「Nvidiaは10兆ドルへ」──ウォール街のプロが語る半導体・SaaS・スピンオフの明暗
2026年4月、米国株式市場は歴史的な二極化の渦中にある。半導体セクターはフィラデルフィア半導体指数(SOX)が18日連続上昇という歴史的な記録を打ち立てる一方、かつて「鉄壁」と言われたエンタープライズSaaS企業群は好決算でも株価が急落する異常事態が続く。
本記事では、ポッドキャスト「The Compound and Friends」Episode 239で交わされた、元モルガン・スタンレー主席ストラテジストのAdam Parker(Trivariant Research CEO)とNew Edge Wealth共同創業者Rob Sicinの議論をベースに、投資家が今知るべきマーケットの構造変化を整理する。
1. SaaS株の「有罪推定」──好決算でも売られるメカニズム
1-1. ServiceNowの衝撃:売上22%成長でも株価−18%
ServiceNow株は、Q1 2026決算後に17%下落した。同四半期の業績はガイダンスのすべてのトップライン・収益性指標を上回ったにもかかわらず、中東での大型契約のクロージング遅延とArmis買収に伴う短期的なマージン圧力が嫌気された。
具体的には、調整後EPSは0.97ドル(予想0.96ドル)、売上高は37.7億ドル(予想37.4億ドル)で、売上は前年比22%増だった。しかし、市場の反応は厳しく、NOW株は、決算発表後に17.7%下落し、103.07ドルから84.78ドルへ。年初来では44.6%の下落となった。
番組でAdam Parkerが述べた「SaaS株は有罪が証明されるまで有罪(guilty until proven innocent)」という表現がまさに当てはまる状況だ。
1-2. なぜアナリスト予想を達成しても売られるのか
Parkerの分析によれば、問題の本質は「今日のファンダメンタルズ」ではなく「2030年のファンダメンタルズの確率分布」にある。アナリストのモデルは、粗利率80%・純利益率横ばいを2027〜29年にかけて維持する前提で組まれているが、AI関連ツールの統合コストや、CTO側からの価格圧力がその前提を崩しつつある。
彼は番組でこう指摘した。「まず利益で未達になり、やがて売上でも未達になる。中央値のソフトウェア企業は厳しくなる」。UBSも先週、CTOへの聞き取り調査で「コスト抑制(cost containment)」が共通キーワードだったと報告している。
ServiceNowの場合、非GAAPベースの営業利益率は、Q1で32%と前年同期の31%から改善したが、GAAPベースの粗利率は79%から75%に低下した。Armis買収に伴う統合コストと無形資産の償却がマージン圧縮の要因として挙げられている。
1-3. それでも買うなら「高い方」を選べ
逆説的だが、Parkerは、「安いソフトウェア株ではなく、高いソフトウェア株を買うべきだ」と主張する。集合的に市場は賢く、株価が安い企業は技術的陳腐化リスクが高いために安い。セキュリティ系(CrowdStrike、Palo Alto)やEDA(Cadence、Synopsys)のように、技術的代替が困難な銘柄ほどプレミアムには理由がある。過去のデータでも、リバウンド局面で勝つのは、「成長率が高く割高な銘柄」であり、「成長が遅く割安な銘柄」ではなかったという。
2. 半導体ラリーは「クレイジー」か?──史上最速のラリーとその根拠
2-1. SMH:年初来+40%超、SOXは18日連続高値更新
SMH(VanEck Semiconductor ETF)は、4月24日時点で506.58ドル、年初来リターンは40.67%に達した。SMHは、2026年で35%上昇し、過去12カ月では143%のリターンを記録している。
Yahoo Financeによれば、フィラデルフィア半導体指数(SOX)は歴史的な18日連続の上昇を記録し、Broadcom、TSMC、Micron、AMD、Intel、Texas Instrumentsなどに数百億ドル規模の価値を上乗せした。
番組でParkerに「今まで見た中で最もクレイジーか?」と問うと、答えは意外にも「No」だった。
2-2. Micron:時価総額5,430億ドルでJ&Jに迫る
2026年4月時点でMicronの時価総額は、約5,430億ドルに達した。Johnson & Johnsonに迫る規模だ。一見すると異常だが、直近四半期のMicronの売上は、240億ドル、EPSは12.20ドルで、売上予想を50億ドル、EPS予想を3.60ドル上回った。
Parkerは、番組で「ゼロ収益のミーム株が暴騰する方がよほどクレイジーだ」と述べ、アナリスト予想と実際のフリーキャッシュフローとの乖離は「25年間の市場で最大級の予想ミス」だと指摘した。
2-3. NvidiaのCUDAエコシステムと「10兆ドル」への道筋
Nvidia(NVDA)は、4月24日金曜日に時価総額5兆ドルの大台を奪還した。チップ株の強力なラリーに乗り、株価は1日で最大4.2%上昇し、時価総額は5.12兆ドルに達した。Nvidiaは、終値ベースで史上最高値を更新。208ドルで引け、2025年10月29日の日中最高値212.19ドルに迫っている。
Parkerは、番組で「Nvidiaは2020年代末までに時価総額10兆ドルに到達する」と予測した。その根拠は以下の通りだ。
CUDAプラットフォームのロックイン効果:15年間にわたる投資で構築されたCUDAの上に、AIエンジニアのほぼ全員が開発を行っている。切り替えコストは極めて高い。
年率15%成長を5年間維持:売上は少なくとも倍増し、フリーキャッシュフローは巨大。
セクターとして捉えるべき:エネルギー、ヘルスケア、公益を合わせた時価総額と比較されるが、Nvidiaは単一企業ではなく「セクター」として機能している。
ベアケースの弱さ:「ハイパースケーラー6社への依存」という批判に対し、AWSだけでも数千社にサービスを提供しており、実質的な顧客基盤は分散している。
3. テックのPER圧縮──何が起きているのか
3-1. 2021年の28.7倍から2026年の19倍へ
番組で紹介されたテック株のフォワードPE推移によると、2021年バブル期の28.7倍から2022年の「効率化の年」に18.5倍まで低下し、その後2024〜25年にかけて31〜32倍まで再上昇。2026年に入って19倍台まで急落している。
3-2. マルチプル低下=弱気シグナルではない
Parkerは、これを「Eの急上昇による見かけ上の現象」と指摘する。Q1 2026のS&P 500全体の利益成長のうち、45%がMicronとNvidiaの2社によるものだ。分母(将来利益予想)が急速に拡大すれば、株価が横ばいでもPERは低下する。逆に言えば、予想利益が実現すれば、現在のPER 19倍は数年後に「割安」と評価される可能性がある。
4. 注目の「夏のポートフォリオ」──New Edge Wealthチームの5銘柄
New Edge Wealthの投資チーム(Cameron Dawson、Jay Peters、Brian Nick)が提示した「バランス型」ポートフォリオは以下の構成だ。

ポイントは「現在の波に乗る銘柄」(AVGO、LRCX、NRG)、「地政学リスクへのオプション」(APA)、「ディフェンシブな質」(GILD)を組み合わせている点だ。
5. スピンオフの黄金時代が来るか──Parkerの独自リサーチ
5-1. スピンオフ企業は2年で業界平均+10%
Trivariant Researchの独自分析によると、スピンオフ企業(spin co)は、分離後252営業日(約1年)で業界対比でアウトパフォームを開始し、2年後には平均+10%の超過リターンを達成する。一方、親会社(remain co)は業界平均をわずかに下回る傾向がある。
5-2. なぜスピンオフ企業が勝つのか
税務上の動機で分離されるため、事前に数値が精査され、直後数四半期の業績達成確度が高い
新経営陣がフォーカスされた資本構造のもとで運営し、マージン拡大余地が大きい
業界の異なる事業を分離することで、各社に適正なバリュエーションが付与される
5-3. 2026年はスピンオフの当たり年?
2025年には20件のスピンオフが発表されたがまだ完了していないものが多く、中型株以上が6件含まれる。Parkerは、「法律事務所やバンカーが経営陣にスピンオフを提案する動きが加速している」と指摘し、今後数カ月で発表ラッシュが来る可能性を示唆した。
6. ヘルスケア:「市場が0%と見積もる確率に30〜40%で賭ける」
6-1. AI×ヘルスケアの過小評価
Parkerは、ヘルスケアセクターのオーバーウェイトを推奨し続けている(短期的には不調だと認めつつ)。その論拠は明快だ。
ヘルスケアの1株あたり売上高はS&P 500で30年連続増収
高齢化による構造的需要は不変
多数の従業員・低マージン・高売上の企業が多く、AI生産性向上の恩恵が最大化されやすい
半導体との相関が低く、ポートフォリオの分散効果が高い
彼は、「市場はヘルスケアが今後5年で最も好成績のセクターになる確率を0%と織り込んでいるが、実際には30〜40%ある」と述べ、その期待値の差を狙うと明言した。具体的にはMcKesson、Cardinal Health、Quest Diagnostics、Lab Corpなど「退屈だがGDP以上の成長が確実な」銘柄を挙げた。
6-2. 5年後の「売り時」を見据えた戦略
Parkerの長期シナリオは、「5年後にcomputational chemistry ETFなどが小売投資家の間で人気化した局面で、自分のヘルスケアのオーバーウェイトを利確する」というものだ。今はまだその入口にすぎない。
7. プライベートクレジットとBlackstone──ナラティブ vs. ファンダメンタルズ
7-1. Blackstone:AUM 1.3兆ドルで過去最高も株価は下落
BlackstoneのQ1 2026決算では、分配可能利益(DE)は、前年比25%増の17.6億ドル(1株あたり1.36ドル)、フィー関連利益(FRE)は23%増の15.5億ドル、AUMは過去最高の1.3兆ドルに達した。
しかし、好決算にもかかわらず株価はプレマーケットで5%下落した。CEO Schwarzmanは、決算コールで「プライベートクレジットセクターに対する非常にネガティブなキャンペーンの中を航行してきた」と述べた。
7-2. 「商品よりGP株を買え」
番組でのコンセンサスは明確だった。プライベートクレジットの「商品」(ローン)はまだ額面近辺で取引されており割安感に乏しいが、KKRやBlackstoneの「株式」は、大幅に下落しており、GP(ジェネラル・パートナー)レベルで参入する方が期待リターンが高い。Parkerは、「レバレッジなしで年13%のプライベートクレジット商品を勧められたとき、誰がそんな金利で借りるのかと思った。GP株の方が2年ベースではるかに良いディールだ」と指摘した。
8. BMNR(Bitmine)とEthereum──「非信者」が転向した理由
Rob Sicinは、Tom Lee(Fund Strat)が立ち上げたEthereum Treasury企業BMNRの社外取締役に就任した。かつては暗号資産に懐疑的だった同氏が転向した理由は、「コイン」ではなく「インフラ」としてのEthereumの価値に気づいたからだという。
プログラマブルで常時稼働:伝統的金融が断片化・仲介だらけ・営業時間限定なのに対し、Ethereumはリアルタイムかつ24時間稼働
ステーキング利回り3〜4%:バリデーター(トランザクション検証者)として「トールロード」的に収益を得られる
NYSE等がトークン化資産のプラットフォームとしてEthereumを検討中
AI時代の安全レイヤー:改ざん不可能な基盤として、AIの脅威に対する信頼性を提供
Sicinは「次のフェーズは投機ではなく、伝統的金融の新しいアーキテクチャへの統合だ」と述べた。

