポートチケットの60%がAIによって対応されている。また、コンプライアンス業務のコスト削減にもAIが大きく貢献しているという。

4-2. 「週末ミーティング」という強いメッセージ

AIツールの社内展開については、あるエピソードを率直に語った。エンジニアのAI採用率が70%程度で止まった際、Armstrongは、「週末に未採用者向けのCEO主催ミーティングを設定する。参加できない・理由がない場合は……」というメッセージを送った。最終的に1人が解雇されたが、これが明確なトーンを示した。

「これは『好奇心を持ち続けなければ、この会社では生き残れない』というメッセージを明確に出すためだった」

5. 長寿バイオへの投資——「2030〜2035年に突破口」


5-1. New Limitとエピジェネティック・リプログラミング

Armstrongは、自己資金でNew Limitというロンジェビティ(長寿)バイオテク企業を共同創業している。中心技術は「エピジェネティック・リプログラミング」——細胞を若い頃の機能状態に戻すという手法だ。

「3年以内に人間の細胞を若い状態に戻すことに成功した。来年には最初の薬物の臨床試験開始を目指している」

5-2. 「ロンジェビティ・エスケープ・ベロシティ」という概念

Ray Kurzweilが提唱するこの概念——生きている1年ごとに、科学が1年分の寿命を延ばすことができるようになる状態——について、Armstrongは**「50%の確率で我々の世代のうちに到達できると思っている」**と述べた。

AIによる細胞モデルのシミュレーション・シングルセル・マルチオミクスのコスト低下(ムーアの法則に近いペース)が、この実現を後押しするという。

まとめ——「金融・AI・生命科学」をつなぐ視点


Brian Armstrongの思考の特徴は、暗号資産・AI・バイオテクノロジーを一本の線でつないでいる点だ。ステーブルコインはAIエージェントの決済インフラになり、AIは生命科学の実験コストを劇的に下げ、長寿技術は将来の人間社会の前提を変える。

投資家として注目すべき論点は三つだ。ステーブルコイン市場の成長余地(現在の100〜1,000倍)、AIエージェント向け決済インフラという新しいTAM、そして2030〜2035年に臨床試験が本格化する長寿医療の波——それぞれが独立したテーマでありながら、Armstrongはそれを一つの「文明の進歩」として語っている。

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