AIとエネルギー転換、地政学リスクが変えるインフラ投資の新潮流
AIの普及、エネルギー転換、そして地政学的緊張――これらのメガトレンドは、グローバル経済のみならず、インフラ投資の風景そのものを大きく変えつつある。本記事では、Goldman Sachs Exchangesのインタビュー(2025年5月7日収録)から、ゴールドマン・サックス オルタナティブズ 資産運用部門 インフラストラクチャー統括責任者タヴィス・カネル氏の発言を引用しながら、インフラ投資の意義、セグメントの多様化、直面するリスクとチャンス、そして今後の見通しをわかりやすく整理する。
1. インフラ投資の位置付けと役割
1-1. ポートフォリオにおける分散効果
多くの大規模機関投資家は、総資産の6~7%をインフラ資産に配分しており、その主な理由の一つが「分散効果」だ。カネル氏も「インフラ資産クラスは、パブリック株式や債券、他のプライベートアセットと相関が低い」と指摘している。「低相関」は、市場変動時に安定したリターンをもたらす重要な特性である。
1-2. 経済不確実性への耐久性
過去3年間、高インフレや地政学的リスクが顕在化する中で、インフラは年率複合9%のリターンを実現した(カネル氏)。同期間、バイアウトPEは5%、不動産は-2%という結果と比べても、そのレジリエンス(耐久性)の高さが際立つ。
1-3. 高い絶対リターンの追求
インフラ投資は、リスク・リターンのスペクトルに応じた幅広い戦略を内包し、その多くがミッドティーン以上のターゲットリターンを掲げる。5年から10年の複利効果を考慮すれば、投資家にとって魅力的な絶対リターンを提供するポテンシャルがある。
2. インフラの定義と進化
2-1. 伝統的インフラからデジタル・エネルギーへ
かつて“お父さんのインフラ”と呼ばれた道路・橋梁などの伝統資産は、今やインフラ投資全体の20%未満にまで比率が低下。代わって注目を集めるのがエネルギー/エネルギー転換とデジタルインフラである。
2-2. 4つの投資セグメント
カネル氏はインフラを以下の4領域に分類する:
エネルギー・エネルギー転換(再エネ発電、蓄電池など)
デジタルインフラ(データセンター、ファイバー、タワー)
輸送・物流(従来の交通インフラに加え、サプライチェーン全体)
サーキュラーエコノミー(水処理、廃棄物、モジュラー建築など)
3. デジタルインフラの現状と課題
3-1. AIブームとデータセンター
クラウド需要の長期的な拡大に加え、AIトレーニングモデルの増加は、電力集約度と立地要件を一変させた。カネル氏は「GPUの計算性能はムーアの法則的に進化し続けており、電力消費の巨大化が課題」と語る。
3-2. 資本市場整備と残存価値懸念
データセンター開発は活発だが、スタビライズ後の売却市場は十分に成熟していない。長期リース終了後(5年、10年、15年後)の残存価値を見極めることが投資家の関心事となっている。
3-3. 電力需要の新フェーズ
過去20年間停滞していた電力需要が、データセンター等による年率3~4%の成長軌道に突入。これに伴い、送配電網および発電設備への巨額投資が求められている。
4. エネルギー転換の展望
4-1. 制度的支援と競争力
米国のインフレ削減法(IRA)は、クレジット強化をもたらしたが、カネル氏は「多くのクリーンエネ技術は補助金なしでもLCOE(均等化発電原価)で競争力を持つ」と強調する。外部環境の変化に備えつつ、長期的な政策の安定性確保が鍵となる。
4-2. ユーティリティ規模 vs 分散型発電
大規模ソーラー・ウィンド発電と、送電網を介さず消費地近傍で発電する分散型(DG)は、それぞれ異なるコスト優位性と建設スピードを持つ。特にDGは接続待ち時間を削減し、迅速な導入が可能だ。
4-3. エネルギー効率化のニーズ
多くの企業が最新技術へのアップデートを遂げておらず、ソリューションプロバイダーによる省エネ支援は、今後の重要な市場テーマとなる。
5. 地域別投資動向
5-1. 米国と欧州の比較
一般アセットでは米国市場が欧州の2~5倍だが、インフラではほぼ同規模。欧州では5,000億ユーロ規模のインフラ投資計画や、許認可改革による建設加速の動きが顕著だ。
5-2. 欧州のサーキュラーエコノミーリーダーシップ
北欧を中心に廃棄物リサイクル、水処理、モジュラー建築などで先行。建物のライフサイクル全体を循環モデル化し、高いエネルギー効率と柔軟性を両立している。
5-3. 新興市場の可能性
インドや中東では、政治リスクや為替リスクを織り込んだ上で、高速な都市化・インフラ需要への資本供給機会が拡大している。
6. 直面するリスクと投資機会
6-1. サプライチェーン・関税リスク
関税導入前に機材を前倒し調達するなど、COVID以降醸成されたサプライチェーン対応力が求められる。
6-2. 規制不確実性と政治リスク
消費者(有権者)に直結する規制資産では、価格設定権や認可基準の変更がリターンに直結。各国の政治動向に注視が必要だ。
6-3. 市場ボラティリティ下の買収・スピンアウト
不安定な株価環境は、パブリック・トゥ・プライベートや企業スピンアウトの好機にもなる。長期テーマに沿った資産は、公的市場で過小評価される傾向があるためだ。
インフラ投資は、脱炭素化、デジタル化、地政学的再編といったメガトレンドをダイレクトに享受できる資産クラスである。不確実性が高まるほど、長期的に安定したキャッシュフローと高い絶対リターンを狙えるインフラの魅力は一層増すだろう。今こそ、中長期視点でのポートフォリオ再構築を検討すべきタイミングと言える。
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