Steve Eisman氏警鐘:「米GDP成長の半分はAI」── Apollo試算で2026年米経済成長率2%超の内訳が判明
2026年7月10日終了週(7月9日収録)のSteve Eisman氏「Weekly Wrap」では、イラン情勢、ステーブルコイン競争、ナイキ決算に加え、米国経済とマーケットがAIという単一のテーマにどれだけ依存しているかが中心的なテーマとして語られた。今回はその内容を整理し、投資家・ビジネスパーソン向けに要点を解説する。
1. イラン情勢とリスクの高まり
イランによるホルムズ海峡での船舶攻撃、バーレーン・クウェートの米軍施設への85件の攻撃を受け、米軍は報復攻撃を実施した。Eisman氏は、「停戦は次第に脆弱になっている」と述べ、地政学リスクが依然としてくすぶっている状況を指摘した。
2. Circle急落とステーブルコイン競争の激化
6月30日、ステーブルコイン発行企業Circleの株価が17.5%急落した。背景にあるのは、Stripe・Visa・Mastercard・Coinbase・BlackRockという有力企業連合が独自のステーブルコイン・エコシステムを発表したことだ。Eisman氏は「この連合にVisaとMastercardが加わっている意味は非常に大きい」と強調している。Circleは、ステーブルコイン発行企業として第2位の規模を持つ(最大手はTether)が、決済インフラの巨人たちが参入することで競争環境は大きく変化しつつある。
3. ナイキ決算は「増益でも株価反応薄」
ナイキは、6月30日引け後に決算を発表した。調整後EPSは20セントで、前年の14セント、市場予想の13セントをいずれも上回った。売上高も109.7億ドルと予想を上回ったが、前年比では1%減収となっている。Eisman氏は、「数字自体は悪くないが、ターンアラウンド(業績回復)を語れる内容ではない」と評価し、経営陣の慎重な発言を受けて株価は時間外で下落したと述べた。
4. 米GDP成長の半分は「AI」が支えている
今週は大きなニュースが少ない週だったため、Eisman氏は、AIが経済・市場に与える影響について時間を割いて解説している。
4-1. Apollo・Torsten Slok氏の試算
7月13日に公開予定のApollo社チーフエコノミストTorsten Slok氏へのインタビューを引用し、Eisman氏は次のように紹介した。
「2026年の米GDP成長率は、2%をやや上回る見込みだが、そのうちAI関連の設備投資(データセンターとエネルギー関連)だけで約100ベーシスポイント(GDPの半分)を占める」
残りの内訳としては、サプライチェーンの国内回帰(リショアリング)などのインフラ支出が約30bps、いわゆる「大きく美しい法案」による減税還付が約90bpsとされている。Eisman氏は、「今年の米経済成長のおよそ半分はAI、残り半分は最近の経済政策によるものだ」と要約した。
5. 分散投資はもはや幻想か
Eisman氏はここから、マーケットへのAIの影響は、経済統計上の影響よりもさらに大きいと指摘する。
現在、S&P500の約38%をハイテク企業が占め、Google・Amazonなどテック関連企業を含めると50%を超える水準になっている。多くの投資家は、インデックス投資によって分散が効いていると考えているが、Eisman氏は、「テック比率が50%を超えた今、インデックスを持つことはもはや分散投資にならない」と警告する。
さらに、債券についても、「既存の社債全体の15%、そして、2026年に新規発行された社債の50%がAI関連である」とし、株式60%・債券40%という伝統的な資産配分ですら、実質的には「AIという一つの取引」に集中していると論じている。Eisman氏はこの状況を次のようにまとめた。
「AIは成功しなければならない、それも大きく成功しなければならない。もし失敗するか、収益化に想定以上の時間がかかれば、米国は景気後退に陥り、市場は一気に下落するだろう」
6. AIバブル論争の変遷 ― 強気相場の割れ目
Eisman氏は、自身が2006年にサブプライム住宅ローン市場の崩壊を予見した経緯を振り返り、「主張やアイデアは、一夜にして完成するものではなく、時間をかけて発展していく」と述べる。同様の視点でAIをめぐる議論の変遷を辿っている。
昨年夏の時点では、Amazon・Google・Meta・OracleといったビッグテックがこぞってNvidia製チップへの投資を進めており、懐疑派は、Gary Marcus氏など少数派にとどまっていた。転機となったのは昨年10月、Oracleの決算でバックログの急増が明らかになった後、そのバックログの50%がOpenAI一社に依存していたと判明したことだ。株価は230ドルから330ドルまで急伸した後に急落し、現在は140ドル台まで下落している。
さらに転機となったのが、2026年の設備投資ガイダンスだ。Googleは、2025年の900億ドルから2026年は1800億ドルへ、Metaは、1350億ドル、Amazonは、2000億ドル超へと計画を拡大した。加えて、Googleが、6月に850億ドルの増資を実施したことが市場を動揺させた。Eisman氏は、「これまで資金調達など不要だった企業が、突如として莫大な資本を必要とし始めた」ことの重要性を指摘する。
問題は、この巨額投資が高収益ビジネスにつながる保証がないことだ。Eisman氏は、AI企業間の競争優位性(モート)の欠如、トークン価格上昇に対する利用者の不満、さらには、供給過剰と供給不足が同時に語られる矛盾を挙げ、「モートのないビジネスに巨額投資をすることは、高いリターンではなく価格競争を招くレシピだ」と述べている。中国製AIへの乗り換えの動きも一部で見られ、将来的な価格競争の可能性も示唆されている。
6-1. トークン価格と企業支出の変化
これまでAI企業は採算度外視のサブスクリプション価格で顧客を囲い込んできたが、補助金的な価格設定が縮小する中、企業の年間AI予算は数か月で使い切られる例も出ている。その結果、一部企業では従業員のAI利用を制限する動きも見られるという。
半導体セクターにも同様の警戒感が波及している。Samsungは、今週、営業利益が前年比1800%増という驚異的な決算を発表したが、株価は7%下落した。ハイパースケーラーのAI投資鈍化が半導体需要に波及することへの懸念が背景にある。
7. まとめ
Eisman氏の分析を総括すると、2026年の米経済成長とマーケットの双方が、これまでにない規模でAIという単一テーマに依存している状況が浮かび上がる。株式・債券を問わず、実質的な分散投資が難しくなっている中で、AIの収益化がどの程度のスピードで進むかが、今後の市場全体の行方を左右する最大の変数となりそうだ。

