UberがAWSとの契約を拡大し、自社チップGraviton+Trainium3の試用を開始
2026年4月、Uberが、AWS(Amazon Web Services) とのクラウド契約を拡大し、Amazonの自社設計チップGravitonと新型AIチップTrainium3の試用を開始することが発表された。Uberは、わずか2年前にOracleとGoogleに大型クラウド契約を結んだばかりだ。この動きは、Nvidiaへの長期的な脅威というよりも、「自社設計チップを持つクラウド」が顧客獲得で優位に立つという新しい競争構図を浮き彫りにしている。本記事ではその背景と投資家にとっての含意を整理する。
1. Uberのクラウド戦略——Oracle・GoogleからAWSへの重心移動
1-1. 2023年の大型契約
Uberは、歴史的に自社データセンターを運用してきたが、2023年2月にOracleとGoogleの2社と大型の複数年クラウド契約を締結し、自社インフラからの移行を宣言した。2024年12月のブログ記事でもこの方針を公式に再確認している。
「2023年2月、Uberは、オンプレミスのデータセンターからクラウドへの移行を開始した。 OCI(Oracle Cloud Infrastructure)とGoogle Cloud Platformを使い、大規模ワークロードの移行とARMベースのコンピュートインスタンスの導入という二重の課題に取り組んでいる」
特に、Oracle Cloud上でのAmpere製ARMチップの活用を強調していた点が注目に値する。
1-2. AWSの"横取り"
今回の発表で、Uberは、ライドシェア機能のさらに多くの部分をAWSのチップ上で稼働させることを決めた。採用するのは、Amazon自社設計の2種類のチップだ。
Graviton :低電力・ARMベースのサーバーCPU。汎用ワークロード向け
Trainium3 :NvidiaのGPUに対抗するAI専用チップ。新たにトライアルを開始
これは、Oracleのスター顧客の一つであるUberを、自社設計チップを武器にAWSが奪い取った構図だ。記事の元記事が指摘するように、これはNvidiaへの脅威というよりも、AWSからOracle・Googleへの「鼻を突きつける」動きだと言える。
2. Ampereの複雑な歴史——シリコンバレーの縁故ネットワーク
2-1. IntelのNo.2が創業した会社
Uberが、以前Oracle Cloud上で使っていたARMチップを製造していたのがAmpere Computingだ。同社の来歴は、シリコンバレーの人脈がいかに絡み合っているかを示す好例だ。
Ampereは、Intel CEO候補でありながら昇進を逃したRenee James氏が創業した。James氏は、プライベートエクイティ大手Carlyleでの投資家としての立場と、Oracle取締役としてのポジションを活用して資金を調達した。結果として、Oracleが同社の約3分の1を保有し、James氏は、Oracleの独立取締役としての地位を放棄する必要があった。
なお、James氏は、OracleによるNetSuiteの93億ドル買収(2016年)を承認した取締役の一人でもある。このNetSuite買収では、Larry Ellison氏が、NetSuiteの大株主だったことから、過払いを主張する株主訴訟が起きた(結果的には棄却)。
2-2. SoftBankによる買収とOracleの方針転換
2025年12月、Ampereの競合であったSoftBankが同社を買収。Oracleは、その持分を売却し、税引前27億ドルの利益を計上した。James氏は、2024年末にOracle取締役を退任し、Ampereからも離れている。
OracleのLarry Ellison氏は、Ampere売却の理由をこう述べた。
「データセンター向けのチップを自社設計することは、もはや競争優位ではないと考えるようになった。 チップは購入し、Nvidiaと大型契約を結ぶことを選んだ」
この方針転換は、OracleがOpenAI・Stargateプロジェクト向けのデータセンター建設に全力を注ぐ中で起きた。なお、Oracle、SoftBank、NvidiaはいずれもOpenAIを中心とする循環的取引ネットワークの一部でもある。
3. AWSの自社チップ戦略——「数十億ドルのビジネス」に成長
3-1. Trainiumの急成長
AWSのAIチップ戦略は急速に存在感を増している。2024年12月、Amazon CEOのAndy Jassy氏は、Trainiumについてこう述べた。
「Trainiumは、既に数十億ドル規模のビジネスになっている」
Uberは、Anthropic、OpenAI、Appleに次いで、AWSの自社設計AIチップを理由に契約を拡大または新規締結した大手企業の一つとなった。
3-2. 「自社チップを持つクラウド」の優位性
この一連の動きから見えるのは、クラウド競争の軸が、インフラコストやサービス範囲だけでなく、「どんなチップを提供できるか」に移りつつあるという構図だ。

Oracleが、「チップ設計はもはや優位性ではない」と判断した一方で、AWSはまさにその自社設計チップでOracleの顧客を奪っている。この対照的な戦略判断の帰結を、Uberの契約移動がリアルタイムで可視化している。
