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USV新ゼネラルパートナー、マイク・ミニャーノ氏がAI投資戦略を語る ― Suno出資は「即決」だった

ベンチャーキャピタルUnion Square Ventures(USV)に新たに参画したゼネラルパートナー、マイク・ミニャーノ氏が、ポッドキャストに出演し、AI業界の投資動向について語った。同氏は、ポッドキャストプラットフォーム「Anchor」の共同創業者としてスタートし、同社をSpotifyに売却した経歴を持つ。その後、Lightspeedでベンチャーキャピタリストに転身し、音楽生成AI「Suno」やメモ・議事録AIの「Granola」への早期投資で知られる人物である。本稿では、同氏が語ったAI投資の考え方、USVの投資哲学、そして、「アプリ層」を巡る業界の構造変化について整理する。


1. インフラ構築フェーズから「アプリケーション」の時代へ


ミニャーノ氏は、現在のAI業界を、インターネット黎明期における光ファイバー・ブロードバンド構築後の局面になぞらえた。OpenAI、Anthropic、xAI、SpaceXといった企業が巨額の資本を投じてインフラを構築してきた段階が一区切りつき、「今度はアプリケーションを構築する番だ」という見方を示した。

一方で、著名投資家ブランドン・マッカーサー氏の「今後24カ月はインフラ層のほうがアプリケーション層より価値が蓄積される」という見解については、部分的に同意しつつも、「インフラの構築はまだ終わっていないが、アプリケーション層でも大規模な価値創出が起きるだろう」と述べ、両方の層で機会があるとの見方を示した。

1-1. 「常時オン」のAIが持つ意味

サム・アルトマン氏が言及する「AIが常時稼働する世界」についても触れられ、ミニャーノ氏は、「文脈(コンテキスト)がラボにとってもアプリケーション層にとってもますます価値を持つようになる」と分析した。ミーティング議事録アプリ「Granola」を例に挙げ、日常会話の中で「これGranolaしてるよ」という表現を耳にする機会が増えている実態を紹介した。

2. 「Rebel Alliance」構想 ― オープンウェイトと分散型コンピュートへの賭け


ミニャーノ氏は、X(旧Twitter)上で「Rebel Alliance」という投稿を行い、オープンウェイトモデル、オープンソースのハーネス(モデルと密結合したアプリケーション)、分散コンピュート、そして、「人間に整合したエージェント」という新しい領域への関心を表明したという。

2-1. モデル業界の未来、2つのシナリオ

同氏は、5年後のモデル市場について、2つの未来像を提示した。ひとつは、特定のラボが、再帰的自己改善(自らのAI研究を行い、指数関数的に性能を向上させ続けるAI)に到達し、他を寄せ付けない優位性を確立するシナリオ。もうひとつは、技術がS字カーブ型の成長を辿り、一定の水準で頭打ちとなり、「コモディティ化」が進むシナリオである。

後者の場合、企業や個人は、「インテリジェンスと支出のトレードオフ」を意識し始め、オープンウェイトモデルの活用やルーティング層(タスクに応じて最適なモデルを選択する仕組み)の重要性が増すと分析した。

2-2. ルーティング層に巨大企業は生まれるか

ルーティング層の事業機会については、慎重な見方を示した。単純にモデル利用料に薄いマージンを乗せるだけのビジネスモデルでは、「コモディティ的なパイプ」に陥りかねないとし、「ルーティング層単体で500億ドル規模の企業が生まれるとは考えにくい」との見解を述べた。一方で、開発者のワークフローに深く組み込まれ、標準規格として定着するインフラ企業が過去にも存在してきた点を踏まえ、可能性そのものは否定しなかった。

3. 大手モデル企業はアプリ層を制覇できるか


ミニャーノ氏は、AnthropicがFigmaの対抗馬となるデザインツール開発チームを設けている事例に触れつつ、「Figmaは、依然として数十億ドル規模の売上を持つ事業であり続けている」と指摘した。市場のシェア構造についても、通常は勝者が市場全体の「30%程度」を握るにとどまり、残る70%には依然として大きな機会が残ると分析した。

3-1. AnthropicのLagora参入への見方

法律分野への進出を示唆するAnthropicの動きについて、ミニャーノ氏は率直な懸念を示した。「AGIを追求している最中に、Clifford ChanceやSlaughter and Mayの顧客を奪いに行くというのは、複数の理由から得策とは思えない」と述べ、モデル開発企業がアプリケーション層に過度に手を広げることへの疑問を呈した。

3-2. Abridgeが8年かけて築いた規制業界の参入障壁

規制の厳しい業界における先行者優位の事例として、ヘルスケアAI企業Abridgeが取り上げられた。USVは同社に2018年に出資しており、ミニャーノ氏は「規制の厳しい業界では、単に扉を開けて『今日からヘルスケアをやります』と言うだけでは通用しない。関係構築、パートナーシップ、規制上のハードルの突破が必要であり、それ自体が参入障壁になる」と説明した。同社が現在の転換点に至るまでには5〜7年を要したという。

4. USVの投資哲学 ― 「自動化ではなく、破壊」


USVの投資方針について、ミニャーノ氏は、「自動化するのではなく、破壊する(obliterate)」という考え方を紹介した。既存業務を効率化するだけの企業ではなく、市場構造そのものを再定義する企業に賭ける方針だという。

4-1. 「ポケットの中の医師」という発想

事例として、AI医療サービスのDoctronic(Dtronic)が挙げられた。USVは、同社のシード投資をリードしており、当時「誰もがポケットに医師を持つ」というアイデアは一見突飛に思われたという。ミニャーノ氏は「既存の医療業務を効率化するAIに投資することもできたが、我々は医師をポケットに入れ、モデルそのものを再定義するほうを選んだ」と振り返った。

4-2. エネルギー分野への長期的な賭け

USVは、2021年から一貫してエネルギー分野に投資を続けているという(なお同氏は収録中、年号を「2001年」と言い間違えている)。小型原子炉を手掛けるRadiant、発電設備の近くに直接設置するマイクロデータセンターを手掛けるRuneなど、AIの電力需要を支える周辺インフラへの投資が紹介された。ミニャーノ氏は、「どのモデルが勝っても、AIとインテリジェンスを信じるなら、その下にはエネルギー層が必要になる」と述べた。

5. 資金調達環境の変化 ― Series Aの評価額はどう変わったか


ベンチャー市場の環境変化についても言及があった。ミニャーノ氏は「今日、Series Aを実行するには4億ドル規模のファンドがなければほぼ不可能だ」と述べ、Series Aのポストマネー評価額が「8000万ドルから1.5億ドル、時に1億ドル」の水準にまで上昇していると説明した。USVが現在投資を行っているコアファンドの規模は2億7500万ドルだという。

5-1. 「価格を判断材料にする」という考え方

価格交渉における姿勢について、パートナーのフレッド・ウィルソン氏から「価格を理由に見送るな」という教訓を受け継いだと明かした一方で、USVのようなアーリーステージ中心のファンドでは、資金の制約上、価格に一定の上限を設けざるを得ない現実もあると述べた。

6. まとめ ― 「ファウンダー・マーケット・プロダクト」という優先順位


ミニャーノ氏は、投資判断における優先順位について、キャリア初期は、「プロダクト・マーケット・ファウンダー」の順で重視していたが、現在は、「ファウンダー・マーケット・プロダクト」の順に完全に転換したと述べた。理由として、アーリーステージのスタートアップの多くは何らかの形でピボットを経験するため、最終的に重要なのは創業者のレジリエンスと実行力、変化への適応力だという考えを示した。

本インタビュー全体を通じて浮かび上がるのは、AIインフラ構築の一巡後、投資の焦点がアプリケーション層・エネルギー層・規制産業における参入障壁の構築へと広がりつつあるという構造変化である。モデル開発企業がすべてを飲み込むという見方に対し、「大手企業でもすべてはできない」という歴史的な教訓が改めて意識されている点は、今後のAI関連投資を考える上で示唆に富む視点と言えるだろう。

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