Anthropic社内、Claude Tagが製品PRの65%を自動生成 ― Cat Wu・Thariq Shihipar両氏がClaude Code開発の裏側を語る
AI開発企業Anthropicのプロダクトマネージャー、Cat Wu氏とエンジニアリング責任者のThariq Shihipar氏が、開発者Simon Willison氏との対談形式のセッションに登壇し、Claude Code、Claude Tag、そして最新モデル「Fable」を巡る社内の開発体制について語った。本稿では、この対談の内容をもとに、AIエージェントを使った組織運営の実態を整理する。対象読者はビジネスパーソン・投資家を想定し、専門的な内容を平易に解説する。
1. コーディングエージェントが変えた日常業務
Wu氏は、Claude Codeが公開された2025年2月当初を振り返り、「あの頃は、エージェントが試みる一つ一つの動作を注意深く監視しなければならなかった。権限プロンプトのたびに、このファイルは確認したのかと問いただしていた」と述べた。それが現在では、細かい実装作業をClaudeに委ねられるようになり、チームは、「ユーザーに提供すべき体験は何か」といった、より創造的な仕事に時間を割けるようになったという。
Shihipar氏も同様に、Opus 4が登場した際の衝撃を振り返りつつ、「最新モデルの出力は、非常に高品質になった。ブランドチームの厳しい基準を、数時間で満たせるようになった」と述べ、要求水準自体が引き上がっている実感を語った。
1-1. プロダクトセンスの重要性が増す
Wu氏は、エンジニアに求められるスキルセットの変化についても言及した。「2年前なら、プロダクトマネージャーが顧客と対話を重ね、半年かけて仕様書をまとめるのが一般的だった。それが今では、アイデアから実装までの期間が半年〜1年からわずか1週間にまで短縮されている」とし、今後は、エンジニア自身が「何を作るべきか」というビジネスセンス・プロダクトセンスを磨く必要があると強調した。
2. Claude Tag ― チーム協働型のAIエージェント
対談の中心の一つが、1週間前に公開されたばかりの新機能「Claude Tag」だ。Shihipar氏は、これを「チームのコラボレーションツールに常駐するClaude」と説明する。Slack上で動作し、従来のエージェントと異なる点は「マルチプレイヤー」であることだという。一度チャンネルに追加すれば、本人だけでなくチームメンバー全員がやり取りに参加できる。
さらに、Claude Tagは、受動的ではなく能動的に動作する。「このチャンネルのバグ報告を監視し、修正のPRを立て、該当コードを最後に触ったエンジニアにタグ付けしてほしい、と伝えるだけで、チャンネルが存在する限りそれを続けてくれる」とShihipar氏は説明した。加えて、チーム単位の記憶機能も備えており、自然言語で伝えた運用ルールを、チャンネル全体の記憶として保持し続ける。
2-1. 社内PRの65%を生成
Shihipar氏は、Anthropic社内における導入効果について具体的な数字を明かした。「現在、Claude Tagは、当社の製品PRの65%を着地させている」という。これはプロダクトエンジニアリングチーム全体における数字だとされ、Shihipar氏は、「これは50%を超える、非常に大きな変化だ」と強調した。
役割分担としては、複雑なタスクを対話的に反復するには、Claude Codeが適しており、能動的にバックグラウンドで作業を進めるには、Claude Tagが向いているという。
3. 開発文化 ― 「徹底したドッグフーディング」
優先順位付けという難題について、Wu氏は、社内の徹底したドッグフーディング文化を挙げた。「自社製品を毎日使い、できないことがあれば、別の解決策を探すのではなく、製品自体を修正する」という姿勢だ。世界に公開する前に、まず社内全体、そして、早期顧客に共有し、率直なフィードバックを得た上で反復改善を重ねる。アクティブユーザー数やリテンション率について社内基準を設け、それを満たすまで公開しないという。
意外な成功事例として、Shihipar氏は、「リモートコントロール」機能を挙げた。モバイル端末やブラウザから、ローカル環境で動くClaude Codeセッションに接続できる機能だが、当初は本人自身が必要性を感じていなかったという。しかし、実際にリリースしてみると、「多くの人が毎晩、ノートPCを充電器に繋いだまま画面を閉じ、複数のリモートコントロールセッションを開いた状態でロックし、ソファからスマートフォンで操作するようになった」という利用実態が明らかになった。
4. コードレビューの自動化 ― 人間を段階的に外す
コードレビュー体制についても、両氏は具体的なプロセスを説明した。重要な領域には、「コードオーナー」を置き、必ず人間の承認を必要とする一方、それ以外の部分については、Claude自身によるコードレビューを段階的に拡大しているという。
Shihipar氏は、この移行について「怖く聞こえるかもしれないが、一夜にしてできることではない。信頼を積み上げるための地道な過程を経てきた」と述べた。具体的には、まず全件を人間がレビューする状態から始め、特定のファイル群への変更について「コードレビューが問題を100%捕捉している」と確認できた領域から、順に人間のレビューを外していったという。インシデントが発生した際には、原因となったPRを分析し、コードレビューの基準を更新した上で、それを評価用データセットに追加し、将来的な回帰を防ぐ仕組みも構築している。
5. システムプロンプトを80%削減した理由
Fable世代のモデルに関して、Shihipar氏は、システムプロンプトが80%削減されたことを明かした。背景には、「以前のモデルには、Claude を過剰に制約しすぎていた」という気づきがあったという。具体例として挙げられたのは、以前は例示を多く与えることが有効だったが、最新モデルでは例示を減らす方が、モデル自身の創造性が発揮される場合があるという発見だ。
また、「常に検証せよ」といった一律の指示についても見直しが行われた。Shihipar氏は、「フロントエンドの変更は必ず検証するように、という指示は9割方正しいが、残り1割のケースでは当てはまらない」と説明し、モデルの判断力の向上を前提に、より柔軟な指示へと書き換えたという。なお、この対応は、すべてのモデルに一律ではなく、最も先進的なモデルに限ってプロンプトを簡素化し、旧世代モデルには引き続きフルバージョンのプロンプトを用いているという。
6. Auto Modeとセキュリティ ― 2026年1月から社内運用
安全性に関する議論では、「Auto Mode」の運用実態が語られた。Shihipar氏によれば、「Anthropic社内ではほぼ全員がAuto Modeを使っている。長時間稼働するタスクを安全にこなす最良の方法だ」という。同社は、大規模な評価データセットを構築し、複数の外部レッドチームに依頼して敵対的環境を作り、プロンプトインジェクションなどの攻撃を試みてもらった上で、発見された問題をすべて緩和してきたと説明した。
同氏は、「100%を捉えているとは言わないが、主要なリスクカテゴリーについては、平均的な人間のレビュアーよりもはるかにリスクが低い」と述べた。Auto Modeは、ツール呼び出しやbashコマンドの実行時に、対話の文脈と指示内容を分類器が判断し、動的な権限管理を行う仕組みだという。社内での運用開始は2026年1月からで、その後の検証を経て一般提供に至ったとされる。
7. 人間の役割はどう変わるか
対談の終盤では、AIによる自動化が進む中での「喪失感」についても率直な議論があった。Wu氏は、「以前と同じ仕事を、今はプロンプト一つで済ませているだけだとしたら、それは寂しいことだと思う」と述べつつ、その対処法は「より野心的になること」だと強調した。同氏は、以前は手作業でコードを書いていたエンジニアが、今では別の言語への全面的な書き直しに挑戦している例を挙げ、「それがずっと野心的で、楽しんでいる」と説明した。
