MetaがVR廃止を撤回した日——$730億損失のReality Labsが示す、メタバースの現在地
2026年3月、MetaのCTO Andrew Bosworthが、インスタグラムのストーリーズで語った一言が話題になった。「今日まさに決定したのですが、Horizon WorldsをVRで動かし続けることにしました」
Metaは、この撤回の直前、6月15日をもってQuest VRヘッドセットでのHorizon Worldsのサポートを終了し、ウェブとモバイルのみに移行すると発表していた。しかしその発表はほぼ即日撤回された。
この一連の動きは、VRメタバースが今どこにいるかを象徴している。
1. $730億——Reality Labsが積み上げた損失の規模
1-1. 「1日$100万を200年」という比較
Metaが、Facebookからリブランドした2021年以降、Reality Labs部門の累計損失は$730億を超えた。この数字の規模感を伝えるために使われる比較がある——1日$100万を使い続けても、200年かかってようやく到達する額だ。
Reality Labsには、Questヘッドセットなどのバーチャルリアリティ製品だけでなく、スマートグラスといった拡張現実製品やAI研究への支出も含まれている。
1-2. Quest販売は前年比16%減
市場調査会社IDCによれば、MetaのQuestヘッドセット販売台数は、2024年から2025年にかけて前年比16%減少した。VRヘッドセットがスマートフォンと競合できる水準に達する可能性は、現時点では低いと見られている。
苦戦しているのはMetaだけではない。Appleは$3,500のVision Proヘッドセットの需要低迷を受け、生産を縮小している。
2. Horizon Worldsの現実——モバイルとVRで何が違うか
2-1. モバイルはDL4,500万件、しかし消費者支出は$110万
モバイルインテリジェンス企業Appfiguresのデータによれば、Horizon Worldsのモバイルアプリは、iOSとGoogle Play合計で4,500万ダウンロードを記録した。2026年だけで既に150万ダウンロードあり、これは前年同期比53%増だ。
しかし、消費者の実際の支出は累計$110万にとどまっている。Metaがメタバースに投じた$730億超と比較すれば、文字通りポケットマネーに等しい水準だ。
2-2. Bosworthが認めた「モバイル優先」の理由
Bosworthは、ジャーナリストのAlex Heathとのポッドキャストでこう語っていた。
「モバイルの方がはるかに大きなオーディエンスがいて、モバイルでは本当に良い反応がある。チームはすべてを2回作らなければならない——モバイル向けに一度、VR向けにもう一度。開発速度を上げる簡単な方法は、モバイルだけに集中させることだ」
この発言は、VR版の廃止を一度決めた理由をよく説明している。開発リソースを1つに絞ることで速度を上げるという判断だ。
3. Reality Labsの構造的問題——1,500人削減と次の大規模リストラ
3-1. 1月に1,500人超を削減
Metaは、すでにReality Labs部門で2026年1月に1,500人以上に影響する大規模な人員削減を実施し、複数のゲームスタジオも閉鎖した。
さらに、会社全体で従業員の最大20%に影響する可能性のある、より大規模なリストラが検討されているという報道もある。
3-2. VRを「撤回」した本当の意味
Horizon WorldsのVR版廃止を一度は決定し、その後撤回したという経緯は、VRメタバースの社内での位置づけを示している。今後もVRサポートは続くが、Bosworthが明言したようにモバイルが優先される。VRは「維持するが縮小する」フェーズに入ったと見るのが自然だ。
4. 投資家として何を見るべきか
4-1. Reality Labsの損失はMetaの「未来への賭け」
Reality Labsの損失を純粋なコストとして見るか、長期投資として見るかは評価が分かれる。Metaのコアビジネス(広告)は依然として強く、AIへの投資も積極的だ。スマートグラス(Ray-Banとの共同開発)はVRヘッドセットよりも市場での受け入れが進んでいるという報道もある。
4-2. VRそのものの問題か、コンテンツ・ユースケースの問題か
VRヘッドセットの普及が停滞している背景には、「VRという体験自体への需要不足」と「コンテンツや使い道の不足」という二つの解釈がある。MetaもAppleも苦戦しているという事実は前者を示唆するが、Metaが今後どのユースケースに集中するかによって評価は変わる。
まとめ
Horizon WorldsのVR廃止撤回は、一つの小さな出来事に見える。しかしその背景には、$730億超の損失・販売台数の下落・大規模な人員削減という重い文脈がある。
Bosworthが「モバイルに市場がある」と言うのは正しい。しかしDL4,500万件・消費者支出$110万という現在の数字と、$730億という投資規模の間には、大きな距離がある。その距離を縮めるのか、それとも損切りするのか——MetaのReality Labsに対する市場の評価は、今後の数字次第で変わっていく。

