CES 2026、Qualcommが語る6G時代の輪郭——5G成熟期の次に来るものとは
2026年1月、米国ラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)において、ワイヤレス業界の今後2年間を展望する重要なパネルディスカッションが行われた。Qualcommのシニアバイスプレジデント、Target Pathの消費者動向専門家、Samsungの製品責任者という3名のエキスパートが、技術、消費者需要、製品という3つの視点から、業界の変革と成長機会について語った。本稿では、その議論の要点を整理し、ワイヤレス業界が直面する新たな局面を解説する。
1. 業界を動かす3つの変革要因
パネルの冒頭で指摘されたのは、ワイヤレス業界が新たな変革期に入っているという認識だ。従来の変革が市場飽和への対応によって推進されてきたのに対し、現在の変革は技術革新、スペクトラム販売、通信事業者のリーダーシップ変更という3つの要因によって駆動されている。
特に注目すべきは、米国の主要通信事業者3社のうち2社で、2025年末から2026年初頭にかけて経営トップの交代があったことだ。これは単なる人事異動ではなく、業界全体が新しい戦略的方向性を模索している象徴的な出来事として捉えられている。Qualcommの技術専門家は、「通信インフラは国家資産として極めて重要であり、事業者は6Gネットワークの展開を見据えた長期戦略を構築している段階だ」と説明した。
2. AIとエッジコンピューティングの台頭
2-1. デバイス上でのデータ生成の重要性
会場を歩き回ると、AI(人工知能)が、ワイヤレス技術の使い方を根本的に変えていることが実感できるという。従来は「消費」が中心だったデータトラフィックが、今や「創造」へとシフトしている。
Qualcommの専門家は、興味深いデータポイントを提示した。「ユーザーが作成したデータ、IoTデバイスが生成したデータをネットワークに送り返すことの重要性が高まっている。これは消費から創造への転換点であり、2026年から2027年にかけて、デバイスからネットワークへの高品質なアップリンクの価値が認識されるだろう」。
これに伴い、通信事業者は、「QoS(Quality of Service)」や「差別化されたサービス」として、アップロード品質を重視したサービスを展開し始めている。
2-2. 新しいユーザーインターフェースとしてのAI
Samsung担当者によれば、Galaxy AIサービスの利用者のうち3分の2以上が定期的にAI機能を使用しているという。「AIは2024年、2025年のCESでバズワードだったが、今や消費者が毎日実際に使うサービスになっている」と述べた。
AI技術は、「新しいUI(ユーザーインターフェース)」として機能している。数百のアプリをダウンロードして個別に操作するのではなく、音声によるより直感的なインタラクションが可能になる「エージェンティックAI」の世界へと移行しつつある。
3. 多様化するデバイスフォームファクター
3-1. 折りたたみ式スマートフォンの進化
Samsungの製品責任者は、会場で三つ折りスマートフォンのプロトタイプを披露した。「今後2年間の成長は、フォームファクター(形状)の革新と新しい使用事例から生まれる。私の子供たちが私の年齢になる頃、従来型のバー型スマートフォンを持ち歩いていないことは確実だ」と語った。
折りたたみ式デバイスは、11インチのディスプレイでゲームや動画視聴を楽しむことができる一方、必要に応じてコンパクトに持ち運べる。用途に応じて最適な形状を選べる時代が到来しつつある。
3-2. ウェアラブルデバイスとヘルス機能
スマートウォッチは、かつては生産性向上のためのデバイスだったが、今では健康・ウェルネスデバイスとして確固たる地位を築いている。収集されるデータとAI処理能力により、より健康的なライフスタイルに関するフィードバックが提供されるようになった。
10年、20年後には、単一のデバイスではなく、スマートウォッチ、イヤホン、ARグラスなど、用途に応じた複数のデバイスを使い分ける時代になるだろう。Qualcommの専門家は「スマートフォンとBluetoothでペアリングする時代から、より多くのデバイスが直接セルラー接続される時代へと移行する」と予測した。
4. 消費者トレンドと販売機会
4-1. 電源ソリューションへの持続的需要
Target Pathの消費者動向専門家が会場の参加者に尋ねた。「携帯用バッテリーを持っている人は?」「充電ソリューションを持っている人は?」ほぼ全員が手を挙げた。これは消費者が抱える根本的な課題を示している。
パネリストによれば、電源関連製品は、引き続き最重要トレンドであり、特に携帯電源、多機能電源、複数デバイス対応の充電ソリューションへの需要が高い。スマートウォッチ、イヤホン、スマートフォンなど、複数のデバイスを常時使用する現代において、信頼性の高い電源ソリューションは不可欠だ。
興味深いことに、消費者の平均購入単価(ASP)の上昇に伴い、高品質なソリューションに対する支払い許容度も上がっている。「品質に対して対価を支払う意思がある」というデータが示されたことは、業界にとって重要な示唆となる。
4-2. コンテンツクリエーター市場の成長
新たに注目されているのがコンテンツクリエーター向け市場だ。高度な技術により、誰もが高品質なコンテンツを作成できるようになった結果、より優れたマイクロフォン、マウントドック、三脚、キャリングケースなどへの需要が急増している。
「遅延やアップロードの問題に対する許容度はゼロだ。人々は高品質を期待しており、データはそれに対価を払う意思があることを示している」とTarget Pathの専門家は述べた。
5. 今後2年間の展望と課題
5-1. ブレークスルー製品の予測
パネリストに「今後2年間でブレークスルーとなる製品」を尋ねたところ、以下の回答が得られた。
セルラー接続ARグラス(Qualcomm):屋外での拡張現実体験を可能にする、デバイスとペアリング不要のスマートグラス
音声対応ソリューション(Target Path):タッチ操作不要で、音声とコミュニケーションを統合した製品
多様なフォームファクター(Samsung):グラス、音声ソリューションなど、AIによるパーソナライゼーションを活かした新形状デバイス
5-2. 成功の鍵となる要素
最後に、業界が成功するために「最も重要な1つのこと」について質問が投げかけられた。
Qualcommは、「6Gに向けた米国のスペクトラム戦略の確立」を挙げた。2028年のロサンゼルス五輪は、米国の6Gリーダーシップを示す重要な機会となる。
Target Pathは、「サービスの信頼性」を強調した。多様なデバイスの利用が拡大する中、迅速で簡単、信頼性の高いサービスが求められる。
Samsungは、「消費者ファースト」の姿勢を挙げた。「関税やメモリ価格など外部要因への不安が多い環境だが、最終的に消費者を第一に考えることが成長を促進する。外部要因を気にしすぎると、本質を見失う」との見解を示した。
5-3. スマートホームとコネクテッド体験
Samsungは、SmartThingsが世界中で4億3000万のコネクテッドホームを実現していると発表した。消費者は、家中のさまざまなデバイスをシームレスに管理できる体験を期待している。10種類のアプリで別々に管理するのではなく、統合されたプラットフォームでの管理が求められている時代だ。
AIを統合すれば、電力消費やデバイス管理に関する洞察が得られ、より効率的な家庭環境を実現できる。
結論
CES 2026のパネルディスカッションは、ワイヤレス業界が単なる通信インフラから、AI、ヘルスケア、コンテンツ創造、スマートホームを統合する包括的なエコシステムへと進化していることを明確に示した。今後2年間、技術革新、消費者ニーズの変化、そして戦略的リーダーシップの変革が相まって、業界に大きな成長機会をもたらすだろう。
重要なのは、消費者が求めているのは単なる最新技術ではなく、「信頼性が高く、使いやすく、日常の課題を解決する」ソリューションであるということだ。この基本原則を忘れずに、新しい技術を統合していくことが、業界全体の成功につながる。

