元LinkedIn CEO Ryan Roslanskが語る「AI時代に替えの利かない人材」になる方法
2026年3月、LinkedIn CEOのRyan RoslanskyとChief Economic Opportunity OfficerのAneesh Ramanが共著『Open to Work: How to Get Ahead in the Age of AI』を出版した。同書は、LinkedInのデータ、Microsoftのリサーチ、そして、10億人以上のメンバーからのストーリーを基に、AI時代に仕事・キャリア・企業がどのようにリアルタイムで変化しているかを明らかにしている。
本記事では、Roslansky氏がポッドキャスト「Young and Profiting」に出演した際のインタビューをもとに、AI時代のキャリア戦略の核心を整理する。10億人の職業データを日々目にする人物の言葉には、単なる啓発を超えた具体性がある。
1. スキルの70%が変わる──「傍観者」でいることのリスク
1-1. LinkedInデータが示す変化の速度
Roslansky氏は、LinkedInのプラットフォーム上で日々流れる膨大なデータ──企業の求人投稿、応募者のプロフィール更新、スキルのトレンド──から、労働市場の構造変化をリアルタイムで観測している。
同氏はインタビューで次のように語っている。「仕事に必要な平均的なスキルセットは、この数年で約25%変化した。2030年までに70%変わると予想している」と。
LinkedInの調査によると、2030年までに、ほとんどの仕事で使われるスキルの70%が変化し、AIがその触媒となっている。このシフトは採用にも影響を及ぼしており、スキルベースの採用を導入すれば、グローバルな人材プールを6.1倍に拡大できる可能性があるとLinkedInは分析している。
1-2. AIは仕事を奪うのか、作るのか
Roslansky氏は、「すべてが悲観的なわけではない」と付け加えた。「プラットフォーム上で、1年前には存在しなかった130万件の新しいAI関連の仕事が生まれている。データセンターの仕事、AIデータアノテーターの仕事、デプロイドエンジニアの仕事──AIによって実際に創出されている役割だ」と述べている。
LinkedInのデータによると、AIはわずか2年間で130万件の新しいAI関連の仕事を世界経済に追加した。AIエンジニアやデータ関連の職種が採用を牽引している。AI基盤インフラの成長も雇用に寄与しており、AIデータセンターに関連する60万件以上の新規雇用が生まれている。
ただし、この数字の解釈には注意が必要だ。130万件に含まれる多くの仕事は、完全に新しいポジションではなく、既存の役割にAIツールやワークフローの理解が求められるようになったものである。
Roslansky氏の結論は明確だ。「この労働市場が変化している事実を受け入れないなら、あなたは取り残される。これは傍観していていい変化ではない。何らかの形で参加しなければならない」。
2. 「ワークショック」──なぜ今回の変化は過去と違うのか
2-1. 不確実性のスピード
Roslansky氏は、自身のキャリアで3〜4回の大きな技術変革を経験してきたが、AIは「過去に見たことのない速さで動いている」と語る。
「毎朝起きるとヘッドラインに何か新しいことが書いてある。数週間前はChatGPTがすべてだった。次はClaude。その次はClaude Code。そしてOpen Claudeが出てきて、『ああ、また新しいものだ』となる。私のキャリアで最もクレイジーな時期だ」。
2-2. テクノロジーそのものの不透明さ
同氏は、AIの独特な困難さについてこう述べた。「このテクノロジーは、少し理解しにくいように意図的に作られているかのようだ。あなたがどんなに頭が良くても、何を学んできても、これらのモデルは誰も本当には理解していない方法で動作し、過去のテクノロジーとは異なる形で進化している」。
人は不確実性を嫌い、企業も不確実性の中で舵取りを嫌い、市場も不確実性の中での将来予測を嫌う。この三重の不確実性こそが、RoslanskとRamanが「ワークショック」と呼ぶ現象の本質である。
3. タスクで考える──「3バケット・フレームワーク」
3-1. 肩書きを捨てて、自分の仕事を分解する
Roslansky氏は、聴衆にこう問いかけている。「自分の肩書きを使うことが禁止されたと想像してほしい。仕事は失わない、クビにもならない。でも肩書きで自分を語ることはできない。その上で、自分が毎日何をしているか説明しなければならない」。
こう考えることで、2つのことに気づくという。第一に、「自分の肩書きが示す以上のことを実はやっている」。第二に、「自分の日々の仕事で本当に重要なことは何かがわかる」。
3-2. 3つのバケットに分類する
典型的な仕事には10〜20の重要なタスクがあると同氏は述べ、それらを3つのバケットに分類することを勧めている。
バケット1:高度に自動化可能なタスク ── AIが完全に代替できるもの。
バケット2:AIが生産性を高めるタスク ── AIの支援でより良い成果を出せるもの。
バケット3:AIによる自動化が難しいタスク ── 人間固有の判断・創造性が必要なもの。
「もしあなたの仕事がバケット1のタスクだけで構成されているなら、率直に言って、新しい仕事を探すことを考え始めなければならない。ほとんどの仕事はそうではないが」。
4. LinkedInが導入した「ビルダー」という新職種
4-1. 5つの役割を1つに統合
Roslansky氏は、LinkedInが自ら採用のあり方を変えた事例を紹介した。
「かつてLinkedInではソフトウェア開発プロセスの中に4〜5つの職種を別々に採用していた。グラフィックデザイナー、プロダクトマネージャー、プロダクトマーケター、フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア。しかし、AIツールを装備すれば、一人でこれらの多くのタスクを実行できることがわかった」。
そこでLinkedInは、「ビルダー(Builder)」という新しい役割を創設した。エントリーレベルの「アソシエイト・プロダクト・ビルダー」として、従来のバーティカルなスキルを一つの役割に統合している。
LinkedInは、昨年「フルスタック・ビルダー」プログラムを立ち上げた。職種に関係なく、従来チーム間で分割されていたスキルを身につけるための訓練プログラムで、LinkedInのAneesh Raman氏は「デザイン、プロダクト、エンジニアリング間のベルトコンベアーに数日〜数週間かかっていたものを、AIツールを持つ個人に委ねる」と説明している。
4-2. 学歴は問わない、「何を作ったか」を見る
採用基準も根本的に変わった。Roslansky氏はこう述べている。「応募するために大学を出ているかとか、何を勉強したかは正直どうでもいい。AIを使って実際に何を作れるかを見たい。応募プロセスは『AIを使って何を作ったか見せてくれ』というものだ」。
LinkedInの採用ページでも、エントリーレベルのエンジニアと「アソシエイト・プロダクト・ビルダー(APB)」の2つのパスが明示されている。
5. 5つのC──AI時代に最も価値のある「ヒューマンスキル」
5-1. ソフトスキルは「最も重要なスキル」になった
Roslansky氏は、AIツールがハードスキルを民主化する中で、本当の差別化要因は人間固有のスキルにあると主張する。
「多くの人がAIツールにアクセスでき、歴史的にハードスキルと呼ばれてきたことの多くをこなせるなら、そのスキルは民主化される。そしてより価値があり重要になるのは、その上にある人間固有のスキルだ。私たちはそれを『ソフトスキル』と呼んできたが、ソフトスキルと呼ぶと『大して重要じゃない』と感じてしまう。皮肉なことに、今やそれが最も重要なスキルだ」。
同書では、未来は変化に抵抗する者ではなく、適応する者のものであり、創造性、好奇心、コミュニケーションといった人間固有のスキルを発展させることが鍵だと論じている。
5-2. 5つのCとは何か
具体的に、Roslansky氏が挙げる「5つのC」は以下の通りだ。
Communication(コミュニケーション):人と会話し、ストーリーを伝え、チームを動かす力
Compassion(共感力):他者の立場を理解し、信頼関係を構築する力
Creativity(創造性):AIには生み出せない新しいアイデアや切り口を考える力
Courage(勇気):不確実な状況でも行動を起こし、リスクを取る力
Collaboration(協働力):意見が対立するときも、チームとして成果を出す力
LinkedInのデータでも、AIリテラシーが多くの役割で基本要件になるにつれ、雇用主は共感やパーソナルコネクションといった人間的な能力にさらに大きな価値を置くようになっている。本当の競争優位は、AI流暢さとこれらの人間固有の強みを組み合わせた人材から生まれるとLinkedInは指摘している。
5-3. 教育システムの課題
同氏は、ソフトスキルの教育について警鐘を鳴らしている。「教育システムは大部分が別の時代のために構築されたものであり、おそらく全盛期を過ぎている。これらのソフトスキルを教える能力を、これまで本当に重視してこなかった。それが今後最も価値のあるコモディティになるなら、社会として人々がこれらのスキルを持てるようにする方法を見つけることが不可欠になる」。
6. 「オンリーネス」──あなただけの競争優位を見つける
6-1. スキルが民主化される世界で何が自分を際立たせるか
Roslansky氏は、起業家だけでなくすべての職業人に、自分の「オンリーネス(Onlyness)」──自分だけの独自性──を見つけることを勧めている。
「ボタンひとつでウェブサイトを作れたり、モバイルアプリを作れたりする世界で、何があなたのものを際立たせるのか。次の顧客を獲得できるようにするものは何か。自分自身について、それを理解することがスタート地点だ」。
6-2. 全員がもっと「起業家的」に考えるべき
「ほとんどの起業家は、生き残るために何が自分をユニークにするかを深く理解している。しかし、起業家ではないほとんどの人は、そうは考えていない。労働市場は大きくシフトしていく。自分が誰であろうと、キャリアについてもっと起業家的に考えなければならなくなる」。
7. 「パーソナルAI」を育てる──時間投資の重要性
7-1. 浅い利用は競争力にならない
インタビューの中で、ホストが「AIに自分のメール、Slackメッセージ、スキルをすべて読み込ませ、2年間かけてトレーニングしてきた人と、今から始める人では圧倒的な差がある」と指摘した。
Roslansky氏はこれに強く同意し、こう述べた。「多くの人が『AIを使ったことがある』『少し試した』『あまり使えない』と言っている。率直に言って、それはコンテキストを設定したり、トレーニングしたり、自分が実現しようとしていることをAIに理解させるための時間と労力をかけていないからだ」。
7-2. Roslansky氏のハック
同氏は自身の実践法を明かしている。「私のベストハックのひとつは、スマホでCopilotを開いて、20分間ひたすら話しかけること。今日の予定はこうで、こういうことが起きていて、と大量のコンテキストを提供する。すべては次に聞く質問に、そのコンテキストが組み込まれるようにするための手段だ」。
8. スキルベース採用への移行──学歴フィルターの終焉
8-1. 10億人が数千人に絞られていた問題
LinkedInの最大の商用プロダクトは「LinkedIn Recruiter」で、何百万人もの採用担当者が毎日使用している。Roslansky氏は、従来の問題点を指摘する。
「3〜4年前、ほぼすべてのリクルーターが最初にフィルターをかけるのは2つだった。『この人はどこの大学を出たか?』と『この人は前どこで働いていたか?』だ。プリンストン出身なら優秀だろう、Googleで働いていたなら賢いだろう、と。10億人のメンバーベースをこの2つでフィルターすると、あっという間にごく小さなグループになる」。
その結果、同じ小さなプールを全企業が奪い合う非効率が生まれていた。
8-2. スキルファーストの検索へ
「最近、リクルーターツールでは最初に『その仕事に必要なスキル』で検索するように切り替えた。そうすると2つのことがわかる。第一に、LinkedInには実は膨大な人材プールが存在する。第二に、その人々はしばしば、あなたが存在すら知らなかった最も価値のある人材だ」。
ただし、Roslansky氏は「ツールを変えるだけでは不十分で、人間の本能はすぐ『でも、どこの大学?』に戻る。マインドセットの転換が不可欠だ」とも認めている。
9. シグナリング──AI時代の自己ブランディング
9-1. 3つのレバー
Roslansky氏は、AI時代に市場から発見されるための3つのレバーを挙げている。
第一に、オンラインで自分のアイデンティティを確立すること。「プロフィールを作ってそのまま放置して、良いことが起きるのを期待するのではダメだ。パーソナルブランドに時間と労力を投資しなければならない」。
第二に、ネットワークを構築すること。「ネットワーキングは古臭いと思われがちだが、人々が機会を見つけ、物事を成し遂げる方法は、しばしば人を通じてだ」。
第三に、ユニークな知識とインサイトをプラットフォーム上で共有すること。「LinkedInのすごいソートリーダーや有名クリエイターである必要はない。フィードの投稿にコメントで質問に答えるだけでもいい。コミュニティに参加するだけで、自分が何者で何ができるかを市場にシグナルできる」。
同氏は特に、AIツールを使って作ったものをLinkedIn上で共有する人々が、実際に仕事のオファーを受けている現象に注目している。「『なぜそれを共有するの?』と思うかもしれないが、こういう人たちが実際にリクルートされている。AIツールを革新的に使う能力をアピールしているからだ」。
10. 「Open to Work」はマインドセットである
10-1. 緑のバナーの効果
LinkedInの「Open to Work」機能──プロフィールに表示される緑色のサークル──は、時に「仕事に困っている」という否定的な印象を持たれることがある。
しかし、Roslansky氏はデータで反論する。「緑のバナーをオンにしている人は、採用される確率が27%高い」。
10-2. マインドセットとしての「Open to Work」
同氏にとって、「Open to Work」は単なる機能ではなく、AI時代のキャリアに対する姿勢そのものだ。
「自分を出していくこと、違う考え方をすること、ネットワークを活用すること、コミュニティを活用すること、適応すること、新しいスキルを学ぶこと──それがすべて、AIの世界で仕事の未来をナビゲートするために重要なことだ。Open to Workは何よりも、『自分のキャリアは自分の手の中にある』というマインドセットの転換だ」。
