IBM株、1日で25%急落 ― 過去最悪の下落率でソフトウェア株全体に波及
2026年7月17日週、米国では、大手銀行の決算発表が本格化し、投資家の間で懸念されていた信用サイクルの行方に一定の材料が示された。著名投資家Steve Eisman氏は、自身のポッドキャスト「The Weekly Wrap」にて、IBMの急落、PayPalやCircleを巡るステーブルコイン競争、そして、大手銀行の決算内容を横断的に分析している。本稿では、その内容をビジネスパーソン・投資家向けに整理して紹介する。
1. IBM急落が示す「短期的SaaSアポカリプス」
これまで投資家の間では、AIがソフトウェア業界に長期的に与える悪影響、いわゆる「SaaSアポカリプス」への懸念が語られてきた。しかし、今回のIBMの決算は、その影響がすでに短期的にも表れ始めていることを示した。
IBMは、事前発表でEPS2.93ドル(市場予想3.01ドルに対し未達)、売上高172億ドル(予想179億ドルに対し未達)という結果を示した。Eisman氏は、「IBMほどの規模の企業がEPSと売上高の両方で予想を下回るのは異例だ」と指摘する。
原因について、IBM経営陣は、AI需要による半導体・機器価格の急騰を挙げ、「6月最後の数週間で、顧客が価格上昇を見越し、供給制約のあるインフラを確保するため、四半期の設備投資をサーバー・ストレージ・メモリ購入へとシフトさせるのを目にした」と説明した。
この発表を受け、IBM株は、7月15日に25%急落し、これは同社にとって過去最悪の下落率となった。この動きはソフトウェアセクター全体を巻き込んだ。同様の傾向は、通信機器大手Ericssonの決算(利益7%減、売上6%減)にも見られた一方、半導体製造装置メーカーのASMLは、AI需要の恩恵を受け、好決算とガイダンス引き上げで株価上昇となった。
2. Circle・PayPalに見るステーブルコイン競争の激化
決済領域では、ステーブルコイン発行企業Circleを巡る動きが注目された。Circleは、USDC(ドル建てステーブルコイン)を発行し、顧客から受け取った資金を短期米国債で運用することで得られる利息を主な収益源としている。
6月30日、Stripe・Visa・Mastercard・Coinbase・BlackRockによる新たなステーブルコイン連合が発表されると、Circle株は、同日17.5%下落した。その3日後、Circleが信託銀行としての認可を取得したことが伝えられ、株価は5%上昇したが、Eisman氏は、「VisaとMastercardが連合に加わったことの重要性は過小評価できない」と述べ、決済インフラへの参入障壁の高さを踏まえると、後者のニュースのほうが重要だとの見方を示した。
Circleは、2025年6月5日に31ドルで上場し、同年6月23日には270ドル近くまで急騰したが、現在は63ドル前後で推移している。Eisman氏は、「Circleは、単独でこれらの巨大企業と競争するには小さすぎる」とし、より大きなプレーヤーとの提携、あるいは売却を検討すべきとの私見を述べた。
同様に決済大手PayPalについても、2021年夏に300ドルの高値をつけた後、直近では47.37ドルまで下落していたところ、StripeとAdventによる1株60.50ドルでの買収検討という未確認情報が報じられた。これは2026年予想EPSの11倍に相当する水準だという。
3. ヘルスケア・航空・エンタメ各社の決算動向
ヘルスケア保険大手のElevanceとUnited Healthcareも決算を発表した。Elevanceは、前年比16%減益ながら市場予想は上回ったものの、会員数が1%減少したことが嫌気され株価は下落。一方、United Healthcareは、予想を上回りガイダンスも引き上げたことで株価は好感された。
GE Aerospaceは、大幅な増収増益(売上高126.3億ドル、前年比24%増)とガイダンス引き上げを発表したが、市場の期待にはやや届かず株価は4%下落した。
Netflixは、市場予想通りの決算となったが、エンゲージメント指標である「What We Watched」レポートの発行頻度を年1回に減らすと発表したことが嫌気され、時間外で株価は8%下落。年初来では20%の下落となっている。
4. 大手銀行決算に見る信用サイクルの実態
Eisman氏が今回最も重視したのが、大手銀行の決算だ。JPモルガン、シティ、ウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカの4行は、消費者・商業双方に広範な与信業務を展開しており、米国経済全体の健全性を測る重要な指標となる。
特に注目されたのが、非計上貸出金(non-accruing loans)、すなわち90日以上延滞している深刻な不良債権の推移だ。2025年第2四半期から2026年第2四半期にかけてのデータを見ると、JPモルガンの非計上貸出金は94億ドルで前年比5%減、前四半期比2%減。バンク・オブ・アメリカも58億ドルで前年比4%減、前四半期比横ばいと、いずれも改善傾向にある。
Eisman氏は、「深刻化する信用トレンドがあれば、消費者または商業向け非計上貸出金の増加として表れるはずだが、現時点ではまったく見られない」と強調した。
このデータを踏まえ、Eisman氏は、次のような見解を示した。「これまで私は『銀行が行く道に経済も従う』と言ってきたが、おそらく今回は違う」。銀行の資本は、潤沢で信用の質も良好である一方、今後の景気後退の有無を左右するのは、AI関連投資と民間信用(プライベートクレジット)市場の動向にかかっているとの見方だ。同氏は、「米国経済の将来全体が、AIの成功か失敗かにかかっていると考え始めている」と述べている。
なお、決算内容そのものは総じて好調だった。JPモルガンはEPS6.14ドル(前年比24%増)、有形自己資本利益率(ROTCE)23%。バンク・オブ・アメリカはEPS1.21ドル(同36%増)、ROTCE16.5%。ウェルズ・ファーゴはEPS2.00ドル(同25%増)、ROTCE17.7%。シティはEPS3.15ドル(同48%増)、ROTCE13%。
なかでも投資銀行・トレーディング部門が牽引したゴールドマン・サックスはEPS20.98ドル(前年比92%増)、ROTCE25.5%、モルガン・スタンレーも売上高が前年比27%増で過去最高水準、EPSは62%増、ROTCE26.6%という結果となった。Eisman氏は、これを「投資銀行業務にとっての黄金期」と表現し、AI関連の資金調達需要の高まりがこれを支えていると分析した。
5. バリュエーションの考え方
Eisman氏は銀行株のバリュエーションを評価する上で最もシンプルかつ一貫した方法として、有形自己資本利益率(ROTCE)に着目することを挙げる。ROTCEが高いほど、有形自己資本に対する株価倍率(P/TBV)も高くなる傾向がある。実際、ROTCEが20%を超えるゴールドマン・サックス、JPモルガン、モルガン・スタンレーは有形自己資本の3〜4倍で評価されている一方、ROTCEが13〜18%程度のウェルズ・ファーゴ、バンク・オブ・アメリカ、シティは1.3〜2.1倍の水準にとどまっている。

