創業13年で「最もエキサイティングな瞬間」——上場1年目のFigma CEOが、Anthropic提携で賭ける「Code to Canvas」戦略
「AIが何でもできるようになったとき、あなたの製品は何のために存在するのか?」
これは、2026年2月現在、すべてのソフトウェアCEOが直面している問いだ。多くは明確な答えを持っていない。AI機能を埋め込んで凌ごうとする企業、コスト削減に走る企業、現実を否認する企業——そんな中、Figma CEOのDylan Fieldは、「破壊者と組む」という選択をした。Anthropicとのパートナーシップを発表し、Claude Codeで生成されたコードを直接Figmaのキャンバスに変換できる「Code to Canvas」機能をリリースした。破壊されるのではなく、破壊の一部になる——その戦略の全貌を、彼自身の言葉から読み解く。
1. 「AIから逃げるのではなく、AIに向かって走る」選択
1-1. Anthropicとのパートナーシップがもたらすもの
Figmaは、既に、デザインからコードへの変換機能を持っていた。Dev ModeやMCP(Model Context Protocol)を通じて、Figmaのデザインファイルをコードに落とし込める。今回の「Code to Canvas」はその逆の流れを実現する。
「Claude Codeのようなツールで生成されたコードを、Figmaキャンバスで完全に編集可能なデザインに変換できる。チームで比較し、議論し、最終的なプロダクトの見た目や感触を決められる」
Dylan Fieldが強調したのは、往復(round-trip)というコンセプトだ。ブレインストーム→デザイン→コードという一方向のリニアなプロセスは既に崩壊している。今は、誰もが異なるフェーズを行き来しながら働いている。
1-2. 「12ピクセルを14ピクセルに変える」のにプロンプトは不適切
Dylan Fieldは、AIツールの限界を率直に認めた。
「プロンプトでアイコンの幅を12ピクセルから14や16に変更しようとするのは、そもそも間違ったツールだ。直接操作できる共有キャンバスが必要で、そこでチーム全員が鳥瞰図を見ながら協働し、アイデアを拡張できる」
これは重要な指摘だ。AIエージェントが万能に見える今でも、視覚的な微調整や複数案の並列比較には、人間が直接触れるインターフェースが不可欠だということだ。
2. 「テイスト」という最後のモート
2-2. 「速く作る」だけでは不十分な時代
インタビュアーのGeorgiaが核心を突いた。「AIがあなたの製品と同じことをできるとき、なぜFigmaが必要なのか?」
Dylan Fieldの答えはこうだ。
「今は何でも非常に速く作れる時代だ。だから、ただ作るだけでは不十分だ。正しいものを作らなければならない。『十分に良い、動く』だけでは足りない。何を作るべきかを考えるとき——それがデザインの世界だ」
彼が繰り返し強調したのが、「テイスト(taste)」「クラフト(craft)」「視点(point of view)」というキーワードだ。これらは、週末に議論のトレンドになったトピックでもあり、Figmaは何年も前からこれを主張してきたという。
2-2. ソフトウェアは指数関数的に増える——だからこそデザインが必要
Dylan Fieldは、ソフトウェアの未来をポジティブに捉えている。
「世界には、これから指数関数的にソフトウェアが増える。この傾向は既に始まっていて、今は垂直に立ち上がっている。だからこそ、ソフトウェアの未来はこれまで以上にエキサイティングだ」
ソフトウェアが溢れる世界では、「正しいものを選ぶ能力」が価値になる。無限の選択肢から最適解を引き出すには、並列比較と視覚的思考が不可欠で、そこにFigmaの存在意義がある。
3. 最大の誤解——「最初のプロンプトが最終出力だと思うこと」
3-1. AIの出力は「粘土」である
Georgiaが、「AIで製品をデザインする際の最大の誤解は何か?」と尋ねたとき、Dylan Fieldは即答した。
「最初のプロンプトが最終出力だと思うことだ。画像生成でもコード生成でも、AIの出力は粘土のようなもので、それを成形していく必要がある。一発でプロンプトを打って完璧なものが出てくる、と思うのは間違いだ」
Figmaが買収したWeevyを例に挙げ、彼は、ノードベースの編集システムを説明した。複数のモデル出力を変換しながら、パイプラインを構築し、最終的に素晴らしいソリューションに到達する——それがプロセスだ。
3-2. 検証不可能なタスクには人間が必要
Dylan Fieldは、「AIエージェント」という言葉の多義性にも触れた。
「デザインや創作のような検証不可能(non-verifiable)なタスクには、本質的に人間が必要だ。エージェントを今日完全に信頼するのは非常に勇敢だと言わざるを得ない。まだ完璧ではないからだ」
彼は「監査可能性(auditability)」を重視する。たとえAIエージェントが代わりに働くとしても、人間が監査できる形式で結果を確認する必要がある。そして、エージェントが人間と並走する世界を提案した。Figmaのマルチプレイヤーキャンバスのように、エージェントのカーソルが画面上を動き、何をしているのかリアルタイムで見える——そんな未来だ。
4. SaaS企業が持つべき3つのモートとは何か
4-1. 「独自データ、規制ロックイン、トランザクション組み込み」の外側
Georgiaが引用したのは、SaaS企業の生存条件に関する長文ポストだ。そこでは、「独自データ」「規制ロックイン」「トランザクションへの組み込み」の3つがモートとして挙げられていた。
Dylan Fieldの答えは柔軟だった。
「Figmaには、いくつかのモートがある。ただし、ユーザーを一つのワークフローに閉じ込めることを神聖視すべきではない。今日の賭けは、どこから始めてもいい、どこへでも行けるという哲学だ。ナプキンのスケッチから始めても、シャワー中の思いつきから始めても、デザインキャンバスやコードから始めても、必要な場所に移動できる。これがUnix哲学だ」
これは、「Start Anywhere, Go Everywhere」というビジョンだ。閉じたシステムではなく、オープンなシステムを受け入れることが、ソフトウェア企業にとって根本的に重要だと彼は述べた。
4-2. 上場CEO1年目の教訓
Dylan Fieldは、2025年に上場し、2026年2月時点でCEO歴1年未満だ。Georgiaが「ボラティリティの中でどう感じているか?」と聞くと、こう答えた。
「ボラティリティは、長期的には企業を強くすると思う。もちろん、生き残った企業だけが見えるというサバイバーシップバイアスはあるが、我々は生き残るだけでなく、優れた存在になる」
彼は社内で株価について話さないと明言した。
「インプット(投入)を我々がコントロールする。毎日現れて、できる限り全力で働き、顧客にとって正しいものを作る。それ以外のことは勝手に解決する」
5. 中国モデルとの向き合い方
5-1. ByteDanceのSeaArt 2.0が示す現実
Georgiaは、最近バイラルになったByteDanceの動画生成モデル「SeaArt 2.0」について尋ねた。DisneyとParamountが差し止め請求を出すほど高品質だという。
Dylan Fieldの答えは、技術的課題を指摘するものだった。
「拡散モデルによるメディア生成では、まだ何かをターゲットにして『これを変えたい、こう変えたい』と直接操作する能力が欠けている。素晴らしいものは作れるが、操縦とコントロールができない」
5-2. 中国モデルをFigmaで提供するか
Georgiaが踏み込んだ質問をした。「中国のモデルが最良のツールになったら、提供するか?」
Dylan Fieldは慎重だった。
「現在、中国モデルの提供はしていない。すべてのモデル——アメリカ、中国、ヨーロッパ——を監査し、基準を満たしているか確認する必要がある。業界全体が解釈可能性(interpretability)を向上させ、モデルが安全かつセキュアであることを確認できるようにすることが重要だ」
おわりに——「13年で最もエキサイティングな瞬間」
インタビューの最後、Dylan Fieldはこう締めくくった。
「これだけ多くの人が何かを作っている今、デザインを正しく行うことがますます重要になっている。頭の中にあるものを画面に出し、フィードバックループを回し、探索して最良の解決策に到達する——このビジョンにとって、過去13年間で最もエキサイティングな瞬間だ」
破壊の時代は、同時に創造の時代でもある。Figmaが賭けるのは、AIが生成したものを人間が選び、磨き、完成させるプロセスの価値だ。そして、そのプロセスが失われない限り、Figmaには居場所がある。
