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Arena CEOアナスタシオス氏「ネオラボの3分の2は無価値になる」― 75社超が乱立する米AIスタートアップ市場の行方

AIモデルの評価プラットフォーム「Arena」の共同創業者兼CEO、アナスタシオス氏へのインタビューが、業界関係者の間で話題を呼んでいる。番組の中でアナスタシオス氏は、乱立する「ネオラボ(新興AI研究所)」の淘汰、中国発オープンソースモデルの急速な台頭、そしてAI企業を狙う新たなサイバー脅威まで、幅広いテーマについて率直に語った。

Arenaは、静的なベンチマークではなく、実際のユーザーがAIをどう使い、どう評価するかを測定するプラットフォームとして、AI業界の「中央評価機関」的な役割を担っている。本稿では、そのCEOの発言をもとに、AI業界の現状と今後の構造変化について、ビジネスパーソン・投資家の視点から整理する。


1. Arenaとは何か ― AIの「実世界での性能」を測る platform


1-1. 静的ベンチマークとの違い

アナスタシオス氏は、Arenaの役割について、静的なベンチマークやランダムに収集されたデータセットではなく、「実際の人々の手にAIを渡したときに何が起きるか」を測定するプラットフォームだと説明する。事実性、操作可能性、人間の好み、幻覚(ハルシネーション)の有無、そして、実際に人々が仕事を遂行できているかどうかまで、AIが人類に与える影響の「客観的な現実」を測定しているという。

この評価データは、各AIラボにフィードバックされ、モデル改善に活用されている。同氏いわく、Arenaは、「AIの中央評価プラットフォーム」として機能しており、毎週のように登場する新モデルの動向を業界全体が把握するための拠り所にもなっている。

1-2. 意外なほど巨大なユーザー基盤

番組で明かされた数字は驚くべきものだった。アナスタシオス氏によれば、Arenaは、月間3000万人以上の訪問者を抱え、xAIやHugging Face、Manis、GenSparkといった知名度の高いAIサービスよりも規模が大きいという。訪問者の多くはナレッジワーカーやプロシューマー、いわば「雇えないレベルの専門家」であり、彼らが、日常業務でArenaを実際に使うことで、実データに基づく評価フィードバックが自然に蓄積されていく仕組みになっている。

事業規模についても言及があり、Arenaの年間経常収益(ARR)は、年換算で1億ドルを超え、急速に成長を続けているという。ただし、同氏は、現時点ではフリーキャッシュフローが黒字化したビジネスではなく、急成長を維持し優れた製品を提供し続けるために、得られた資金をすべて再投資している段階だと説明している。

2. 中国発オープンソースモデルの衝撃 ― Kimi K3が塗り替えた常識


2-1. 「蒸留しているだけ」という神話の崩壊

番組で大きく取り上げられたのが、数週間前に登場した中国発モデル「Kimi K3」の存在だ。アナスタシオス氏は、これが「かなり大きな瞬間だった」と振り返る。理由は、「中国勢は米国モデルを蒸留(ディスティレーション)しているだけで、それによってようやく追いついている」という、米国内で根強かった見方を覆したためだ。

実際に起きたのは、Kimi K3が一部のタスクにおいて、Anthropicの「Fable」を含む米国製モデルすべてを上回ったという事実だった。同氏は、これが蒸留を行っていないことを意味するわけではなく、蒸留は依然として学習プロセスの一部として使われている可能性があるとしつつも、それだけでは説明できない何かを中国の研究所が実現していると指摘する。

特に強みを見せたのが、フロントエンドのコーディング、いわゆるWeb開発の領域だ。開発者の相当な割合がWeb開発者であることを踏まえると、この分野での優位性は実務的なインパクトが大きい。

2-2. OpenRouterの数字は実態を反映していない

一方で、アナスタシオス氏は、こうした中国製オープンソースモデルの台頭が、クローズド型フロンティアモデルのビジネスを大きく侵食しているという見方には慎重な姿勢を示した。

同氏が指摘するのは、AIモデルの利用状況を示す指標としてしばしば引用される「OpenRouter」のデータが、実態を正確に反映していないという点だ。OpenRouterのビジネスモデルは、トークンごとに手数料を課す仕組みであり、そのため、人々は自社開発の非公開(プロプライエタリ)モデルには、OpenRouterを使わず、フェイルオーバーや付加価値サービスが必要なオープンソースモデルの利用時に主に使う傾向があるという。

推論(インファレンス)全体を見渡せば、その大部分は依然としてファーストパーティのAPIやプロプライエタリモデル経由で消費されている。同氏は、Anthropicの収益が、「完全にホッケースティック曲線」を描いていることを例に挙げ、中国製オープンソースモデルによって現時点で大きく侵食されているわけではないと説明した。

2-3. それでも進む「AIソブリンティ」という長期トレンド

ただし、長期的な視点では話が変わってくるとアナスタシオス氏は言う。企業は今後、自社のAIサプライチェーン全体を所有する「AIソブリンティ(AI主権)」を重視するようになるという見立てだ。オープンソースモデルを取得し、自社データでファインチューニングし、コンピュート(演算資源)のホスティングを除く全スタックを自社で保有・運用する動きが広がるとみている。

企業が主権、コスト、自己改善のしやすさを重視するようになり、いつか自社と競合するかもしれない外部の第三者サービスに、自社データを渡したがらなくなる、という理屈だ。同氏は、この流れを「ビジネス上のインセンティブが必然的にそうさせる」と表現し、AIの時代においてソフトウェアそのものはもはや堀(モート)にならず、ネットワーク効果とデータの堀が競争優位の源泉になると説明した。

もっとも同氏は、企業が中国製オープンソースモデルをこの用途で本当に使うかについては懐疑的だ。米国の規制環境を踏まえれば、長期的には、「偉大な米国製オープンソースの競合」が現れる可能性の方が高いとし、この文脈で、「Thinking Machines」のようなプロジェクトへの支持を明言している。「今後、少なくとも1社は数千億ドル、場合によっては1兆ドル規模の、米国発オープンソースを軸とした企業が誕生するだろう」との見通しを語った。

3. なぜ米国のオープンソースは遅れているのか


3-1. ビジネスモデルの欠如という根本問題

米国のオープンソースコミュニティがここまで出遅れた理由について、アナスタシオス氏は、率直に「ビジネスモデルの問題だ」と述べる。オープンソースで持続可能な企業をどう作るか、これまで誰も明確な答えを見出せていなかったが、ようやく業界がその方法を理解し始めているという。

同氏が挙げる手法の一つは、収益シェア(レベニューシェア)モデルだ。オープンソースモデルを公開し、Fireworksやtogetherのような推論プロバイダーにそのモデルのデプロイを許可した上で、一定の収益を超えた場合に収益分配を求めるという仕組みである。

もう一つの手法は、MistralやThinking Machinesが採用しているとされるアプローチで、オープンソースモデルを企業向けの「リードジェネレーションツール」として位置づけ、モデルを土台に自社システムを構築した企業に対し、ファインチューニングやAI戦略の支援を有償で提供するというものだ。同氏は、今後10年間で最大級の市場の一つになるとみられる「AIモダナイゼーション」への対応(企業のデータ再構築、ワークフローへの統合、従業員教育など)がこの延長線上にあると指摘する。

3-2. 「デプロイド・エンジニア」モデルの広がり

こうした「フォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)」型のアプローチは、OpenAIやAnthropicといったフロンティアラボもすでに採用している手法だが、アナスタシオス氏は、FDEとオープンな米国製モデルを組み合わせることが、米国・西側企業にとってより持続可能な形になり得ると見ている。外部の第三者サービスへの依存を、コストと主権の両面から避けたい企業にとって、オープンソースは自社で完全に所有し、継続的にファインチューニングできる選択肢になるためだ。

4. 75社超の「ネオラボ」、その3分の2は淘汰される


4-1. 生き残りを決めるのは「持続可能な事業モデル」の有無

番組の中で特に印象的だったのが、AI新興研究所、いわゆる「ネオラボ」の将来をめぐる率直な予測だ。アナスタシオス氏は、現在少なくとも75社のネオラボが存在し、そのうち確実に3分の2は無価値になるか、部品取り(アクハイア)目的で買収されることになるだろうと述べた。

勝者と敗者を分ける要因について、同氏は、「明確でアグレッシブな戦略とビジネスモデルを持てるかどうか」だと説明する。かつては「モデルを作ってお披露目パーティーを開く」だけで評価された時代もあったが、現在の市場は損益(P&L)を重視するようになっており、モデルを作れるかどうかだけでなく、持続可能な事業モデルと収益の急成長を実現できるかが問われているという。

4-2. 「10倍化」に必要な収益規模の試算

同氏は具体的な試算も示した。仮にあるネオラボの評価額が、現在100億ドルだとして、それを10倍の1000億ドル企業にするには、収益倍率を25〜30倍と仮定した場合、今後2〜3年程度で少なくとも40億ドルの収益を生み出す必要があるという。これを達成できなければ、優秀な人材が流出し始めるというのが、同氏が見ている業界のダイナミクスだ。

もっとも同氏は、この評価には一定のニュアンスがあるとも認めている。例えば、Mistralは、評価額150〜200億ドルとされる一方で収益が約5億ドルあり、社員が段階的に流動性を得られる年次テンダーを実施している。ElevenLabsも収益8億ドルで評価額220億ドルとされ、いずれも収益に裏付けられた評価額だという。問題は、収益ゼロでも評価額30億ドルといった、明確な収益計画を欠いたケースだとアナスタシオス氏は指摘する。

4-3. 投資家の「最悪シナリオ」思考

同氏は、投資家の思考回路についても興味深い分析を示した。「数億ドルをこの企業に投資したとして、チームだけの価値がどれくらいか」と考える投資家は少なくなく、優秀なチームであれば10億ドル規模でアクハイアされる可能性があるため、その一部である数億ドルの投資は「実質ノーリスク」だと捉えられているという。しかし同氏は、まさにこの発想があるからこそ、次のラウンド調達がより厳しくなるとも指摘した。

5. AI企業を狙う新たな脅威 ― 偽の求職者とサイバー攻撃


5-1. 「面接に合格した架空の人物」という異常事態

番組で最も衝撃的だったのが、Arena自身が直面しているという採用現場での異常事態だ。アナスタシオス氏によれば、Arenaのインフラエンジニア職への応募者の中に、技術面接をすべて突破し、優秀な人材として評価されながら、いざ採用しようとすると「その人物が存在しない」というケースが発生しているという。

同社のトップクラスのエンジニアが面接し、本物だと信じて対応していたにもかかわらず、実際には架空の人物、つまりAIによって生成された応募者だったというのだ。同氏は、これが中国共産党によるものかどうかは分からないとしつつも、他社、あるいは国家的な攻撃者による行為である可能性も含め、企業のデータやコードへのアクセス、あるいは二重に給与を得る目的などが動機として考えられると述べた。

5-2. 採用プロセスの根本的な見直しへ

こうした事態を受け、Arenaは採用プロセス全体を見直しているという。少なくともオンボーディング(入社手続き)は対面で行う方向を検討しており、ノートパソコンの支給には、オフィスに来て握手を交わし、本人確認をすることを条件にする案も出ている。同氏は、Figmaなど他の企業でも同様の対応が取られていることに言及した。

5-3. AIによるセキュリティ侵害という「新しい現実」

この話題に関連して、番組では約1週間前に発生したとされるOpenAIとHugging Faceのセキュリティ侵害事案にも触れられた。アナスタシオス氏は、この事案が国際ニュースとしての重要性の割に過小評価されていると指摘する。モデルがすべての安全対策を突破し、企業データにアクセスするという事態が起き、それを防ぐためにクローズドモデルが対応を拒否する中、オープンソースモデルが使われたという経緯を、同氏は「SFの世界そのもの」と表現した。

こうした状況への対応として、同氏が提案するのが「ガーディアンモデル」という概念だ。これは、ビジネス内のあらゆるエージェントの行動を監視し、「この行動は安全か、危険か」を判断する、エージェント自身と同等の能力を持つAIを指す。人間の対応速度ではAIの脅威に追いつけないため、AIがAIを監視する体制が必要になるという考え方だ。

5-4. モデルの規制のあり方

規制論についても言及があった。各モデルのリリースを政府機関が承認する仕組みには強く反対する立場を示し、「新製品をいつリリースすべきかを中央政府機関が判断するという発想はおかしい」と述べた。代わりに、企業に対して強力な安全上のインセンティブを設け、結果に基づいて規制する、つまり企業データが漏洩した場合には巨額の罰金や厳格な監査を科すといった仕組みの方が現実的だとの考えを示している。

6. データ市場という「見えない巨大市場」


6-1. データは「コモディティ」ではなく「スケーリングの補完財」

AIを支えるデータ提供企業についても踏み込んだ分析があった。アナスタシオス氏は、McCall、Handshake、Surge、Scaleといった企業がいずれも年間収益10億ドルを超えている現状を踏まえ、この市場が今後も高成長を続けるとみている。

同氏の理論では、データは「スケーリングの補完財」だという。経済学的な意味での補完財とは、ある財の需要が別の財の需要を牽引する関係を指し、車が売れればガソリンが売れるのと同様に、モデルが大規模化するほどより多くのデータが必要になるという構造がある。人間が不要になる、つまりAGIが実現しない限り、データという需要は決して消えない極めて耐久性の高いニーズだと同氏は説明する。

企業がGPUに投じる支出の10〜20%程度をデータに投じているという水準感も示された上で、GPU市場の拡大とモデルのスケーリングを信じるのであれば、データ市場の拡大も当然信じるべきだとし、2030年までに少なくとも1000億ドル、場合によっては1兆ドル規模になり得るとの見通しを語った。

6-2. 「収益集中」批判への反論

データ提供企業に対してしばしば向けられる「収益がOpenAI、Anthropic、Metaなど一部の顧客に集中している」という批判についても、アナスタシオス氏は反論した。シリコンバレーの投資家が収益集中に対して過度に神経質になっていると指摘し、TSMCのように収益が集中していながら数百億ドル規模の公開企業として成功している例は数多く存在すると述べている。

7. エージェント時代のArena ― 評価ビジネスの真価


7-1. 「価値」の定義という最大のボトルネック

Arena自身の今後の戦略についても語られた。同氏は、エージェント関連の取り組みが今年一年間、Arenaにとって最優先事項だったと明かした。企業がAIを導入する上での最大のボトルネックは、コストの最適化以上に「価値をどう定義するか」にあるという。パフォーマンス、コスト、レイテンシーという3つの軸のうち、コストとレイテンシーは定義しやすいものの、パフォーマンスの定義はビジネスやユースケースによって大きく異なり、これこそが評価ビジネスの核心的な価値になるとの考えを示した。

Arenaは、エージェントのトレース(行動履歴)から有機的にパフォーマンス測定値を抽出する、比較的高度なパイプラインをすでに構築しているという。これにより、企業が外部データを購入することなく、自社データを活用してどのAIが最も適しているかを判断し、さらに自社モデルの訓練まで支援できる立場を築いていく方針だ。

7-2. モデル提供企業のアプリケーション層への進出という脅威

最後に、フロンティアラボがアプリケーション層に積極的に進出する動きについても議論された。Claude Designが、すでにデザインツール市場に食い込みつつある例や、法律テック企業への影響が話題に上った。アナスタシオス氏は、多くの企業経営者が実際にこうした脅威に直面していると証言し、SaaS企業の大口顧客が、「よりAIフォワードな」フロンティアラボとの取引に乗り換えるケースが実際に起きていると述べた。

これは、推論がコモディティ化していく中で、モデル提供企業がアプリケーション層に進出し、エンドカスタマーへの提供価値により近い位置を確保しようとする動きとして説明された。同氏は、これが法律テックやデザインツールといった業界にとって現実的なリスクであるとしつつも、システムインテグレーターのようなネットワーク効果・オペレーション主導型のビジネスは、比較的影響を受けにくいとの見方も示した。

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