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“非効率”だから売れる──Whatnotに学ぶライブショッピングと〈体験EC〉のつくり方

オンラインショッピングは、いま再び大きな転換点にあります。
「検索して、カートに入れて、素早く決済する」――この20〜30年で磨かれてきたのは、ひたすら効率を追求したECの世界でした。

一方で、Grant LaFontaine率いるライブショッピング・プラットフォーム「Whatnot」は、あえてその逆をいきます。
ユーザーは、配信を“だらだら眺め”、チャットで会話し、オークションに参加し、ときには何時間もアプリの中に滞在する。そこにあるのは、効率ではなく「楽しさ」と「人とのつながり」です。


1. 「QVCのデジタル版」ではなく、“最高の実店舗体験”をオンラインに


インタビューの冒頭で、Bob Safianがよくある比喩として「デジタル版QVC」に触れると、Grantはやんわり否定します。

「僕にとってライブショッピングは、“最高の実店舗ショッピング体験をオンラインに持ち込んだもの”なんです」

Whatnotの多くのセラーは、もともとレコード店などのリアルなショップオーナーや、日常的に配信している人たちです。
ユーザーはアプリを開き、ライブ配信に「入店」する。
そこには在庫が並び、チャットで質問ができ、常連客同士が会話し、ホストとも顔見知りになっていく。

Grantは、この感覚をこうたとえます。

「地元のベーカリーやパブに通って、
店主や常連さんを知っていく感じに近い」

1-1. 「取引」ではなく「趣味と会話」が中心

Whatnotが最初にフォーカスしたのはコレクティブル(ホビー・グッズ)です。
コレクターにとって、購入行為は単なる取引ではなく、「同じ趣味を共有する仲間との会話」が重要な価値になります。

既存のECはそこを置き去りにし、「価格×効率」に特化してきました。
Grantが感じたのは、そこに“抜け落ちていたソーシャルな層”を埋める余地です。

2. FOMOではなく「楽しさ」を設計する──オークションとギフティング文化


ライブコマースと聞くと、「FOMO(取り残される不安)を煽って買わせる」演出を想像しがちです。
しかし、Grantは、意外なほどクールにこう語ります。

FOMOを作ろうとしたことは一度もないんです。
僕らがやろうとしたのは、とにかく“めちゃくちゃ楽しいコマース体験”を作ることだけ」

2-1. オークション機能の原点は「自分たちが遊んでみたら楽しかった」

Whatnotで代表的なのが、ライブオークション形式の購入体験です。
これはマーケティング会議から生まれた機能ではなく、Grantと共同創業者のLoganが、別のSNSで「壊れたオークション機能」を見つけ、実際に入札しながら遊んでみたことがきっかけだといいます。

「体験としてはボロボロだったけど、2人で入札してみたら『これ、めちゃくちゃ楽しいな』となって、じゃあちゃんとした形で作ろう、と」

結果として、“今買わないと終わる”というFOMOも生まれますが、
出発点は、「楽しさの最大化」であり、「不安の設計」ではないというのがポイントです。

2-2. 「Bless the chat」が象徴するコミュニティ志向

Whatnotには、「Bless the chat」という面白い文化があります。
視聴者が自腹でギフトや景品を用意し、配信を見ている他の視聴者に当たるようにする、というものです。

  • ショーに参加しているだけで景品が当たる

  • その費用はホストではなく“観客自身”が負担する

という構図は、「買う」だけでなく「誰かを喜ばせる」体験が組み込まれていることを示しています。
ここにも、効率よりも「遊びとコミュニティ」を重視する設計思想が表れています。

3. AIは“目的”ではなく“道具”──人間味を軸にしたテック活用


テック業界の多くのCEOが「とにかくAIを前面に出す」方向に走るなか、Grantのスタンスは一貫して現実的です。

AIのためのAIはやらない。
解くべき問題があって、それに新しい技術を使えるなら試す

Whatnotも数百人規模のエンジニアを抱え、レコメンドや運営効率化のためにAIを活用しています。
しかし、顧客体験の“顔”としてAIを押し出すことには慎重です。

  • バックエンドではAIを使って効率化

  • フロントでは「人間同士のやり取り」を中核に据える

という二層構造を明確にしていると言えます。

3-1. 「人間らしさが先、テクノロジーは後から」

Grantは「Whatnotは本質的に“人間的”なサービスだ」と言い切ります。
だからこそ、AIはあくまで

  • セラーの業務を楽にするツール

  • より適切な番組や商品を見つけやすくするレコメンド

といった“裏方役”に徹させる。

「とにかくAIと言っておかないと不安」という空気が漂う中で、
“問題起点でしかAIを採用しない”という姿勢は、多くの経営者にとっても示唆的でしょう。

4. インカンベントとの競争と「アンダードッグ・マインドセット」


AmazonやeBayもライブショッピング機能を導入し、大手プラットフォームとの競争は激しさを増しています。
当然、Grantもプレッシャーを感じた時期があると正直に認めています。

「資金も人も桁違いの大企業が、僕らが人生をかけて作ってきたものに参入してくる。不安にならないはずがない」

しかし、彼は最終的に、こう結論づけています。

競合のことを心配していた時間は、すべて無駄な時間だった

重要なのは、

  • 自分たちは市場で“かなりの差”をつけてリーダーになっていること

  • そのポジションを維持する唯一の道は、黙々と顧客価値を積み上げ続けること

だとチームに繰り返し伝えているといいます。

4-1. 「100回のノー」が生んだ芯の強さ

創業初期、Grantは投資家から「100回以上のノー」を突きつけられたと言います。
その履歴をまとめたスプレッドシートはいまも手元にあり、理由まで残しているとのこと。

「『君たちには無理だ』と言われることほど、僕を動かすものはない」

この“常に少し舐められている”感覚は、

  • 慢心せずに改善を続ける原動力

  • 競合に目を奪われず、顧客に集中するためのメンタルモデル

として機能しているようです。

5. すべての小売・ブランドへの示唆──「体験EC」への投資は避けられない


最後に、Grantは、より大きなトレンドとしてこう語ります。

今後5〜10年で、あらゆるブランド・小売は“体験としてのEC”に投資せざるを得なくなる

ここでいう「体験」とは、単にUIをリッチにするという話ではありません。

  • コミュニティや常連文化が育つ設計になっているか

  • “効率をあえて捨てる”時間を許容しているか

  • ホストやスタッフの“人間らしさ”が前面に出ているか

といった要素こそが、Whatnotの優位性の源泉です。

VRやメタバース的な技術が進化すれば、
ライブショッピングの世界はさらに拡張されていくでしょう。
しかし、その中心にあるのはおそらく「アバター」ではなく、
“趣味を語り合いながら一緒に遊ぶ人間同士”です。

効率とアルゴリズムに最適化されたECの次に来るものを考えるうえで、
Whatnotはひとつの強力なプロトタイプになりつつあります。

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