フィラデルフィア半導体指数、3カ月で86%上昇 ─ 史上最高四半期を記録、メモリ株がNVIDIA超えの粗利85%を叩き出す
2026年6月末、米国の半導体セクターが歴史的な節目を迎えた。フィラデルフィア半導体指数(SOX)は、四半期ベースで86%上昇し、過去最高の四半期パフォーマンスに手が届く水準まで到達した。しかし、この上昇を主導したのは、多くの投資家が想定していたNVIDIAではない。主役は、メモリとストレージ──データセンター構築における「縁の下の力持ち」たちだ。
本稿では、Bloomberg Techの報道をもとに、この半導体ラリーの構造・注目すべき企業動向・周辺リスクを整理する。
1. 半導体株、史上最高の四半期へ ─ SOXが3カ月で86%上昇
1-1. 上昇相場の実態 ─ 激しい値動きの中の大幅高
直近の四半期を通じて、半導体株はきわめて高い変動性を示した。Bloombergのライアン・ブラステリカ記者は番組内でこう述べている。
「昨日だけで株価は一時3%下落し、その後3%上昇して引けた。ファンダメンタルズに何か変化があったわけではない」
それでも四半期全体では86%という大幅な上昇を達成した。年初来では100%に迫る水準であり、残り半年を残した時点でこれほどの騰落率を記録するのは異例だ。
1-2. 上昇を支えるのはメモリ・ストレージ銘柄
AIブームの第一フェーズを牽引したNVIDIAのGPUに対し、現在の相場を動かしているのは、Micron、Sandisk、Western Digital、Seagateといったメモリ・ストレージ関連企業だ。ブラステリカ記者はこう分析する。
「今年の本当の主役は、Micronだ。加えて、Sandisk、Western Digital、Seagateも同様。データセンター構築においてメモリがいかに不可欠かが、市場に正しく認識され始めている」
これらの企業はかつて、スマートフォンやPC・ゲーム機といった消費者向け需要に左右される「景気循環型」の性格が強かった。しかし現在は、AIインフラへの大規模投資によってその需給構造が根本から変わりつつある。
2. AIインフラ投資の恩恵 ─ メモリ需給のひっ迫と成長見通し
2-1. Micronが示す「サイクル変化」の証拠
Micronが直近に発表した決算は、業界の変化を端的に示すデータを提供した。最も注目されたのは、粗利益率85%という数字だ。これはNVIDIAを約10ポイント上回る水準であり、市場がいかにメモリの供給不足を反映した高価格を受け入れているかを示している。
Tortoise Capitalのシニアポートフォリオマネージャーであるロブ・サメル氏はこう述べた。
「メモリ市場は、明らかに供給不足の状態だ。Micronが粗利85%を達成できているのはその証左であり、こうした企業の収益とキャッシュフローは今後も着実に成長するだろう」
需給ひっ迫の解消時期については、アナリストによって見方が異なるが、2027〜2028年、場合によっては2030年まで高需要が続くとの見解も出ている。
2-2. データセンター需要のエコシステム ─ 電力・冷却・ネットワークへの波及
AIデータセンターの構築において必要とされるのはチップだけではない。サメル氏が言及するように、「電力・冷却・ネットワーク・ストレージ・メモリという5層構造(NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが好んで使う表現)」全体に投資機会がある。
同氏は、ハイパースケーラーの設備投資(CapEx)が年率20〜40%で拡大し続ける限り、インフラ各層の需要も同様のペースで成長すると見ている。中でも電力・電気については、米国が低コストで供給できる競争優位を持つとして注目する。
また、韓国のSK Hynixが、米国市場への上場(ADR)を検討していることも話題となった。HBM(高帯域幅メモリ)において57%のシェアを誇る同社のADR上場が実現すれば、AI半導体への投資機会はさらに広がることになる。
2-3. ピーク・アーニングスかどうかが最大の論点
一方で、投資家が気にしているのは「今がサイクルのピークではないか」という点だ。ブラステリカ記者はこう述べる。
「IntelやARMは、伝統的なバリュエーション指標で見ると割高だ。Micronは、割安に見えるが、歴史的にはそのタイミングが天井に近いことも多かった。今回のサイクルが過去と異なるのかどうか、それが最大の論点だ」
次の四半期で再び86%上昇するシナリオを描くのは難しいとしながらも、半導体セクターが市場のモメンタムの中心にあることは変わらない、というのが大方の見立てだ。
3. 新興勢力 Etched.AI ─ 推論特化チップで800億円超を調達
3-1. 「低電圧・分散メモリ」という差別化アーキテクチャ
AI推論(Inference)向け半導体スタートアップのEtched.AIが、Jane Streetなどから8億ドル(約1,200億円)の資金調達を完了し、約50億ドル(約7,500億円)の企業価値評価を得たと報じられた。創業からわずか数年での達成だ。
CEOのギャビン・ウベルティ氏は番組内でシステムの特徴を説明した。1ラックに32枚の自社チップを搭載し、チップ間でHBMおよびSRAMのメモリを共有できる「クラスタースケールメモリ技術」を採用。最大の特徴は電圧を一般的なNVIDIA GPUの半分以下に抑えることで、消費電力の大幅削減と同一HBM帯域幅あたりのトークン処理数増加を実現する。
「経済的なメリットは規模の経済として現れる。モデルが大きくなるほど、我々の技術的優位はより大きくなる」(ウベルティCEO)
3-2. NVIDIAの独占に挑む現実路線
現時点では、NVIDIAが技術的な独占状態にある。しかし、Etchedは、すでにベンチマークで世界最高水準のパフォーマンスを達成したとしており、一部顧客による実環境テストも進行中だという。プラットフォームチームの約半数がNVIDIA出身者というのも、技術的信頼性の裏付けとなっている。
4. SpaceX IPO ─ 韓国証券会社が10億ドル超の注文提出を失念
SpaceXのIPOをめぐり、韓国の証券会社Asset Securitiesが、10億ドル以上の顧客需要を抱えながら、最終的な注文提出を失念したことが明らかになった。23社あるアンダーライターの中で同社だけが株式の配分をゼロとされた。
Bloomberg記者のベイリー・リプシュルツ氏による報道によれば、同社は、5月の段階で顧客からの需要をまとめ幹事銀行に「意向表明(インディケーション・オブ・インタレスト)」として提出したが、6月のIPO本番に際して正式な注文書(オーダー)を提出しなかったため、配分対象から外れた。
「意向表明だけでは十分ではなく、価格決定の時期には正式な注文が必要だった。その手続きが行われなかったため、彼らはゼロになった」
規制当局はすでに調査に入っており、今後の正式な判断が注目される。なお、Bloomberg Intelligenceによれば、SpaceXの収益は、2030年までに現在比800%増に達する可能性があり、データセンター事業(xAIとの連携)がその主要ドライバーとなる見込みだ。
5. 輸出規制の執行強化 ─ スーパーマイクロ台湾拠点に家宅捜索
台湾当局がSuper Microのオフィスおよび関連ディストリビューター・データセンター事業者に対して家宅捜索を実施した。NVIDIAのチップを搭載したサーバーが中国へ不法輸出されたとの疑いに基づく捜査だ。
現時点では、台湾国内法上の違法行為ではないが、米国は、台湾に対して米国の輸出規制ルールへの整合を求めており、台湾当局も高性能チップの対中輸出を刑事罰の対象とすることを検討中とされる。Super Microは「当局と緊密に協力する」とコメントしている。
また、Appleが、ブラックリスト入りした中国半導体メーカーCXMTからメモリチップを購入するためにトランプ政権への承認申請を行っているとも報じられた。トム・コットン上院議員は「ブラックリスト入り企業のチップを使うことは、長期的な株主価値・顧客プライバシー・国家安全保障にとって重大な過ちだ」と警告している。
さらに、ワシントンのロビイスト業界でも変化が起きている。アリババやテンセントなどを代表してきた大手ロビー会社が、米国防総省と取引する企業との契約を優先するため、中国企業との契約を打ち切る動きが加速している。

