宇宙最前線:PERUN成功、Isar再飛行準備、Neutron延期、HANBIT軌道打ち上げ目前
ヨーロッパとアジアの宇宙スタートアップが、静かにしかし着実に“次の一手”を打ち始めています。ポーランドのサブオービタルロケット、ドイツ発の小型ロケット、ニュージーランド発ベンチャーが育てた中型ロケット、そして韓国初の民間軌道ロケット――今週のニュースをつなげて見ると、「ポスト・スペースX時代」の勢力図が少しずつ浮かび上がってきます。
以下では、4つのニュースを軸に、技術的なポイントとビジネス的な意味を整理していきます。
1. ポーランド「PERUN」成功フライトが示す“サブオービタル市場”のリアル
ポーランドのスタートアップ SpaceForestが開発するサブオービタルロケット「PERUN」は、11.5m級の小型ロケットながら、最大50kgのペイロードを高度150kmまで運ぶことを目標とした機体です。
2023年の2回のフライトはいずれも異常が発生しましたが、11月22日に実施された3回目のフライトでは、計画高度約65kmに到達し、意図した試験目的をすべて達成したと報じられました。ポーランド語メディアの報道を翻訳すると、「Perun suborbital rocket の3度目の飛行は成功し、中央空軍訓練場ウストカから打ち上げられた」とされています。
1-1. 技術スペックと用途
全長:約11.5m
直径:45cm
最大ペイロード:50kg(約110ポンド)
最高到達高度:150km
飛行中は数分間の“マイクロ重力(ほぼ無重量)環境”を提供
PERUNのようなサブオービタルロケットは、「軌道投入」はしないものの、短時間の無重量環境・高高度環境を、繰り返し比較的安価に提供できるのがポイントです。素材の振る舞い、バイオ実験、精密機器のテストなど、軌道投入ほどのコストをかけたくない実験に向いています。
1-2. すでに“打ち上げインフラ”を押さえに行く動き
SpaceForestは、ポーランド国内だけでなく、ポルトガル沖サンタマリア島のスペースポートや、北海の海上発射拠点(Euro Spaceport と連携)からの打ち上げ合意も結んでいます。
「ロケットができた後に発射場を探す」のではなく、「試験段階から複数の発射拠点を押さえに行く」――この動きは、将来的な商業運用を見据えた布石と言えます。
2. Isar Aerospace:失敗から始まる“欧州版スペースX”への道
次に取り上げるのは、ドイツのIsar Aerospace。小型〜中型衛星をターゲットにした 2段式ロケット「Spectrum」を開発し、ノルウェーのアンドーヤ宇宙港から初フライトを行いました。
2-1. 初フライトは30秒で終わったが、それでも“前進”
最初の試験打ち上げでは、打ち上げ後まもなく姿勢が乱れ、約30秒で飛行を中断、海上に落下する結果となりました。しかし同社は、統合システムのデータ取得やフライト・ターミネーション・システムの検証という意味で「成功」と位置づけています。
これは「最初から完璧な軌道投入」を狙うのではなく、“飛ばして壊しながら学ぶ”という新興ロケット企業らしいアプローチです。
2-2. ESAとの契約が示す“信任投票”
Isar Aerospaceは、4億ユーロ超の資金調達に成功しており、欧州の宇宙スタートアップの中でもトップクラスの大型案件です。2025年8月には、ESA(欧州宇宙機関)と欧州委員会の「Flight Ticket Initiative」で、2026年以降に2ミッションを打ち上げる契約も獲得しました。
自社ロケットがまだ試験段階であるにもかかわらず、公共機関から本番ミッションを任される――これは、「欧州として SpaceX への依存を減らしたい」という政治的・戦略的な意図の表れでもあります。
3. ロケットラボ「Neutron」:あえて遅らせる“ミドル級ロケット”
3つ目は、ニュージーランド発スタートアップRocket Labの中型ロケット「Neutron」。小型ロケット「Electron」で実績を積んだ同社が、より大型の衛星コンステレーション市場を狙って開発している機体です。
当初は、2025年後半の初打ち上げが目標でしたが、Eric Berger(Ars Technica)の記事によると、デビューは2026年半ばへと延期される見通しです。
3-1. 「パッドを離れただけで成功とは呼ばない」
CEO のピーター・ベックは、インタビューの中で次のような趣旨の発言をしています。
「未検証のロケットを急いでパッドに持ち込んだ結果、何が起きてきたかは、みんな見てきました。ロケットラボは“とりあえず離陸したから成功”とは言いません。初フライトで軌道投入を目指すのが我々の方針です。」
そのうえで、「多くの新興ロケット企業は年1〜3回しか飛ばせておらず、高い打ち上げケイデンスと信頼性を両立できているのは、現状ほぼSpaceXと Rocket Labだけだ」とかなり辛辣に語っています。
3-2. フェアリングごと帰還するユニークな設計と「火星通信衛星」構想
Neutronの特徴は、フェアリング(ペイロードを覆う頭部)と1段目ブースターを一体で再使用する設計にあります。打ち上げ後、フェアリングが開いて2段目が飛び出した後、再び閉じて、そのまま1段目と一緒に帰還するというユニークなコンセプトです。
同社はこの Neutron を軸に、NASA が検討する「火星サンプルリターン」や「火星通信衛星(Mars Telecommunications Orbiter)」といったミッションにも商業提案を行っています。火星軌道上に中継衛星を置き、地表のローバーや将来の有人基地と、地球とのリアルタイム通信をつなぐ“インフラ事業者”になろうとしているのです。
4. 韓国 InnoSpaceと「HANBIT-Nano」:ブラジルからの初軌道打ち上げへ
最後は韓国の宇宙スタートアップInnoSpace。同社が開発する2段式小型ロケット「HANBIT-Nano」は、韓国企業として初めての民間軌道ロケットとなる計画で、ブラジル北東部のアルカンタラ宇宙センターからの打ち上げを目指しています。
元々は2025年11月の打ち上げを目標にしていましたが、準備作業の遅れなどを理由に、打ち上げウィンドウは12月17日〜22日(ブラジル時間)に再設定されました。
4-1. 韓国×ブラジルという「南半球コラボ」の意味
HANBIT-Nanoは、InnoSpace 自社製のTransport Erector Launcher(TEL)によって垂直状態に立ち上げられ、ブラジル空軍や国内企業・大学のペイロードを搭載する予定です。
ここで重要なのは、韓国の民間ロケットが、赤道に近いブラジルの発射場を活用している点です。赤道付近からの打ち上げは地球の自転速度の「おまけ」が使えるため、同じ燃料でもより効率よく軌道投入ができます。
韓国国内ではまだ民間向けの本格的な軌道発射場が整っていない中で、海外の発射場と組んででも市場参入を急ぐ――というスタートアップらしい戦略が見て取れます。
