ABB CEOモートン・ヴィドロー氏「データセンター向け売上は第1四半期で3桁成長」― 全体の1割ながら最速成長分野に
Barron'sのインタビュー番組「At Barron's」に、スイスに本社を置く電機・自動化大手ABBのCEO、モートン・ヴィドロー氏が登場しました。ABBは、電化(エレクトリフィケーション)と自動化を軸に、発電から送配電、そして、工場・データセンターでの電力消費に至るまでのバリューチェーン全体を手がける企業です。本稿では、インタビューの内容をもとに、ABBの事業構造、データセンター需要の実態、そして地政学リスクへの向き合い方について整理します。
1. ABBの事業構造:電化・自動化・モーションの3本柱
ヴィドロー氏は、まず、ABBの事業内容について次のように説明しています。
「私たちは電化と自動化に特化した会社で、産業界がより無駄なく、よりクリーンになる手助けをしている」
同社の中核製品は、発電から電力網への配電に至る過程で使われる電気スイッチギア(遮断器など)です。これは電力会社だけでなく、あらゆる製造工場でも使用されており、中電圧(2万〜3万ボルト)から、住宅・建物で使われる低電圧(1000ボルト以下)まで幅広くカバーしています。ヴィドロー氏は次のように表現しました。
「ABBはどこにでもある。ただし、たいてい『電気室』という扉の向こうに隠れていて、普段は立ち入りが許されていない」
同社の事業は、「電化(Electrification)」「自動化(Automation)」「モーション(Motion)」という3つの事業領域に分かれています。モーション事業では、米国内でモーター分野の明確なリーダーとされる「ABB Baldor Reliance Motors」を展開し、コンベアベルトやエレベーター、電車などに使われる電動モーターを手がけています。自動化事業では、製鉄所や鉱山などのプロセス産業で使われる分散制御システム(DCS)においてリーダーの地位にあるとされ、電化事業では、電力網や発電から最終消費地点まで電力を届けるための製品・システムを提供しています。
1-1. 140年の歴史を持つ2社の合併
ABBという社名は、スウェーデンの「ASEA」とスイスの「Brown Boveri」という、いずれも140年以上の歴史を持つ企業が1988年に友好的合併を行ったことに由来します。合併以来、本社はスイス・チューリッヒに置かれており、ヴィドロー氏自身も過去14年間この地を拠点としてきました。同氏は、1990年代初頭に掲げられていた「Think global, act local(グローバルに考え、ローカルに行動する)」というスローガンについて、「当時よりも今のほうが、むしろ当てはまるかもしれない」と述べています。
2. 地域別の売上構成 ― 米国が最大市場
ABBの売上構成について、ヴィドロー氏は次のように説明しました。米国が単独では最大の市場で、全体の約30%を占めています。次いで、ヨーロッパ全体がほぼ同規模、その後に、アジア、中東・アフリカが続くといいます。単一国では、中国が2番目、ドイツが3番目、インドが4番目の市場とのことです。
同社の特徴的な点として、各地域での「現地生産」の徹底が挙げられます。ヨーロッパで販売する製品の98%は、ヨーロッパ内で生産されており、中国・インドでもその比率は約9割に達するといいます。米国においても、米国内で販売する製品の80%は米国内で製造されているとのことです。ヴィドロー氏は、これは近年始めた取り組みではなく、自身が2008年から2012年にかけて中国に駐在し、現地生産・現地技術の構築に携わっていた頃から続く方針だと説明しています。米国では、Baldor Reliance Electric MotorsやThomas & Betts、そして、2017年のGE Industrial Solutionsの買収などを通じて事業を拡大してきた経緯も紹介されました。
3. 利益率目標の上方修正と2026年の見通し
ヴィドロー氏は、2025年11月にウィスコンシン州ニューバーリンで開催した「キャピタルマーケットデー」において、営業利益率(オペレーティングEBITAマージン)の目標レンジを見直したことを明らかにしました。従来の目標は16〜19%でしたが、前年に19%という目標を達成したことを受け、新たな目標レンジを18〜22%に引き上げたといいます。
「目標を達成したら、次はさらに上を目指す。それがABBのやり方だ」
同氏は、投資家向けの説明会で、2026年が「ABBにとって新たな記録の年になる」とすでに公言しているとも述べました。なお、3つの事業領域のうち、最も高い利益率を牽引しているのは電化事業で、目標レンジは22〜26%とされ、業界最高水準を目指す方針が示されています。
4. データセンター需要:成長率は3桁も、全体の1割にとどまる
データセンター建設ブームが、ABBの事業に与える影響について、ヴィドロー氏は次のように述べています。
「(グリーンエネルギーへの)反発があると言われる一方で、データセンターの建設ラッシュが同時に進んでいるのは、ある意味で皮肉なことだ」
同氏は、世界的に「より多くの電力が必要とされている」という点は明確だとし、米国をはじめとする各国でデータセンターの建設が進む中、電化のトレンドはコンテナクレーンの油圧式から電動式への転換や、インドの製鉄業における電気アーク炉の採用拡大など、幅広い産業で進行していると説明しました。
具体的な数字として、2026年第1四半期のデータセンター向け売上は、3桁(100%以上)の成長を記録したとされています。ただし同時に、ヴィドロー氏は次のように釘を刺しています。
「データセンターは全体の売上のまだ約10%に過ぎない。昨年の年間売上340億ドルのうち、90%はデータセンター以外の事業だ」
同氏によれば、2026年第1四半期はデータセンター分野で3桁成長を記録した一方、データセンター以外の分野でも2桁成長を達成しており、電化・自動化市場全体が底堅く伸びている状況だといいます。
4-1. エネルギー源には中立的なスタンス
ABBは、特定のエネルギー源に依存しない立場を取っているといいます。ヴィドロー氏は、太陽光・風力といった再生可能エネルギーだけでなく、原子力発電の新規建設計画が過去最多のペースで進んでいること、そして天然ガス火力発電への転換が世界各国で進んでいることにも言及しました。
「電気がどのようなエネルギー源から作られるかは、私たちのスイッチギアやシステムにとってはあまり関係がない。重要なのは、その電力をいかに安全に、そして効率的に消費地点まで届けるかだ」
同氏は、2025年が過去最高の再生可能エネルギー導入量を記録した年であったことにも触れ、「反発があるように見えても、実際に地上で起きている導入のペースは依然として続いている」との見方を示しました。
5. アクティブなポートフォリオ経営 ― 事業の売却と買収
ヴィドロー氏は、ABBの経営スタイルの特徴として「アクティブ・ポートフォリオ・マネジメント」を挙げました。同社は常に「自分たちがその事業の最適な所有者であるか」を自問しているといいます。
その一例として紹介されたのが、船舶のディーゼルエンジンなどに使われるターボチャージャー事業です。ABBはこの事業を分離し、スイス証券取引所に上場させました。ヴィドロー氏は、この事業が独立後、ABB本体よりも高い評価倍率・リターンを達成する「成功物語」になっていると説明し、次のように述べています。
「優れた事業であっても、単独で経営したほうがさらに良くなることがある。過去のやり方に固執せず、実用的な視点を持つ必要がある」
6. 米中の地政学リスクへの向き合い方
貿易摩擦や中東情勢の緊張が事業に影響を与えていないかという質問に対し、ヴィドロー氏は「米国事業と中国事業は互いに切り離されている」と説明しました。
「グローバルに考え、ローカルに行動するという考え方が、私たちの強みの根底にある」
具体的には、米国と中国それぞれに専用の製品開発チームを配置しているほか、クラウドソリューションについても、中国国内では、GoogleやMicrosoft、AWSが存在しないため、Huaweiのシステムを基盤とした別体制を構築しているといいます。同氏は、こうした「2つの異なる体制」を維持する必要がある一方、グローバル企業であることには依然として価値があり、地域間で学び合えることも多いと補足しました。
7. 株価評価と今後の成長期待
ABBの株価は、過去1年で約90%上昇し、時価総額は約2000億ドル、PER(株価収益率)は40倍台に達しています。「割高に見えるが、投資家はもう乗り遅れたのか」という質問に対し、ヴィドロー氏は次のように答えています。
「電化と自動化のトレンドは、何年にもわたって続く長いサイクルの途上にあると考えている。これは2026年や2027年限定のトレンドではない」
同氏は、電力・電気ソリューション、そして、自動化への需要は今後も加速し続けるとし、AIもその追い風になるとの見方を示しました。
8. リーダーシップ観 ― ノルウェー出身という背景
ヴィドロー氏は、ノルウェー出身で、北欧諸国に共通する特徴として「経営トップから工場現場までの距離が非常に近い」ことを挙げました。同氏自身、工場長を務めていた経験から、組織全体を理解することの重要性を学んだといいます。祖父がBrown Boveri社の工場でヒューズ製造に従事するブルーカラー労働者だったことにも触れ、「組織のあらゆる部分とつながる力を、キャリアを通じて大切にしてきた」と振り返りました。

