Bill Ackman氏、Microsoft株を22%割引で調達 ― Google売却の裏側を語る
著名ヘッジファンド、Pershing Square Capital Managementの創業者Bill Ackman氏が、ポッドキャスト「Money Rehab」に出演し、AI投資の行方からマクロ経済リスク、さらには、自身のポートフォリオ戦略まで幅広く語った。番組冒頭でAckman氏は、長期投資家として成功する鍵は「誰もがパニックに陥っている厳しい市場局面を生き延びる能力にある。むしろ他者がパニックになっている時にこそ、投資できる資金を持っておくべきだ」と述べている。本稿ではこの対談の要点を整理する。
1. 現在の経済 ― 「AIが主役」の時代
Ackman氏は、現在の経済状況について「歴史上異例の時代」であり、その最大の物語はAIだと指摘する。AIは、低コストで幅広い層に知性へのアクセスをもたらし、莫大なインフラ投資を引き起こしているという。土地の争奪戦のように、企業がデータセンター用地を取得し、GPUやメモリで埋め尽くしている現状にも言及した。同氏は、AIによる雇用破壊を懸念する声がある一方で、「経済成長と雇用成長の大きな推進力になる。ただし、ツールの使い方を学ぶ必要がある」との見方を示している。一方で、低所得層が、インフレに苦しむ「二極化した経済」である点も指摘し、楽観一辺倒ではないとした。
2. OpenAI・Anthropic・SpaceX ― AI競争の勝者は誰か
2-1. Anthropicへの評価、OpenAIへの懸念
AI企業の勝者について問われたAckman氏は、「Anthropicは、フロンティアモデルのリーダーであり、最近黒字化したビジネスを構築しているようだ。それは印象的だ」と評価する一方、OpenAIについては、「今後も相当な損失が続くとの予測」に懸念を示した。さらに、オープンソースモデルの性能が向上し、人々が低コストまたは無料のモデルで多くの重要な問いに答えられるようになりつつある以上、「フロンティアモデル企業に賭けることには、あまり確信が持てない」と率直に述べている。
2-2. SpaceXは「価格次第」
SpaceXについては、Starlink事業が非常に高収益で、世界の衛星通信においてほぼ独占的な地位を築いていると評価。10万台規模のGPUを借りられる数少ない場所の一つであり、それらの資産から高いリターンを得ているとした。ただし、「1兆ドル、あるいは6〜7千億ドルという評価では、半額で買える場合に比べてアップサイドは小さい」とし、Pershing Squareのポートフォリオには含まれていないと明かした。理由は、同社が求める「予測可能性の高さ」をSpaceXが満たしていないためだという。
3. 「優良ビジネスは債券に似ている」という投資哲学
Ackman氏は、自身の投資哲学を、株式を債券になぞらえて説明する。PER20倍の株は、逆数を取れば5%の「利回り」を生む投資と捉えられ、問題はその利回りが将来成長するか、あるいは競合に破壊されるかだという。同氏は、財務レバレッジを多用せず、株式市場が10年間閉鎖されても喜んで保有し続けられるような、時の試練に耐えるビジネスに投資すべきだと繰り返し強調した。
3. Pershing Squareの12〜15銘柄 ― 「退屈な優良株」戦略
Pershing Squareはポートフォリオを12〜15銘柄に絞り込んでいる。Ackman氏によれば、Amazon、Meta、Uber、Microsoftなど、以前から欲しかったが割高で買えなかった銘柄が、最近になって手の届く価格になったことで組み入れられたという。市場の資金が半導体やメモリなど「最近儲かった場所」に向かいがちな中、同社は今後3〜5年で高い複利リターンが見込める「耐久性のある複利成長株」に焦点を当てているとした。
4-1. Microsoft株を22%割引で取得する方法
Ackman氏は、資産運用会社Brookfieldについても、資本集約度が低くロイヤルティ的なリターンを生むビジネスとして高く評価した。データセンター建設に資本が流入する中、Brookfieldは、その恩恵を受ける立場にあるという。さらに興味深いのは、同社が保有する公開取引型ファンド「PSUS」の活用法だ。Ackman氏は、Microsoft株が387ドルで取引されている状況で、PSUSは、資産価値に対して22%のディスカウントで取引されており、実質的にMicrosoft株を310ドル相当で取得できると説明。実際に同社は最近Microsoft株を20億ドル分購入し、その資金を捻出するためAlphabet株の一部を売却したことも明かしている。
4-2. Google売却の理由
Alphabet株の売却について、Ackman氏は、「素晴らしいビジネスだと思わなくなったからではなく、株価が上昇した結果、今後のリターンがMicrosoftへの資金再配分で得られるリターンより低いと判断したため」と説明した。
5. AIバブルは存在するのか
Ackman氏は、シード段階で評価額20億ドル、製品も収益もまだない状態でありながら次のラウンドで50億ドルの評価額を目指すスタートアップの例を挙げ、「次のAnthropicを探す莫大な資本が存在する」ため、この領域の競争は非常に激しくなると指摘した。プライベート市場での評価額が本来あるべき水準を大きく上回るリスクは認めつつも、Anthropicのようにゼロから数百億ドル規模の収益へと短期間で拡大する「これまでにない現象」が実際に起きている以上、より高いプライベート市場評価も正当化されうるとの見方を示している。
6. マクロリスク ― レバレッジと財政赤字
次の金融危機について問われたAckman氏は、市場に多くの高レバレッジのプレイヤーが存在する点を最大のリスクとして挙げた。「市場にとって最大のリスクは、非常にレバレッジをかけたプレイヤーが多数存在し、何らかの外的ショックによって株価が大きく下落するリスクにさらされていることだ」という。また、米国が抱える約34兆ドルの国家債務と財政赤字が、AIインフラブーム下での旺盛な資金需要と重なり、金利上昇のリスクを高めていると指摘した。株の担保借入(マージン)についても強く警鐘を鳴らし、カール・アイカーン氏が自社株に高レバレッジをかけた結果、純資産が200億ドルから3〜4億ドルにまで急減した例を引き合いに出している。
7. Bullish or Bearish ― 個別テーマへの一問一答
番組終盤の「強気か弱気か」のコーナーでは、Ackman氏は、金・ビットコインについては、「投機的資産であり、利回りを生まないため投資対象とは考えていない」としつつ明確な意見は持たないとした。Chipotleについては、過去に食品安全危機の際に投資しCEO招聘に関わった経緯を明かし、Starbucksについては「非常に有能なCEOが率いているが、長期にわたる値上げで顧客体験が悪化した」と評価。トランプ大統領については、「早い段階から支持しており、任期後半に楽観的」と述べる一方、ニューヨーク市の新市長Mamdani氏については「弱気」との立場を明確にし、著名投資家ケン・グリフィン氏がマイアミへの拠点シフトを強めている例を挙げつつ、ニューヨークの資本流出を懸念していると語った。
8. 若い投資家へのアドバイス ― 「複利」と「長期視点」
新しい投資家への助言を問われたAckman氏は、オプション取引やレバレッジ、投機的なビジネスで手早く儲けようとすることの危険性を指摘し、複利の力を理解することの重要性を強調した。1960年代に48ドルだったBerkshire Hathaway株を例に、大きな富は一夜にして築かれるものではないと述べている。また、消費者としての実体験こそが投資のヒントになるとし、Uberの例を挙げて「最も低コストで目的地まで運んでくれる選択肢を消費者は選び続ける」との見方を示した。

