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Google Cloud CEOが語る「AI時代の競争優位」——TPU・Anthropic・サイバーセキュリティの全貌を知れば、AI投資の見方が変わる

2025年のAI業界における最大の競争軸のひとつは、「計算資源(コンピュート)」の確保だ。OpenAIやAnthropicといったフロンティアラボが、「コンピュート不足」を繰り返し訴える中、Googleは、まったく異なる立場に立っている。自社チップを持ち、自社モデルを動かしながら、競合他社にすらインフラを提供できる余力——その背景には何があるのか。

Google Cloud CEOのトーマス・クリアン氏が語ったインタビューの内容は、同社の戦略的優位性を理解する上で多くの示唆を含んでいる。本稿では、TPU戦略、Anthropicとの特殊な関係、第8世代チップの意義、エージェント時代のボトルネック、そして、サイバーセキュリティへの対応まで、投資家・ビジネスマン向けに整理する。


1. GoogleはなぜAIコンピュートを「余らせられる」のか


1-1. 12年の長期計画と垂直統合の力

OpenAIやAnthropicが常にコンピュート制約を訴える中、Googleは、TPUを外部のAIラボにも提供できるほどの余力を持つ。この差の根本は「長期計画」と「垂直統合」にある。

クリアン氏によれば、GoogleはAIの急成長を早期に見越し、以下の構造的対策を積み重ねてきた。

  • エネルギー源の多様化(グリッド依存からの脱却)

  • データセンター用不動産の早期確保

  • データセンター構築を「建設(Construction)」から「製造(Manufacturing)」へシフト(製造はスピードが段違い)

  • マシン展開のサイクルタイム短縮

  • TPUの自社設計を約12年間継続し、今年第8世代を発表

特筆すべきは、TPUの活用範囲が、AIアルゴリズムにとどまらない点だ。資本市場のアルゴリズム取引(Citadelなど)や米エネルギー省の高性能コンピューティングにも展開されており、TPUは、「AI専用チップ」から「汎用インフラ」へと進化しつつある。

1-2. 「なぜ抱え込まないのか」という問いへの答え

コンピュート需要が無限に存在するなら、なぜGoogleは、競合他社にTPUを提供するのか。この疑問に対し、クリアン氏は明快に答えた。

「資金を生み出し続けなければ、これだけの投資を継続することはできない。ベンチャーキャピタルは無限に資金を供給できない。」

Googleは、Geminiのトークンを自ら販売する場合も、他社モデルの推論にチップを提供する場合も、自社でIPを保有しているため「どの経路でも良いマージンが維持できる」と強調する。外部への提供は、単なる副業ではなく、キャッシュフローを生みながら自社の競争力を高める循環構造だ。さらに、より大きな需要プールを持つことでサプライチェーンベンダーからも有利な条件を引き出せるという副次的メリットも存在する。

2. TPUのマネタイズ構造と収益の多角化


2-1. 三つの収益モデル

GoogleがTPUから収益を得る経路は大きく三つに分類できる。

  1. 自社Geminiモデルの学習・推論への活用(トークンとチップ両方を自社が収益化)

  2. 外部AIラボへの推論インフラ提供(AnthropicやOpenAIなど。チップを収益化)

  3. TPUの顧客データセンターへのアウトプレースメント(資本市場顧客向けなど、取引所近隣に展開)

クリアン氏は、Alphabetの設備投資の約半分がCloud向けであることを示唆し、かつその成長の大部分がGeminiと自社モデルによるものだと述べた。多角化した収益モデルは、サプライチェーンへの交渉力を高めると同時に、製品改善のフィードバックループも豊かにする。

3. 第8世代TPU——学習チップと推論チップの分離が意味するもの


3-1. AIワークロードの三つのフェーズ

今年発表予定の第8世代TPUでは、学習用(8T)と推論用(8i)という二種類のチップへの分化が実現した。この判断はAIワークロードの構造的変化を反映している。

  • 第一フェーズ(検索・QA型): 長い入力→短い出力。入力トークンが支配的。

  • 第二フェーズ(コンテンツ生成型): 短いプロンプト→大量の出力(画像・動画・音声)。出力トークンが激増。

  • 第三フェーズ(エージェント型): 数時間にわたるタスク実行、コンピューター操作、KVキャッシュの効率的管理が鍵。

エージェント時代のワークロードは、チップ設計に新たな要件を突きつけた。長時間タスク中のKVキャッシュ保持方法、VM(仮想マシン)の効率的な起動・停止、そして多拠点展開を可能にするAir冷却対応(8i)などがその代表例だ。

クリアン氏は、「推論チップ8iの需要は予想をはるかに上回った」と語り、推論市場の急拡大を示唆した。

3-2. TPUシステムの強みとは何か

クリアン氏は、TPUの強みを「チップ単体ではなくシステム全体」として捉える。

  • 第8世代TPU(8T): 9,600チップが単一の光学トーラスネットワーク上に接続。超高帯域・予測可能な低レイテンシを実現。

  • メモリ容量: 8T学習チップは単一システムに2ペタバイトのメモリを搭載。米国議会図書館のデジタル化資料の約100倍に相当。

  • ソフトウェアスタック: Jax、XLA、Pathways、PyTorchとの連携など、Google発のコンパイラ最適化技術群が積み重なる。

  • Goodput(有効スループット): 実際に有効な処理量をKPIとして設計に組み込む。

  • トークン/ワット比: 数年前からエネルギー効率を最優先に設計。電力コスト上昇への先手対応。

4. AnthropicはGoogleの「顧客」であり「競合」でもある


4-1. プラットフォーム企業としての合理性

Googleは、シリーズ投資を通じてAnthropicの株主でもあるが、Claudeは、企業市場でGeminiと直接競合する。同時に、Anthropicは、モデルのトレーニングとサービングにGoogleのTPUインフラを利用している。

この三重の関係についてクリアン氏は、「プラットフォーム企業にとって当然の姿」と語る。同様の文脈で、Appleが、Geminiモデルの契約をしていること——AndroidというGoogleの主要エコシステムと競合するはずのAppleと協働することも——プラットフォーム企業の現実として受け入れているという。

「自社チップを持ちながら需要がある方が、持たない状況よりはるかに良い」

4-2. 容量配分という難問

ただし、TPUの配分判断は単純ではない。Anthropicだけでなく、数百のAIラボや顧客がTPUを求めている現状で、Gemini向けアロケーションとの最適バランスをどう保つか——これはSundar Pichai CEO率いる経営チームが継続的に判断する事項だとクリアン氏は説明した。

5. 10兆パラメータモデルの提供可能性


Mythosは、約10兆パラメータとされる超大規模モデルだ。これを実際に「サーブ(提供)」することは現在のインフラで可能なのか。

クリアン氏は、Googleが開発・運用してきた「分散サービング(Disaggregated Serving)」技術に言及し、「世界最大のモデルでも提供できる」と自信を示した。設計哲学として「提供できないモデルは作らない」という原則を持つとも述べた。

また、事前学習スケーリングの鈍化(Scaling Slowdown)についての質問には、「チップ設計・システム設計・容量のいずれの観点でも、そのような兆候は見ていない」と明言。スケーリング継続への強気な姿勢を崩さなかった。

6. データセンターと社会的合意の形成


AIデータセンターに対する米国全体の支持率は約20%と低いとされる。クリアン氏は、この課題に対して、Googleが取り組む複数の施策を説明した。

  • Behind the Meterテクノロジー: グリッドからエネルギーを取らず、逆に余剰時はグリッドへ供給

  • 代替エネルギーへの積極投資: AI需要が生み出す新エネルギー供給機会の活用

  • PUE(電力使用効率)の最適化: 「100メガワットの計算に、いかに少ない電力を使うか」——業界最高水準を主張

  • 地域分散展開: 一拠点集中を避け、多くの地域コミュニティに分散して投資・雇用を創出

社会的な合意形成においては、技術活用の「実例」を積み重ねることが重要だとクリアン氏は強調する。ドイツ最大の健康保険会社がGeminiエージェントを導入し、患者からの問い合わせ対応時間を23分から数秒に短縮しながら、一人の雇用も削減しなかった事例はその代表例だ。また、米国臨床腫瘍学会(51,000人の会員)向けに、複雑な治療ガイドライン参照を支援するAIツールも開発中だという。

7. サイバーセキュリティ——AIが「攻撃力」と「防御力」を同時に高める現実


7-1. Mythosが突きつけた問い

Anthropicは、Mythosモデルが、サイバーセキュリティ分野で高度すぎる能力を持つとして、公開を見送ったとされる。Googleは、どこをもって「Geminiを安全に公開できる限界」と判断するのか。

クリアン氏は現実的な視点を示す。「Mythosが見つける脆弱性の一部は、オープンソースモデルでも検出できる。オープンソースモデルは、敵の手に渡ることを前提にしなければならない。」つまり、クローズドモデルの管理だけでは不十分であり、防御・修復の構造そのものを強化することが急務だという。

7-2. Googleの三層防御アプローチ

Googleは、ハイパースケーラー・モデルプロバイダー・サイバーセキュリティ企業(MandiantとWiz)という三つの役割を兼ねる。その立場から、実務的な三つの対応を進めている。

  1. 脆弱性発見と修復モデルの並行開発: 人間の修復速度では発見に追いつけないため、モデルによる修復支援が不可欠

  2. 継続的レッドチーミングエージェントの導入: 月1回の手動レッドチームでは不十分。継続的な自動攻撃シミュレーションが必要

  3. 脆弱性の優先順位付けエージェント: 膨大なコードの中から「何から手をつけるか」を判断するツール

Wizの買収(当初提示額は約230億ドル)は、このサイバーセキュリティ戦略の一環として位置づけられており、Geminiとの統合により「継続的検知→優先順位付け→自動修復」という一連のフローを実現しようとしている。

8. エンジニアリング生産性とアジェンティックコーディングの現実


8-1. 生産性向上は「採用削減」を意味するのか

ブロック(Block)のJack Dorsey CEOが社員の半数削減を発表し、AIを理由の一つとして挙げた。一方、クリアン氏は、Googleがセールス・製品開発・デプロイエンジニアリングなど複数領域で採用を継続・拡大していると説明した。

「企業はそれぞれの製品・サービスへの需要に基づいて判断する。私たちは十分な需要があるので投資を続けている。」

企業ごとの戦略的文脈や製品需要が異なる以上、一律に「AI=雇用削減」と結びつけることは難しい。

8-2. Jetski——Googleの社内コーディングハーネス

Google社内では、「Jetski」と呼ばれるコーディングツールが広く使われており、そのフィードバックがGeminiの改善ループに直結している。コードレビューへのGemini活用(セキュリティ脆弱性スキャン含む)、そして、Geminiを使った本番インシデントのトラブルシューティングまで、AIが開発サイクル全体に組み込まれている。

ただし、クリアン氏は、リスクについても率直に語った。「プロンプトを理解しても、生成されたコードのすべての挙動を説明できるわけではない」——AIがコードを生成してAIがレビューするループが深まるほど、人間の本質的な理解が薄れていくリスクは現実の課題だという。

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