AIバブルは崩壊しない——2025年に見えた「本当の勝者」と次の主戦場
AIバブルは崩れるのか——この問いに対して、2025年の現場感は少し意外な方向に進みました。Y Combinator(YC)の関係者が語るのは、「AI経済が安定し、モデル層・アプリ層・インフラ層の“役割分担”が見えてきた」という実感です。つまり、単なる熱狂(=バブル)ではなく、投資と競争が“次の普及局面”を準備している、という見立てです。
1. AI経済は「不安定」から「安定」へ——2025年の地殻変動が止まった理由
2023〜2024年は、数か月待てば「大発表で前提が覆る」状態でした。しかし、2025年は、モデルが漸進的に改善しつつも、世界をひっくり返す級の更新が連発するフェーズではなくなった。結果として、AIネイティブ企業の作り方に「相対的なプレイブック」が生まれた、と語られます。
その副作用も重要です。以前は「待てば新しいアイデアが降ってくる」空気がありましたが、今は「アイデア発掘が通常難度に戻った」。これは成熟のサインで、過剰な夢物語が減り、事業としての勝負が始まったとも言えます。
2. “モデルの覇権”は固定じゃない——YCでOpenAIからAnthropicへ「交代」が起きた
象徴的なのが、YC最新バッチでの「好みのLLM」の変化です。これまで圧倒的だったOpenAIに対し、直近バッチではAnthropicが上回った、という話が出ます。しかも短期のブレではなく、ここ3〜6か月で“ガードチェンジ”が進んだという。
背景として挙げられるのは、いわゆるvibe coding(雰囲気で書けるコーディング)やコーディングエージェントの隆盛です。発言のニュアンスはこうです——「コーディング領域で強いモデルが、結果的に創業者の“デフォルト”になっていく」。たとえプロダクトがコーディング用途でなくても、創業者が日常的に使い慣れたモデルが選ばれやすい、という“染み出し効果”が起きる。
3. Gemini浮上の本質は「推論」だけじゃない——検索・実世界データとの接続
Geminiも伸びています。前年は一桁%だったものが、直近では2割台まで上がったという言及がありました。ここで重要なのは、性能比較が「純粋な賢さ」だけで決まっていない点です。
ある発言では、Geminiを“検索の置き換え”に使うようになった理由として、grounding(根拠付け)やGoogleのインデックスを使ったリアルタイム性への信頼が語られます。対比として「速いが外すことがある」ツールより、「少し遅くても当たりやすい」方を選ぶ、と。これは消費者向けAIが“便利”から“信用”のフェーズへ移っているサインです。
4. 「モデルを乗り換える」のが普通になる——オーケストレーションと自社evalがモート化
さらに面白いのは、シリーズB級の会社ほど“特定モデルへの忠誠”を捨てている、という観察です。創業者たちは、モデルを抽象化するオーケストレーション層を作り、「タスクごとに最適モデルを差し替える」運用へ。
ここで鍵になるのが、彼らが持つ独自の評価(eval)です。規制産業のような領域では、データセットも評価軸も自社固有になり、勝ち筋は「どのモデルを使うか」より「どう測り、どう切り替えるか」に移る。つまり、モデルのコモディティ化が進むほど、アプリ層は有利になり得る。
5. AIバブル論の“答え”——潰れるのは一部、得するのは次のYouTube
バブルか否かは、立場で意味が変わります。GPUやインフラを抱える側(例:NVIDIAのような供給者)には死活問題でも、学生起業家やアプリ層にはむしろ追い風になり得る。発言は通信バブルの比喩で説明します。90年代の過剰投資(ダークファイバー)があったからこそ、帯域が安く余り、YouTubeのような新サービスが成立した。
同じことがAIでも起きるなら、過剰な計算資源の積み上げは「次の巨大アプリ」を生む土台になります。結論として、AIバブル論は「インフラ投資家の問い」であり、アプリを作る側には「チャンスの年表」になっている、という整理です。
6. まとめ:2026年の焦点は「誰が賢いか」より「誰が切り替え上手か」
2025年の核心は、AI経済が“安定した”ことでした。モデルの勢力図は動くが、勝ち方が見えた。だからこそ、次に効いてくるのは派手な覇権争いより、
信用できる根拠(grounding)
自社evalによる最適化
乗り換え前提の設計(オーケストレーション)
の3点です。
AIバブルの真実は、「崩壊するか」ではなく、「余剰が生む“次の当たり前”を誰が掴むか」にあります。

