米商務省、Anthropic「Mythos 5」を100社超に解禁 ― 6月12日の禁輸から2週間で方針転換
2026年6月26日、米国のフロンティアAIモデルを巡る規制の枠組みが、一段大きく動いた。Trump政権がAnthropicの最強サイバーセキュリティモデル「Mythos 5」を100社超の米国企業・政府機関に限定的に解禁する一方、OpenAIは、新世代モデル「GPT-5.6」シリーズの公開を、政府要請を受けて「信頼できる少数のパートナー」に限定すると発表した。AIモデルのリリースに対する政府関与が事実上の「ライセンス制」に近づいているこの流れは、投資家にとって無視できない政策リスクである。 TechCrunch
1. AnthropicのMythos 5、100社超に限定解禁
Anthropicは6月12日以降、サイバーセキュリティに強いモデル「Mythos 5」と一般公開版「Fable 5」を市場から取り下げていた。背景には、これらモデルのガードレールがセキュリティリサーチャーによって容易に回避されたとされる事案があり、政府が公開停止を要請した経緯がある。
それから約2週間、商務省は方針を緩和した。商務長官のHoward LutnickがAnthropicのチーフ・コンピュート・オフィサーTom Brown宛に書簡を送り、「適切なセーフガードが整っているため、信頼できる一部パートナーがClaude Mythos 5モデルにアクセスすることを許可すると判断した」と通知した。 TechCrunch
1-1. 解禁の範囲と「非米国籍社員」の扱い
報道によれば、100以上の米国企業・政府機関に加え、それら組織の非米国籍社員、さらに、Anthropic自身の非米国籍社員も対象に含まれる。当初の禁輸措置では非米国籍者へのアクセスが一律で禁じられていたため、これは実務上の大きな譲歩と言える。
ただし、一般公開版にあたるFable 5の扱いは今回の指令には含まれていない。Anthropicは公式Xで「6月12日以降、米政府と協議を続けてきた。重要インフラを運用・防衛する米国組織向けにMythos 5を再展開できる」と発表しつつ、Fable 5の一般公開復活に向けて協議を継続中であることを明かした。
2. OpenAI GPT-5.6、政府要請で限定公開
同じ6月26日、OpenAIは、次世代モデル「GPT-5.6」シリーズを発表した。ラインナップは、フラッグシップの「Sol」、日常用途向けにバランスを取った「Terra」、低コスト高速モデル「Luna」の3種。だが、リリースは大規模公開ではなく、Trump政権の要請を受けて「政府と共有されたパートナー」のみが利用可能なプレビュー形式に絞られた。
2-1. OpenAIの「異例の反論」
OpenAIは、政府要請に従ったものの、公式ブログで明確な不満を表明した。
「この種の政府アクセスプロセスが長期的な既定路線になるべきだとは考えていない。これは最良のツールを、必要としているユーザー、開発者、企業、サイバー防衛者、グローバルパートナーから遠ざけてしまう」 TechCrunch
このプレビューは「短期的なステップ」であり、政府と協力してサイバーセキュリティに関する新たな大統領令の枠組みと、将来のモデルリリースに向けた「再現可能なプロセス」を策定中だとしている。
2-2. GPT-5.6 Solの性能と価格
OpenAIによれば、GPT-5.6 Solは、同社史上最強モデルで、コーディング、生物学、サイバーセキュリティでエージェント能力が向上している。「max」推論モードと、複数のサブエージェントを協調させて複雑タスクを解く「ultra」モードを新たに導入した。
ベンチマーク面では、コーディングワークフローでAnthropicのClaude Mythos 5をわずかに上回り、Mythos previewと競争力があり、出力トークン数は3分の1で済むとされる。
価格は階層化されており、Solは入力100万トークンあたり5ドル、出力30ドル。Terraはその半額、Lunaは入力1ドル・出力6ドル。プロンプトキャッシングの改良により、繰り返しプロンプトのコスト予測性も改善している。
3. 事実上のライセンス制が生む政策リスク
今回の動きの本質は、フロンティアAIモデルが事実上、政府の事前審査を経るレジームに移行しつつあることだ。元ホワイトハウスAI顧問で、近くOpenAI入りするとされるDean Ball氏は、Trumpの最近の大統領令――特定のAI企業に対し、最先端モデルをリリース前の最大30日間、政府レビューに自発的に提出することを求める内容――が「事実上の非自発的ライセンス制」を作り出していると指摘する。 TechCrunch
3-1. 投資家が押さえるべき三つの論点
第一に、リリース遅延リスクである。Ball氏は政府側に明確な安全基準が定義されていない場合、リリース遅延が無期限化し、中国に対するAIレースで米国が後手に回るリスクと、AIインフラ投資の数十億ドル規模の正当性が揺らぐリスクを併せ持つと警告する。
第二に、安全設計の方向性だ。OpenAIはFable 5で発生した「過剰ブロック」の轍を避けるべく、Solでは安全ガードレールを別レイヤのフィルターではなくコアモデルの挙動に直接組み込み、敵対的攻撃に対する堅牢性を高めた上で、攻撃的な悪用ではなく防御的なサイバーセキュリティ作業に最適化されていると説明する。Anthropicは高リスクトピックを検出すると古いモデルにルーティングする設計を採っていたが、これがユーザーの反発を招いた経緯がある。
第三に、競争環境の変化である。AnthropicとOpenAIの主導権争いはもはや「どちらがより強いモデルを出すか」ではなく、「どちらが政府との関係を巧みに運用するか」という政策ゲームに比重を移しつつある。IPOを控える両社にとって、規制リスクの説明責任は投資家との対話で避けて通れないテーマになるだろう。
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