見出し画像

DeepMind創業者デミス・ハサビスが語るAGIの現在地——投資家が知るべきボトルネック・規制・エネルギー問題の全体像

Google DeepMindのCEOであるデミス・ハサビス氏が、最新のインタビューでAGI(汎用人工知能)の到達時期、AI開発のボトルネック、規制のあり方、そしてエネルギー問題まで、幅広いテーマについて語りました。

ハサビス氏は、「AGIの到来は産業革命の10倍の規模が10倍の速度で起こる」と表現し、5年以内にAGIが実現する可能性が高いとの見方を示しています。一方で、「今日のAIは短期的にはやや過大評価されているが、10年後の影響力はまだ過小評価されている」とも指摘しました。

本記事では、このインタビューの内容を投資家・ビジネスパーソン向けに整理し、AIの現在地と将来像を理解するための要点を解説します。


1. AGIの定義と到達時期——「5年以内に高い確率で」


1-1. ハサビス氏が定義するAGI

ハサビス氏は、AGIを「人間の心が持つすべての認知能力を示すシステム」と一貫して定義しています。この定義の根拠として、脳が「汎用知能が可能であるという唯一の存在証明」であることを挙げています。

「脳は、私たちが知る限り、おそらく宇宙で唯一の、汎用知能が可能であるという存在証明です。これが私にとってAGIの基準です」

1-2. タイムラインの見通し

AGIの到達時期について、ハサビス氏は、「5年以内に実現する可能性がかなり高い」と述べました。興味深いのは、この予測が最近になって前倒しされたものではないという点です。

「共同創業者のシェイン・レッグが、2010年にDeepMindを始めた頃、AGI到達までに約20年かかると予測するブログを書いていました。今のところ、ほぼ予定通りです」

2010年当時、AI研究は、「行き止まり」とみなされ、ほとんど誰も取り組んでいなかったことを考えると、この一貫した見通しには重みがあります。

2. AI開発の最大のボトルネック


2-1. 計算資源(コンピュート)の制約

ハサビス氏が挙げた最大のボトルネックは、計算資源です。ただし、その理由は単にモデルのスケールアップだけではありません。

「クラウドは、基本的に私たちの実験台です。新しいアルゴリズムのアイデアがあっても、それを妥当な規模でテストしなければ、実際のシステムに組み込んだときに機能しません。多くの研究者が多くの新しいアイデアを持っているなら、かなりの計算資源が必要です」

つまり、コンピュートは、「大きなモデルを作るため」だけでなく、「新しいアイデアを検証するための実験環境」としても不可欠だということです。この点は、GPU需要やデータセンター投資の評価において見落とされがちな視点です。

2-2. スケーリング則は限界に達したのか

「スケーリング則が限界に達した」という議論についてハサビス氏は、より微妙な見方(nuanced)を示しました。

「もちろん、大規模言語モデルの構築を始めた当初は、世代ごとに性能がほぼ倍増するような飛躍的な向上がありました。ある時点でそれは鈍化せざるを得ません。しかし、それは既存システムのスケールアップにリターンがないことを意味するわけではありません」

「リターンは依然としてかなり大きいですが、スケーリングの初期と比べれば少し減っています」

投資家にとっての含意は明確です。スケーリングの「指数関数的な」フェーズは過ぎたかもしれませんが、投資に見合うリターンは引き続き存在するということです。

3. 欠けているもの——継続学習、メモリ、一貫性


3-1. 継続学習の不在

ハサビス氏は、現在のAIシステムに欠けている重要な能力として継続学習(continual learning)を挙げました。

「これらのシステムは、訓練が終わって世の中に出た後、新しいことを学ぶのがあまり得意ではありません」

人間の脳が、睡眠中の「記憶の統合(consolidation)」を通じて、日中の経験を既存の知識ベースに統合するのに対し、AIにはこれに相当するメカニズムがまだありません。全てのリーディングラボがこの課題に取り組んでいるとのことです。

3-2. メモリシステムと長期計画

現在のAIが使う「ロングコンテキストウィンドウ」について、ハサビス氏は、「やや力ずく(brute force)」と評しました。メモリシステムにおいて、まだ発明されるべきアーキテクチャがあるとの認識です。

また、階層的な長期計画(hierarchical planning)も未解決の課題です。

「これらのシステムは、何年も先を見据えた長期間の計画を立てるのがあまり得意ではありません。私たちの心はそれができるのですが」

3-3. 「ジャグド・インテリジェンス」の問題

ハサビス氏は、現在のAIシステムを「ジャグド・インテリジェンス(jagged intelligence=ギザギザの知性)」と表現しました。

「ある方法で質問すると本当に素晴らしい回答をしますが、少し違う方法で質問すると、かなり初歩的なことでも失敗することがあります。汎用知能にはそういったギザギザがあるべきではありません」

エージェントを設定してタスクを実行させる際、ファイルの配置を変えるだけでシステムが完全に崩壊するようなケースがその典型です。この「一貫性の欠如」は、AIを業務に本格導入する上で最大の実務的課題の一つと言えます。

4. モデルのコモディティ化は起こるのか


4-1. フロンティアラボの優位性拡大

モデルの性能が横並びになる「コモディティ化」が起こるかという問いに対し、ハサビス氏は、上位3〜4社のラボがむしろ差を広げていくとの見方を示しました。

「同じアイデアから同じ成果を絞り出すのはますます難しくなっています。ですから、新しいアルゴリズムのアイデアを発明できるラボが、今後数年でより大きな優位性を持つようになると思います。最後のアイデアセットからは絞れるものが全て絞り出されつつあります」

この見方は、AI開発競争が「コンピュートの量」から「アルゴリズムの質」へとシフトしていくことを示唆しています。研究人材の厚みとオリジナリティが競争優位の源泉となる時代が来るということです。

4-2. オープンソースの位置づけ

オープンソースモデルについては、「フロンティアから1ステップ遅れた位置」に留まるとの見方を示しました。

「通常、オープンソースコミュニティがフロンティアのアイデアを再実装して理解するまでに約6カ月かかります」

一方で、Google DeepMindは、Gemmaというオープンソースモデルスイートを展開しており、小規模開発者やアカデミア、スタートアップ初期段階、エッジコンピューティング向けに「そのサイズで最高クラスのモデルを作る」ことを目指していると述べています。

5. DeepMindの復活——なぜ追いつき、追い越せたのか


5-1. 組織再編と資源集約

2〜3年前にはフロンティアから遅れていたとされるDeepMindが、なぜ急速に追い上げたのか。ハサビス氏はその理由を率直に語りました。

「過去10年以上、現代AI産業を支えるブレークスルーの約90%は、Google Brain、Google Research、またはDeepMindのいずれかで行われたと言えます」

AlphaGo、強化学習、そして、Transformerアーキテクチャ——これらはすべてGoogle/DeepMindの研究グループから生まれたものです。問題は研究力ではなく、リソースの分散でした。

「社内のすべての人材を一つの方向に結集させ、リソースを統合して最大規模のモデルを構築できるようにしました。2つ3つのバージョンを社内で分散して作るのではなく。スタートアップのような集中力とペースで動くことで、フロンティアに戻り、多くの分野で先頭に立つことができました」

6. AGIがもたらす世界——科学・医療・エネルギー


6-1. 科学と創薬の革命

ハサビス氏がAGIに最も期待している分野は、科学と医療です。

「5年以上の時間軸で、科学的発見の新しい黄金時代に入り始めることを期待しています」

AlphaFoldの成功を経てスピンアウトしたIsomorphic Labsでは、創薬プロセス全体の解決に取り組んでいます。化合物の設計、毒性チェック、安全性の確認といった工程のAI化を5〜10年で実現し、その後は臨床試験のプロセスにもAIを活用していく構想です。

「本当の革命は、AIが設計した薬が十数個ほど全プロセスを通過したときに訪れます。政府や規制機関がそのデータを見て、モデルの予測をバックテストし、十分な信頼が得られれば、動物実験を省略したり、用量設定を加速できるかもしれません」

6-2. エネルギー問題への回答

AI開発に伴うエネルギー需要の急増について、ハサビス氏は、「中長期的にはAIが消費以上のエネルギー効率を生み出す」との見方を示しました。

「送電網の効率をおそらく30〜40%向上させることができると思います」

さらに、核融合、新型バッテリー、超伝導体といったブレークスルー技術の実現をAIが加速することで、エネルギー問題そのものの構造が変わる可能性に言及しました。Commonwealth Fusionとの核融合研究にも取り組んでいるとのことです。

7. AI規制——「最も重要な技術に、最も国際協調が難しい時代」


7-1. 二つのリスク

ハサビス氏が指摘するAIのリスクは大きく2つです。

  1. 悪意ある利用(misuse):デュアルユース(二重用途)技術であるAIが、悪意あるアクターに転用されるリスク

  2. 技術的制御の問題:今日のシステムではなく、1〜2年後のより自律的でエージェント的なシステムを制御できるかどうか

7-2. 理想的な規制の形

ハサビス氏は、国際原子力機関(IAEA)のようなAI版の国際機関の設立を提案しました。

「欺瞞(deception)の能力を持つシステムは誰も作るべきではありません。そうでないと、他の安全装置を回避されてしまう可能性があります」

「人間が読めない機械言語でトークンを出力するAIシステムは望ましくありません。新たな脆弱性を生むことになります」

また、モデルに対する認証制度(カイトマークのような品質保証)を設け、消費者や企業が安心してその上に構築できる仕組みの構想も語りました。

しかし、その実現の難しさも率直に認めています。

「この最も重要かもしれない技術が、国際システムが非常に分断された時期と重なっているのは、正直に言って理想的ではありません」

8. 労働市場——「今回は違う」のか


8-1. 産業革命との比較

労働市場への影響について、ハサビス氏は、マーク・アンドリーセン氏の「過去と同じで問題ない」という楽観論に対し、やや慎重な立場を取りました。

「過去の革命的な技術では常に雇用の混乱がありました。それは確実に起こります。古い仕事がなくなり、想像もできなかった新しい高品質の仕事が生まれる。それが通常の流れです」

「ただ、AGIの到来は産業革命の10倍の規模が10倍の速度で展開されると考えています。1世紀ではなく、10年で」

産業革命以前の幼児死亡率が40%だったことに触れ、産業革命がもたらした恩恵を認めつつも、「今回はマイナス面をもう少しうまく軽減したい」と述べました。

8-2. 富の集中と再分配

AIによる富の集中については、いくつかの具体策を示しました。

  • 年金基金やソブリンウェルスファンドがAI企業に投資し、全国民がAIの恩恵を共有できる仕組み

  • 生産性向上が偏在する場合の再分配メカニズムの構築

  • インフラ整備などへの生産性利得の還元

9. 欧州とイギリスのテック産業——1兆ドル企業は生まれるか


9-1. ロンドンに留まる理由

シリコンバレーへの移転を何度も打診されながらロンドンに留まった理由について、ハサビス氏は以下のように説明しました。

「ケンブリッジ、オックスフォード、インペリアル、UCLなど世界トップ10に入る大学が3〜4つある。チューリング、ホーキング、ダーウィン、ニュートンという科学的ブレークスルーの豊かな遺産がある。しかし、それが野心的なディープテックスタートアップに結集されていなかっただけです」

また、シリコンバレーから距離を置くことのメリットも指摘しています。

「最新の流行に振り回されず、物事を深く考えるのに適しています。20年のミッションになると最初から分かっていたので、喧騒から少し離れていることはむしろ良かった」

9-2. 欧州の課題

欧州から1兆ドル企業が生まれるかという問いに対しては、Spotifyのダニエル・エク氏や自身のIsomorphic Labsの可能性に言及しつつも、構造的な課題を率直に語りました。

「スタートアップのアイデアをある水準まで育てるのは得意です。しかし、1兆ドルのグローバルプレーヤーへと飛躍するための10億ドル規模の資金調達がどこから来るのか。そのレベルの野心と、資本市場がそれを支える力がまだ不足しています」

特に、年金基金の投資規制の緩和がグロースステージの資金供給に不可欠だとの認識を示しました。

10. 誰も語っていない問い——AGI時代の哲学的課題


インタビューの終盤、ハサビス氏は意外な方向に話を広げました。

「多くの人が、AGIの経済的な問題を心配しています。でも、私がより心配しているのは哲学的な問いです。技術面と経済面がうまくいったとして、意味とは何か、目的とは何か、意識とは何か、人間であるとはどういうことか。偉大な新しい哲学者の助けが必要になるでしょう」

技術と経済の議論が中心を占めるAI業界において、存在論的な問いに向き合う準備を促すこの発言は、AGIの影響範囲の広さを改めて認識させるものです。

オススメ記事


👉 Next Big Wave——成長株・アイデアの種・トレンド深掘り



いいなと思ったら応援しよう!