なぜ“フリクションレス=善”は危険か?2025年、Kara Swisherが警告する“摩擦の価値”と次の投資先
2025年末、テック界隈は“絶え間ないジェットコースター”のような年だった──これは、ジャーナリストでポッドキャスト/メディアパーソナリティのKara Swisherの言葉だ。彼女はこの1年を振り返り、AIブームの余波、大企業の政界との結びつき、そしてテクノロジーの「効率化」に対する警鐘など、多岐にわたる問題を論じた。今回は、彼女の発言をもとに、2025年におけるテックのトレンドと今後の要注目分野を整理する。
1. テックはビジネスから「政治」へ — 2025年の“騒動年”
1-1. テック界と政界の距離が縮まる
Swisherは、テック産業が単なるビジネスやイノベーションの源泉ではなく、政治的影響力を持つ存在になったと指摘する。2025年は特に、政府とのつながりや資金援助、暗号通貨やAI投資を通じて「権力闘争」の一翼を担う企業の動きが目立ったという。彼女は「テック・モーグルズが権力を掴もうとする、その過程が“あまり魅力的でない”形になってきた」と語っている。
1-2. 投資熱と株価の歪み
同時に、AIをはじめとする先端技術への過剰投資が、実体経済との乖離を深める危険性もある。Swisherは、「企業は莫大な資金を投じているが、実際に消費者向けの成果が見えなければ、それは持続不可能なサイクルだ」と警告する。株価は大手テック企業によって押し上げられているが、裏側には“ビジネスモデル未成熟”の懸念を抱えているのだ。
2. 「AIバブル」と「勝者総取り」の構図
2-1. 誰が勝ち残るのか、未知数の群雄割拠
Swisherは「今はAIが過剰に期待されているが、それが必ずしも“バブル”とは限らない」と述べつつも、限定的な成功企業だけが生き残る可能性を示唆する。過去、AmazonやGoogleのように長期間にわたって基盤構築を続けた企業だけが大きな勝者になる──と。だが、どの企業がその “数少ない勝者” になるかはまだわからない。
さらに、彼女は、NVIDIAのような半導体企業を“かつてのCiscoのようだ”として警戒する。つまり、現状の評価や収益構造が過剰で、「皆が自社チップを作るようになれば、この構図は崩れる」というのだ。
2-2. 勝者と敗者を分ける「実用性」の壁
AIへの投資が無条件に正当化されるわけではない。Swisherにとって、最終的に重要なのは「実際の消費者利用」と「持続可能なビジネスモデル」だ。AIが華やかに語られる裏で、「消費者の役に立つ成果がなければ、どれだけ注ぎ込まれても意味がない」という現実に、多くの企業が向き合う必要がある。
3. “フリクションレス”への警告 — “摩擦”こそ進歩の原動力
3-1. 「摩擦=無駄」の幻想
「シリコンバレーでは常に『シームレス』『フリクションレス』が賛美される」というSwisher。だが彼女は猛然と異を唱える。「フリクションこそが前に進ませる力だ」と。AIがあらゆるものを“楽で快適”にすることは、脳や身体から挑戦する機会を奪い、結果として衰退を招く──というのだ。
彼女は特に若い世代に対して、「努力せずに結果ばかり頼ると、能力が衰えてしまう」と警告する。フリクションが創造性や成長の種になる ――それはテクノロジーだけでなく、人間らしい進歩にもつながるという信念だ。
3-2. 心理・身体の健康とAIの“過保護化”
Swisherは、さらに、AIとの過度な依存が「認知機能の鈍化」「精神的な鈍麻」を招く可能性を指摘する。「脳はコンピュータではない。だからこそ、パターン認識や単純作業ではなく、“考える”“悩む”“選ぶ”という摩擦が重要だ」と語る。効率ばかりを追求せず、“困難”と向き合うことが、創造性や人間性を守る鍵だという。
4. 2026年に注目すべきテーマ:医療・エネルギー・ロボティクス
4-1. ヘルスケアと「長寿」テックの台頭
Swisherは、「AIやEVばかりが注目されているが、医療やバイオの領域にはなお“大きな可能性”がある」と強調する。特に遺伝子編集技術や、GLP-1薬(※糖尿病・肥満関連薬)など、健康寿命を延ばす医療イノベーションに注目しているようだ。こうした取り組みは、単なる利便性向上ではなく、“人々がより健康で長く生きられる社会”を見据えたものだ。
4-2. ロボティクスとインフラ/エネルギー技術
また、Swisherは、「ロボティクス」「エネルギー技術」にも強い関心を寄せている。特に、小型原子炉などの新エネルギー技術については、環境負荷の低減だけでなく、社会構造そのものを変えるポテンシャルがあると見る。さらに、住宅や都市インフラ建設に機械学習やAIを応用すれば、効率的かつ低コストな住環境の整備も可能だ──というヴィジョンだ。
結論 — “楽さ”の裏にある落とし穴と、次の大きな波
2025年は、テック企業が社会・政治・経済の隅々にまで影響を及ぼし、その投資や動きが世界を揺るがした年だった。だが、Swisherの指摘は、それだけに留まらない――
「フリクション(摩擦)」を怖れず、むしろそれを進化の原動力とする視点の大切さ。
そして、華やかなAIブームの陰で見落とされがちな、医療・エネルギー・ロボティクスといった“本当に人間や地球の未来を変える可能性を持つ領域”への視線。
2026年、私たちはどこに注目すべきか――それは、「快適さ」ではなく、「変化と挑戦」のほうかもしれない。

