Goldman Sachs、2026年FRB据え置きを予想 ― 次の一手は「2027年利下げ」
Goldman Sachsのポッドキャスト「Goldman Sachs Exchanges」に、同社のチーフ米国エコノミストDavid Mericle氏が出演し、新FRB議長Kevin Warsh氏のもとでの金融政策、インフレ動向、そして、地政学リスクについて語った。本収録は2026年7月20日(月)に行われている。
1. 今年最大の「サプライズ」― 良い意味と悪い意味で
Mericle氏は、今年の米国経済について、良い意味でのサプライズとして、ほぼ1年近く雇用がほとんど創出されない状況が続いた後、戦争勃発と原油価格急騰という一見矛盾するタイミングで、過去4カ月にわたり雇用の伸びが大きく加速した点を挙げた。これにより、年初に抱いていた労働市場への懸念は、少なくとも当面は後退したという。
一方、悪い意味でのサプライズとしては、関税の影響が前年比計算から外れることでインフレが改善するとの年初の見立てに反し、戦争の影響とAI需要の影響(統計上の測定誤差によって増幅されている)により、インフレ率は、2%より3%に近い水準で横ばいに近い動きを見せている点を挙げている。
2. 6月CPI下振れ ― 「やや誇張された朗報」
先週発表された6月CPIが予想を下回ったことについて、Mericle氏は、これを「やや外れ値的な数字だった」としつつも、今後インフレ率がここ半年より落ち着いた水準で推移していく流れの始まりだとの見方を示した。理由として、関税の影響が月次ベースではほぼ無視できる水準になってきていること、イラン情勢の再エスカレーションで原油価格が再上昇してはいるものの4〜5月のピークからはなお大きく下がっていること、AI需要による物価指数の測定誤差の影響も今後半年よりは緩やかになると見込まれることの3点を挙げた。関税・戦争・AI需要という3つの要因を除けば、コアインフレ率は実質的に2%に近い水準で推移しているとし、今後最大の「ワイルドカード」は依然として戦争の行方だと強調した。
3. FRB、7月は据え置き ― しかし「猶予は少ない」
来週に迫るFOMC会合(Warsh議長にとって2回目)について、Mericle氏は、6月CPIとそれに伴うPCEインフレへの示唆は、7月会合でのFRB据え置きを正当化するのに十分な軟化度合いだとの見方を示した。もっとも、FOMCの姿勢に関する重要な変化として、インフレの原因が、関税・戦争・測定誤差のいずれであれ「原因の切り分け」にこだわる段階は過ぎ、高インフレが続く以上はどんな理由であれ対応が必要だという空気がFRB内に広がっているとした。Goldmanの見立てでは、コアPCEインフレ率が、今後年率換算で0.2%台かそれをわずかに上回る水準で推移する限り、FRBは据え置きを続けられるとしつつも、「誤差の余地はほとんどない」と釘を刺している。
4. 「利上げか据え置きか」ではなく「確率」の話
市場が年内の次の一手として利上げを織り込みつつある点について、Mericle氏は、市場が「1.5回分の利上げ」を織り込んでいるとすれば、それは2〜3回の利上げが起きる確率を50%程度と見ていることに相当すると分析した。一方、Goldman自身の見立てでは、利上げの確率は50%を下回る25%程度だとしており、「利上げか据え置きか」という単純な二項対立ほど市場とGoldmanの見方に開きがあるわけではないとしている。Goldmanの基本シナリオは、年内据え置きの後、次の一手は2027年の利下げになるというものだ。
5. バランスシート政策 ― 「規模」より「構成」が焦点に
Warsh議長が前任者と異なる見解を持つとされるバランスシート政策についても議論が及んだ。Mericle氏は、FRB内では、準備預金潤沢化(ample reserves)の枠組みから旧来型の金融政策実施方式に戻す機運はほとんど見られず、バランスシートの規模を大きく縮小する余地は限られるとの見方を示した。一方、保有資産の構成(国債の年限構成など)については依然として議論の余地があるとし、財務省の発行に比例して保有すべきだという立場と、資産・負債のデュレーションを一致させ利益の変動性を抑えるため短期国債(ビル)中心に保有すべきだという立場の両方が説得力を持ちうるとした。ただし、FRBがどちらを選んでも財務省側が発行構成を調整するため、最終的に市場に流通する国債構成や金利への影響は限定的だとの見立てを述べている。
6. コミュニケーション政策 ― SEP中央値公表の是非
Warsh議長がかねてフォワードガイダンスに否定的である点についても言及があった。Mericle氏は、「必ずこうする」というコミットメント型のガイダンスと、経済見通しに基づく柔らかい形のガイダンスを区別した上で、FOMCが委員会として経済見通し(SEP)の中央値を公表することの是非が今後の論点になりうるとした。前副議長Don Cohn氏の提案する「SEP中央値の公表停止」は、比較的軽微な変更にとどまるとみられる一方、SEPの公表自体を取りやめることは金融政策の透明性からの大きな後退となり、FOMC参加者の多くもそれには抵抗を感じるだろうとの見方を示している。市場に経済観や適切な金融政策運営の手がかりを与えないまま政策変更(特に利上げ)に踏み切った場合、市場が過剰に反応するリスクがあるとし、6月のWarsh氏にとって最初の会合でその兆候が一部見られた可能性があるとも述べた。
7. 労働市場の「謎」― なぜ原油高で雇用が増えたのか
番組終盤では、原油高局面で通常見られる裁量的支出セクターでの雇用減少(ガソリン代がかさむ分、外食などへの支出が減り、飲食店の雇用が抑制される、という経路)とは逆に、戦争勃発・原油高と同時に雇用の伸びが力強く加速したことについて、Mericle氏は、「歴史的なパターンと逆行する、やや説明のつきにくい動き」だと率直に認めた。移民減少という環境下では、失業率を安定させるために必要な雇用創出数(損益分岐点)は月間5万〜6万人程度にとどまるとされ、直近の雇用の伸びはこれを上回る水準で推移しているという。
8. 成長見通し ― 「潜在成長率よりわずかに下」
GDP成長率の見通しについては、年初時点で潜在成長率(2.5%と推計)をやや上回る水準からスタートしたものの、実質所得の伸びが冴えない中で貯蓄率がすでに低水準にあること、税還付による押し上げ効果が一巡していることなどから、今年後半は消費の伸びがこれまでより緩やかになると予想している。住宅セクターの弱さ、政府支出の弱さに加え、設備投資の際立った強さを踏まえ、GDP成長率は2%前後になるとの見通しを示した。これは悪くない水準ではあるものの、原油・ガソリン価格の上昇がなければ実現していたであろう水準よりはやや弱いという。株高による資産効果は、過去1年間で成長率を0.3〜0.4ポイント程度押し上げてきたとみられ、今後1年も同程度の押し上げ効果が続くとの見方も示された。
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