BofA、S&P500目標値7100を据え置きも「弱気」 ― 益質低下と金利上昇に警戒
米国株式市場は、史上最高値圏で推移する一方、AI関連銘柄を中心に「実態を伴わない上昇ではないか」との警戒感も根強い。Barron's誌のポッドキャスト「Streetwise」では、司会のジャック・ハウ氏がBank of America(BofA)の年央市場見通しと、Sand Hill Investment Managementのリード・ポートフォリオマネージャー、リック・ラスコウスキ氏による銘柄選定について語っている。本稿では、その内容をもとに、投資家が押さえておくべき市場環境と個別銘柄のポイントを整理する。なお、本稿は、情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断は自己責任で行っていただきたい。
1. BofAが示す「弱気」だが目標据え置きという矛盾
BofAは、年央の目標値改定の中で、S&P500指数の目標値を7100に据え置いた。もっとも、この目標値を公表した時点では、S&P500は、既に5%程度下落した水準にあったといい、BofA自身が、「我々はインデックス弱気派だ」という趣旨の表現を用いている。番組では、これについて、あくまで短期的な見立てであり、長期的な弱気シナリオではない点が強調されている。
1-1. 株高を支えてきた要因が「反転」しつつある
BofAは、これまでの株高を支えてきた要因として、企業のアセットライト化や高い利益の質、自社株買い、コスト削減による効率化、そして、株式の需給動向(非公開化の増加とIPOの停滞)を挙げている。しかし、同社は、これらの追い風が今まさに反転しつつあると指摘する。IPO市場は活況を取り戻しつつあり、SpaceXの上場に続き、OpenAIやAnthropic、Databricksといった企業の上場も見込まれている。また、AI投資の拡大資金を調達するための増資(セカンダリーオファリング)を行う企業も増えているという。
2. 「益質低下」の正体 ― CapExを巡る会計のねじれ
番組で特に詳しく解説されたのが、BofAが指摘する「利益の質の低下」という論点だ。背景にあるのは、AIインフラ構築に伴う支出と収益の会計処理上のタイムラグである。
企業がAIインフラに投じる資金は、「資本的支出(CapEx)」として計上され、購入した資産の耐用年数にわたって少しずつ減価償却されるため、短期的な利益への影響は限定的だ。一方、他社のCapEx支出によって得られる収益(クラウドサービスの利用料など)は、即座に利益として計上される。つまり、資金のやり取りが発生しているにもかかわらず、その双方が同時にコストとして反映されるわけではなく、結果として利益が実態よりも大きく見えやすい構造になっているという。
2-1. 個別企業に見る利益とキャッシュフローの乖離
この構造は個別企業のデータからも見て取れる。Amazonの今年の予想利益は、960億ドルとされる一方、予想フリーキャッシュフローはマイナス120億ドルになるとみられている。Googleの予想利益は、1730億ドルに対し、予想フリーキャッシュフローは、190億ドルにとどまる。Meta Platformsに至っては、予想利益が840億ドルである一方、指数レベルで見ると約4億ドルのキャッシュ流出が見込まれているという。
こうした乖離を踏まえると、S&P500指数は、2026年予想利益ベースで22倍という、やや割高な水準にある一方、予想フリーキャッシュフローベースで見ると32倍という、著しく割高な水準になる。実態としての適正水準は、この2つの数字のどこかにあるとみられ、AIによる収益拡大サイクルがどれだけ持続するかによって左右されるという見立てが示された。
なお、AmazonやAlphabet、Metaにおける一時的な利益計上は、2026年第1四半期のS&P500全体の増益率に8ポイント分寄与したとされる。この一時要因を除くと、実質的な増益率は27%から19%まで下がる計算になるが、それでもなお高い伸び率である点は指摘されている。
3. 金利動向 ― 「ベア・フラットナー」への警戒
番組では、金利動向についても解説が加えられた。新しいFRB議長の就任後、当初想定されていたような利下げ追随姿勢とは異なる発言が見られており、利上げの確率がむしろ上昇しているという。
直近の米10年国債利回りは4.5%前後で推移しているが、BofAは、これが7%まで上昇しない限り、株式にとって大きなリスクにはならないとの見方を示している。一方で懸念されているのが、「ベア・フラットナー」と呼ばれる利回り曲線の動きだ。これは短期金利が長期金利よりも速いペースで上昇する局面を指し、1976年以降の統計では、12か月リターンの観点で株式にとって歴史的に2番目に悪い局面だったとされている。
3-1. BofAが推奨するポートフォリオの傾き
こうした環境を踏まえ、BofAは、短期的にはインデックス全体には弱気姿勢を取りつつも、大型バリュー株、特にキャッシュを生み出す景気循環型の製造業セクターへの強気姿勢を示している。同社は、資金調達を必要とする長期成長株(いわゆるシキュラーグロース銘柄)よりも、業績見通しの上方修正余地があり、期待値が過度に高まっていない景気循環株の方が、リスク・リターンの観点で優れているとの見解を示した。番組内では、ソフトウェアやハイパースケーラーから、テックハードウェア・エネルギー・素材といったセクターへと、業績予想の修正動向がシフトしている点も紹介されている。
海外の先進国市場についても言及があり、現時点で米国市場と比べて構造的に割安であり、大型テック株への依存度も低いという特徴から、ポートフォリオへの組み入れを検討する価値があるとの考えが示された。
4. Sand Hill Investment Managementが選ぶ4銘柄
番組後半では、Sand Hill Investment Managementのリード・ポートフォリオマネージャー、リック・ラスコウスキ氏が、現時点で注目する4つの銘柄を紹介した。
4-1. Stryker(ティッカー:SYK)― 人工関節とロボット手術支援
同社はまず、直近1年で市場全体が2桁の上昇を見せる一方、ヘルスケアセクター、特に医療機器関連が数%下落している点に着目した。Strykerは、人工股関節・膝関節・肩関節などの置換部品に加え、手術支援ロボット「Mako」を展開する企業で、長年にわたり競合のZimmerやJohnson & Johnsonからシェアを奪ってきた実績があるという。同社株は、直近1年で17〜18%程度下落しており、予想PERは20〜21倍と、市場平均をやや下回る水準にある。
株価低迷の一因として、肥満治療薬の普及により将来的な人工関節の需要が減少するのではないかという懸念が語られているが、ラスコウスキ氏は、この見方についても両面あるとの考えを示した。人々が減量して活動的になることで、運動関連のケガ(いわゆる「ピックルボール障害」のようなもの)が増える可能性もあるという。また、同社は、今年、イランを拠点とするとみられるサイバー攻撃の影響で上半期の受注や一部製品ラインの生産に遅れが生じたとされるが、これは長期的な事業基盤や競争力には影響しない一時的な問題との見方が示された。
4-2. Intuitive Surgical ― ロボット支援手術のデータ資産
軟部組織向けの手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を手がけるIntuitive Surgicalも、注目銘柄として挙げられた。最新機種「DV5」は数年ぶりの新プラットフォームとされ、処理能力や画像性能が向上しているという。ロボット支援手術の普及率は現時点で全体の5%程度にとどまっており、今後の成長余地は大きいとみられている。
同社の強みとして特に強調されたのが、2000万件を超える手術データの蓄積だ。この膨大なデータは、将来的にAIが手術支援を担う上での土台になるとみられており、長期的なAIテーマの投資先としての側面もあるという。新型DV5では、執刀医が切開時の圧力を感知できる「フォースフィードバック」機能が新たに搭載され、好意的に受け止められているとのことだ。
4-3. Federal Signal(ティッカー:FSS)― AIの影響を受けにくい特殊車両メーカー
3つ目に挙げられたのは、street sweeper(道路清掃車)やバキュームトラック、道路標示車両などを手がける特殊車両メーカーFederal Signalだ。自治体・公共インフラ・産業向けの特殊車両というニッチな市場で複数のブランドを展開しており、AIによる代替リスクが極めて低い事業だとされる。
同社の成長ドライバーとして、インフラ投資雇用法(IIJA)による連邦資金の流入と、老朽化した公共車両の更新需要が挙げられた。ラスコウスキ氏は、同社が有機的に年6%程度の成長を続けつつ、M&Aによってこれをほぼ倍増させられる可能性があるとし、2桁の売上成長と10%台半ばの増益を今後も見込めるとの見方を示した。
4-4. Guidewire(ティッカー:GWRE)― 損害保険業界の基幹システム
最後に紹介されたのは、損害保険会社向けの基幹システムを提供するGuidewireだ。保険契約の管理や保険料請求、保険金請求処理といった、保険会社の中核業務を支えるシステムを手がけている。
同社の強みは、既存顧客が抱える「乗り換えの難しさ」にある。保険会社にとって基幹システムのデータは極めて重要であり、システム停止のリスクも大きいため、新しいSaaS型システムへの切り替えには慎重にならざるを得ない。この結果、競合がほとんど参入できない市場構造が生まれているという。
AIによるコーディング能力の向上が同社の事業を脅かすのではないかという懸念に対し、ラスコウスキ氏はむしろAIを追い風と捉える考えを示した。Guidewireの料金体系は、ライセンス数(シート数)ではなく、顧客が扱う保険料(DWP:直接正味保険料)に基づいているため、AIエージェントの普及によってライセンス需要が縮小する「シート圧縮」の影響を受けにくい構造だという。むしろ、顧客企業の保険契約が増えるほど同社の収益も増える仕組みになっている。同社は自社でもAIを活用した保険料算定支援や業務効率化ツールを展開しているという。
株価については、1年前に予想PER90倍で取引されていたものが、現在は30倍未満まで圧縮されている一方、今後数年間は増益率年25〜30%を維持できるとの見方が示され、割安感があるとの評価だった。
まとめ
米国株式市場は史上最高値圏にありながら、AIブームを支える会計上の「見え方」と実際のキャッシュフローには無視できない乖離が存在する。BofAが示す「短期弱気・長期強気」という姿勢や、景気循環株への注目のシフトは、AI相場の持続性を見極めようとする市場参加者の慎重な姿勢の表れと言えるだろう。一方、ヘルスケアや特殊車両、保険システムといった、AIの影響を直接受けにくい、あるいはAIを追い風にできる分野には、相対的に見直されていない投資機会が残っている可能性がある。いずれにせよ、個別銘柄への投資判断にあたっては、ご自身の状況やリスク許容度を踏まえ、専門家にも相談しながら慎重に検討していただきたい。

