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「市場は我々の価値をゼロと言っている。だから全力で行く」——monday.com CEOが語るSaaS再定義の現在地

「ある日の朝11時、私はトラックに轢かれ、飛行機に衝突され、バーベキューにされたような気分だった」——これは、monday.com共同創業者兼CEOのEran Zinman氏が、現在の経営環境を表現した言葉だ。ARRは約13億ドルに達しながら、時価総額は3.9億ドルまで圧縮されている。SaaSセクター全体を覆う「SaaSアポカリプス」の波を、最前列で受けている経営者の一人が、率直にその現状と戦略を語った。


1. 株価と事業の乖離——何が起きているのか


1-1. センチメントと事業実態の分離

Zinman氏は、まず、公開市場の動きについて冷静な分析を示す。

「ビジネスの実態と、過去6ヶ月で劇的に変化したセンチメントを区別する必要がある」

決算説明会での業績は、「概ね正常に機能している」にもかかわらず、ソフトウェア企業全体への否定的なムードが市場を覆っているという認識だ。Service Nowが約50%下落、Salesforceが約60%下落する中、monday.comも例外ではない。

1-2. 「企業価値ゼロ」と言われた朝の心境

決算発表後、株価が70ドルまで下落した翌朝、Zinman氏は、意外にも「安堵した」と語る。

「時価総額3.7億ドル、現金約15億ドル、ARR約13億ドル——つまり、市場は我々の企業価値をゼロだと言っている。わかった。ならば今こそ作り直す時だ」

この認識の転換が、現在の「全力攻勢」戦略の出発点になっている。

2. SaaS企業を取り巻く5つの脅威——CEOの直接回答


Zinman氏は、現在市場が語る「ドゥームズデイシナリオ」を5つに整理した上で、それぞれに見解を示した。

2-1. 脅威①:バイブコーディングによる代替

CNBCでジャーナリストが、monday.comを数時間でバイブコードしてみせた映像が話題になった。Zinman氏はこれを「補完的なものだ」と捉える。

「インターフェースを作ることと、組織全体で機能するソフトウェアを構築することは全く別の話だ。ソフトウェアの本当の難しさはメンテナンスにある」

ビジネスの核心業務を抱える企業が、専任チームを置いて自社ソフトウェアを維持し続けることのコストは、既製品のSaaSコストを大幅に上回る——これが彼の立場だ。

2-2. 脅威②:OpenAI・Anthropicによるアプリケーション層の掌握

Anthropicが、Coworkやリーガルツールをリリースし、モデル会社がアプリケーション層へ進出するという懸念については、AWSの歴史を引き合いに出す。

「AWSが登場したとき、皆Amazonがエンタープライズソフトウェアの価値をすべて取ると言った。実際には逆のことが起きた。AWSの上に無数の企業が生まれ、ソフトウェアは指数関数的に成長した」

LLM企業が持つ最大の機会はインフラとしての地位であり、エンタープライズ営業という「全く別の業種」に本腰を入れる余地は限られているという見方だ。

2-3. 脅威③:エージェントによるデータベース化——「これは本当だ」

三番目の脅威——エージェントがシステムのトップに立ち、既存ソフトウェアが単なるデータベース層に成り下がる——については、Zinman氏は率直に認める。

「これは本当のことだと思う。だから難しい」

過去25年間、ソフトウェアの構造は本質的に変わっていない。CRMでも、ワークマネジメントでも、実際の仕事の90%はツールの外で行われ、データだけが記録されてきた。しかしAIはその方程式を変える。

「AIは仕事の70〜80%を担える可能性がある。そうなれば、大半の作業を代わりにやってくれないソフトウェアを誰も買わなくなる」

これがmonday.comにとっての「会社史上最大の転換点」という認識につながっている。

3. monday.comのAI活用の実態——SDR100名をエージェントに置き換えた


3-1. セールス業務の自動化

Zinman氏が最も具体的に語ったのが、セールス開発担当(SDR)の業務自動化だ。

以前は、100名のSDRチームが顧客からの問い合わせに対応し、資格確認・アポイント設定を行っていた。これを自社開発のAIエージェントで完全に置き換えた。

「以前は顧客への折り返しに平均24時間かかっていた。今は3分だ。コール応答率も上がり、商談化率も上がり、すべての指標が改善した」

AIは24時間365日稼働し、すべての言語に対応する。移管された元SDRのチームは、よりアウトバウンド寄りの業務に転換している。

3-2. カスタマーサポートとエンジニアリング

サポート業務もAIが主体となり、エンジニアリングチームはClaude CodeとCursorを全面採用している。Zinman氏は「AIによる効率化を最も積極的に推進している企業の一つ」と自負するが、現時点では開発者の生産性向上と同時に「新たなボトルネック」が発生しており、継続的な改善の途上にあるとも語った。

4. SaaSの価格モデル変革——シートからコンサンプションへ


4-1. ヘッドカウントが減るとシートベースは機能しない

「ヘッドカウントが増えることを前提に設計されたシートベースの課金モデルは、エージェント時代に機能しなくなる」——この問いに対してZinman氏は明確に答えた。

「最終的には100%コンサンプション(消費量ベース)に移行する。まずはハイブリッドで、段階的に移行していく」

エージェントがソフトウェアの「購買者」になる時代、利用量に応じた課金は理にかなっている。DockerやAWSのモデルがその先例となる。

4-2. ソフトウェアのTAMは100倍になる

Zinman氏はより大きなフレームで捉える。

「企業の支出構造を考えると、現在はコストの60〜70%が人件費で、ソフトウェアは7〜8%程度だ。もしAIがヘッドカウントに依存しない成長を可能にするなら、CEOは喜んでソフトウェア支出を増やす。ソフトウェアのTAMは今後100倍になりうる」

これは悲観論ではなく、SaaS産業への強気のテーゼだ。

5. 公開企業 vs 非公開企業——プレッシャーが生む明瞭さ


「非公開企業の方が有利ではないか」という問いに、Zinman氏は逆の主張をする。

「公開企業であることで、私は市場からのメッセージを受け取り続けている。非公開なら無視できることも、私には無視できない。それが変化を加速させる」

株価という「外部の採点板」が、経営陣の変化への意志を強制的に研ぎ澄ませる——これが彼の逆説的な主張だ。

6. 感情と経営——深夜2時に目が覚める経営者の本音


Zinman氏は個人的な心境についても率直だった。決算後に株価が下落した日の翌朝は「午前2時に目が覚めて眠れなかった」と語る。それでも、水曜日に株価70ドルという数字を見て「安堵した」と言う。

「市場が言っている:企業価値はゼロ。わかった、では証明しよう。そう思ったら、急に気持ちが楽になった」

チームの目の中に「変化への興奮」を見出すことと、23年連れ添ったパートナー(妻)の存在が精神的な支えだという。彼がセラピストから受けたアドバイスは「感じていることを、言葉で彼女に伝えること」——脆弱性を見せることが、関係を深めるという教訓は、経営においても同様だと語った。

おわりに


monday.comの現在地は、SaaSセクター全体が直面している問いを凝縮している。エージェント時代に既存のソフトウェアはデータベース化するのか、それとも人間とエージェントをつなぐ新たなプラットフォームとして再定義されるのか。Zinman氏の答えは明確だ——変化できるかどうかが唯一の問いであり、その速さが勝負を決める。

投資家・ビジネスマンにとっての問いも同様だ。守りに入っている企業と、この局面を「生涯最大のチャンス」と捉えて攻めに出る企業——どちらに賭けるかは、各自の判断に委ねられている。

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