Figma CEOディラン・フィールド氏「2年後、デザイナーという肩書きの人は今より大幅に増える」と予測
AIによってデザイナーの仕事が不要になるのではないか、という懸念は近年よく語られるテーマです。しかし、デザインツールFigmaのCEOであるディラン・フィールド氏は、トークイベントの場で、この懸念に対して、比較的楽観的な見解を示しました。あわせて、AIラボの事業拡大が既存のSaaS企業に与える影響や、Anthropicの元幹部がFigmaの取締役を退任した経緯についても言及しています。投資家・ビジネスパーソンとして押さえておきたいポイントを整理します。
1. ディラン・フィールド氏とFigmaの現在地
Figmaは、2012年に設立されたウェブベースのデザインツールで、フィールド氏は現在もCEOを務めています。同社は、昨年上場し、フィールド氏自身も「Figmaは上場してから、かなり激しい展開があった」と振り返っています。
フィールド氏は、個人的にもAIへの関心が強く、対談の中では「バイブマシング(vibe mathing)」と呼ぶ趣味について語っています。これはAIを使って数学の問題に取り組むという個人的な実験で、「フィグマは、デザインプラットフォームなので、いつも検証可能性のない領域でモデルを評価している。逆に数学やコンピュータサイエンスの一部は、正しいか正しくないかが明確な検証可能な領域であり、その対比が面白い」と説明しています。
2. 「デザインは死んでいない」とする根拠
Figmaは、最近、「デザインは死んだ」という風潮を逆手に取った広告キャンペーンを展開しました。AIに指示文を入力するだけでアプリが作れる時代に、なぜデザインが死んでいないと言えるのか、フィールド氏は次のように説明しています。
「新しいモデルが登場するたびに、みんな『何かが終わった』と言いたがる。ただ実際には、AIの平均的な出力は、文章でもデザインでも同じことが言える」
2-1. 「書く力」「批判的思考力」を持つ人材の優位性
フィールド氏は、ライティングの分野を例に挙げ、「文章を書く力があり、批判的思考をきちんと働かせられる人にとっては、むしろ今は良い時期だ」と述べています。AIが生成する“平均的な”文章やデザインが増える中で、独自の視点や声(ボイス)を持つ人材の価値が相対的に高まるという見立てです。
同様に、Figma上で目にするデザインについても「多くの人がAIによる出力だと見分けられるようになってきている」と指摘しつつ、「創造的な声を持っていて、それを世に出すリスクを取る人にとっては、今はむしろ報われる時期だ」と語っています。
2-2. 「最初の出力で満足しない」ことの重要性
フィールド氏は、AIで素早く生成した最初の出力に満足せず、そこからさらに磨き込む姿勢の重要性を強調しています。「最初の草稿、最初の出力にとどまらず、そこからどう形を整え、磨き上げていくか。それができればできるほど、差別化につながる」との見解です。背景として、アプリストアのアプリ総数は大きく増加した一方で、実際に頻繁に使われているアプリの数はそれほど変わっていないというデータにも触れ、競争が激化する中での差別化の必要性を説明しています。
3. 「テイスト(taste)」という概念をめぐる議論
対談では、サンフランシスコで話題になっている「テイスト(taste、感性・センス)」という概念についても議論されました。これは「テイストがあればAIに代替されない」という論調で語られることが多い言葉です。
これに対し、フィールド氏は、「モデルが進化するたびに、何でもできると思い、その後限界を見つけ、それでも生活は続いていくというサイクルを繰り返している」と述べ、テイストを擁護する必要すら今のところないとの見方を示しています。同氏は、さらに、「モデルの学習データの分布の範囲内にとどまっている人より、人類の知識や創造性のフロンティアを実際に探求し、自分自身の表現として真に新しいものを作り出そうとする人の方が、良い状況にあると考えている」と述べています。
4. デザイナー需要は今後も増加するとの見立て
フィールド氏は、デザイナーの雇用についても前向きな見解を示しています。「取引先企業と話す中で、デザイナーを採用しているという声をよく聞く。他の職種の採用を止めていても、デザインは、社内で最も優先順位の高い採用領域のひとつになっている」と述べ、「今から2年後には、デザイナーという肩書きを持つ人が、今よりも大幅に増えているはずだ」と予測しています。
背景には、AIツールによって誰もが何かを素早く作れるようになったことで、エンジニアなど他職種の人材も「デザイン」という行為に足を踏み入れ始めているという変化があるとフィールド氏は説明しています。
5. Anthropic元幹部の取締役辞任と「Claude Design」発表の経緯
対談ではやや踏み込んだ話題として、Instagram共同創業者でAnthropicのプロダクト責任者を務めていたマイク・クリーガー氏が、今年に入って突然Figmaの取締役を辞任し、その数日後に、Anthropicが「Claude Design」という、Figmaと領域が近いプロダクトを発表したという経緯が取り上げられました。
フィールド氏は、この件について多くを語らなかったものの、「マイクは素晴らしい人物で、自分が本当に大切に思っている相手だ」と述べています。今後AIラボの経営幹部を再び自社の取締役会に迎えるかという質問に対しては、「予想外のプロダクトが出てくることもあると、今回の経験で分かった。相手の野心がどこにあるかによる」と慎重な姿勢を示しました。
5-1. AIラボの「隣接業界への進出」をどう見るか
フィールド氏は、AIラボが保険会社や会計事務所など隣接業界に事業を拡大し、既存企業にとって厳しい状況を作り出しているという論点についても触れています。OpenAIとAnthropicを対比し、「OpenAIは、ソーシャル機能やSoraなど多くのプロダクトを出し、その後、事業を絞り込むという難しい判断を下した。その判断自体には敬意を持っている」と述べた上で、「Anthropicは、今、より拡張的なフェーズにあり、多くのものを立ち上げようとしている。何がうまくいき、何がうまくいかないかは、1年後に分かるだろう」と評しています。
まとめ
Figma CEOのディラン・フィールド氏の発言からは、AIによってデザインという職能そのものが縮小するというよりも、「平均的な出力」が増える中で、独自の視点や仕上げの質を持つ人材・企業の価値が相対化される、という見立てが浮かび上がります。同時に、AIラボが既存ソフトウェア企業の事業領域に踏み込む動きは、SaaS企業にとって無視できない競争上の論点であり、マイク・クリーガー氏の取締役辞任とClaude Designの発表というエピソードは、その緊張関係を象徴する出来事といえるでしょう。
