見出し画像

JPモルガン2026年中間見通し ― MSCIワールド上位12%高、マグニフィセント7が牽引した半年間の全記録

2026年も半分が過ぎた。中東情勢の緊迫化という大きな地政学リスクを抱えながらも、世界経済は総じて底堅さを見せている。一方で、インフレは根強く、金融政策の先行きも不透明感が増している。本記事では、JPモルガンのポッドキャスト「Making Sense」における2026年中間見通しの内容をもとに、チーフグローバルエコノミストのブルース・カズマン氏をはじめとする各分野の専門家の見解を整理し、後半戦を見通すための論点を解説する。


1. 世界経済の現状 ― 中東ショックを乗り越えた「底堅さ」


チーフグローバルエコノミストのブルース・カズマン氏は、2026年上半期を振り返り次のように述べる。

「2026年上半期は、中東情勢という非常に大きな地政学的ショックを背景にしながらも、我々のコア・マクロ見通しを再確認する結果となった」

年初は、貿易摩擦への懸念が和らぎ、企業部門の回復と労働市場の「リカップリング(再連動)」が進んでいた。中東情勢によるエネルギー価格の上昇が消費者支出にブレーキをかけつつあるものの、世界経済全体の構図は大きく変わっていないという。

1-1. インフレの粘着性

インフレについては、ヘッドライン・コアともに上昇しているが、エネルギー価格の影響や年初の価格改定の集中が要因とされる。カズマン氏は今後の見通しについて次のように語る。

「米国でもグローバルでも、コアインフレは3%以上で推移し続けるだろう。粘着的で持続的なインフレはテーマとして続く」

米国の雇用成長は、月間10万人超を維持すると見込まれ、こうした背景から、ECB(欧州中央銀行)に続き、FRBも2027年入り後に緩やかな引き締めに向かうとの見通しが示されている。

2. 金利市場 ― 中東ショックが変えたFRBの利上げシナリオ


グローバル・レート戦略責任者のジェイ・バリー氏は、2026年上半期の金利市場について次のように総括する。

「今年に入り、市場参加者の多くは、中央銀行が様子見、あるいは追加緩和に向かうと見込んでいた。しかし、中東情勢がその見通しを完全に覆した」

ユーロ圏・英国では、エネルギーショックの影響が大きく、より積極的な利上げが市場に織り込まれた。米国でも、労働需要の底堅さから、FRBの「様子見」から「据え置き、場合によっては利上げ」への見通しシフトが進んでいるという。

2-1. 利上げの条件と3つのリスク

JPモルガンの基本シナリオでは、FRBの利上げは2027年後半を想定している。ただし、市場は既に今後1年で約30bpの利上げを価格に織り込んでいるとバリー氏は指摘する。利上げが正当化される条件として、失業率が持続的に4%に向けて低下することを挙げている。

同氏は今後注視すべきリスクとして以下を挙げた。

  1. 労働市場:失業率の低下がインフレ長期化と組み合わされば、より積極的な利上げ観測につながる

  2. FRB新議長ウォルシュ氏の政策姿勢:ハト派か、かつてのタカ派的スタンスに戻るか

  3. 中間選挙:共和党が下院を維持した場合、財政拡張(国防費増額など)への懸念からタームプレミアムが再浮上する可能性

  4. 中東情勢の再燃:和平が進まずエネルギー価格が再上昇するケース

3. 新興国市場 ― ドル安の恩恵と歴史的なタイトスプレッド


新興国ソブリンクレジット戦略責任者のベン・ラムジー氏は、新興国市場について「ドル安が大きな追い風になっている」と説明する。

「新興国は、この10年間、投資が過小配分されてきた資産クラスだ。ドル安・現地通貨高への転換は明確な恩恵となる」

2026年上半期のEMソブリンクレジットは、約2.5%のポジティブリターンを記録し、スプレッドは約30bp縮小、過去20年で最もタイトな水準にあるという。ただし、リスクとリワードは非対称的になっており、大幅な縮小余地は限られるとの見方も示された。

4. 株式市場 ― 記録的に狭い「勝ち組」


グローバル株式戦略責任者のミスラフ・マテイカ氏は、上半期の株式市場について次のように振り返る。

「MSCIワールドは、ドルベースで年初来12%超のトータルリターンを記録し、コモディティを除く全資産クラスを上回った」

この上昇を牽引したのは、地政学リスクとは、「直交(orthogonal)」した、いわゆる「マグニフィセント7」を中心とするAIトレードだったという。3月には、同グループが10年間で最も割安な水準になったとして「参入」を推奨したと同氏は述べる。

一方で、直近3ヶ月でベンチマークを上回った銘柄の比率は、過去最低水準に達しており、市場の広がりの乏しさが課題として指摘されている。後半戦では、金融・工業セクターや消費関連(高級品、航空、外食、小売など)への「ローテーション」が「ペイントレード」になり得るとの見通しが示された。

5. クレジット市場 ― 「目立った動きがない」という強さ


グローバル・ファンダメンタル・リサーチ共同責任者のスティーブン・デュレイク氏は、クレジット市場の特徴を次のように表現する。

「上半期のクレジット市場で最も注目すべき点は、目立った動きがなかったということかもしれない」

高いオールインイールドが、投資家の需要を支え、地政学リスクや金融政策への懸念があっても、クレジットスプレッドは他の資産クラスに比べて安定していたという。

5-1. プライベートクレジット市場の「原点回帰」

プライベートクレジット市場については、「リテール投資家の資金引き出しの継続」と「運用会社の淘汰」により、大手運用会社への集中が進む「原点回帰」が今後の方向性として示された。また、2028年に向けたソフトウェア企業の借換ニーズの高まりについても、深刻な問題ではなく「対応可能」との見立てが述べられている。

6. FX市場 ― 「米国例外主義」の復活


グローバルFX戦略共同責任者のミラ・チャンダン氏は、ドル指数自体は年初来ほぼ変わらないものの、通貨ペア別には大きなばらつきがあったと説明する。

「米イラン紛争を境に、米国例外主義の回帰が明確な転換点となった」

原油輸出国である米国は、エネルギー価格上昇の恩恵を受けた側面があるという。同氏は、ユーロドルが1.10へ向かう可能性や、ドル円が160台半ばに向かう可能性を挙げ、また人民元の政策姿勢が世界のFX市場全体に波及するリスクとして注視すべきだと述べた。

7. コモディティ市場 ― 原油は緩やかな正常化、銅は関税戦争のさなかに


ベース・貴金属戦略責任者のグレッグ・シェアラー氏は、ホルムズ海峡の供給再開について「2026年内に段階的に100%近くまで回復する」と見込む一方、実際の在庫減少幅は想定より小さく、需要破壊が一定程度進んでいる可能性を指摘した。

同氏は、ブレント原油の見通しについて次のように示している。

「2026年第3四半期は、1バレル約86ドル、第4四半期は約80ドル、年末には78ドル程度で終える見通しだ」

金については、新議長ウォルシュ氏のタカ派的な発言により「構造的なブル相場が一時的な停滞から、より深い停滞に入った」との見方が示された。一方、銅については米中の関税をめぐる綱引きが続くとし、価格は1トンあたり約15,000ドルまで上昇する可能性があるという。

8. クロスアセット全体の視点 ― 「リスクオン」の継続シナリオ


クロスアセット戦略責任者のファビオ・バッシ氏は、2026年後半の見通しについて次のように総括する。

「底堅い成長と粘着的なインフレという組み合わせが、上半期に見られた広範なリスクオンの流れを後半も強化すると考えている」

FRBは年内は据え置き、最初の利上げは2027年9月を基本シナリオとしつつ、コアPCEが3%を超える状況が続けば、2027年春や2026年12月にも前倒しされる可能性があるとした。株式のリーダーシップは、マグニフィセント7を超えてAI関連の資本支出テーマが広がる形になるとの見通しが示されている。

同氏は最後にリスク要因として、AI関連銘柄への「ポジションの集中」が一時的な急落や修正を招く可能性を挙げつつも、次のように述べている。

「FRBが慎重な姿勢を保ち、原油価格のテールリスクが後退し、AI需要が旺盛である限り、次のインフレショックやAI集中のエアポケットが訪れるまでは、リスクオンの道筋が続くだろう」

オススメ記事


Next Big Wave——成長株・アイデアの種・トレンド深掘り



いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー