【閑古鳥雑貨店のプク】お風呂掃除、排水溝の“アレ”に触らずに済んだ日
お風呂の排水口って、なるべく見たくない。
でも掃除しないと詰まるし、髪の毛も…アレも…。
そんなある日、看板猫プクの横で出会った小さな救世主の話です。
朝、シャワーを浴びながら、ふと思った。
昔より髪が細くなった気がする。
それなのに、排水溝はなぜか詰まりやすくなった。
増えたのか、抜けやすくなったのか…
れとも私の掃除が行き届かないだけなのか。
お風呂場のフタを開けるたび、渦巻く髪の毛の塊に、軽くため息をつく。
しばらく眺めたあと、割り箸でそっとすくうこの作業に、少し慣れてしまった自分がちょっとだけ、かなしかった。

「プクさん、またですよ。排水口に髪の毛の渦が…」
店に降りると、丸くなっていたプクが、ゆっくりと目を開けた。
ぴくりともしないその姿に、つい笑ってしまう。
「まあ、来客ゼロ日が続くよりはマシですけどね」
そうつぶやいて、レジの明かりを灯した。
店内は今日も変わらず、時計の秒針の音がよく響く。
静けさというより、もはや空気が固まっているような、そんな朝。

そんな中、ご近所の奥さんが久しぶりにふらりと来店された。
たしか、前回も洗面ボウルクリーナーをお買い上げくださったはず。
「これ、店主さんに合いそうだと思って。使ってみて?」
そう言って渡されたのが、FULNGの髪の毛キャッチャーだった。
聞けば、ブラックフライデーで間違って2つ買ったのだという。
「なんだか、あなたにぴったりな気がしてね」
と笑う彼女の声に、なぜか胸がじんとした。
…ぴったり、か。
どういう意味なのかは聞かないことにして、素直に受け取った。

その夜、さっそく取りつけてみた。
ステンレスの輪がぴたっとはまり、見た目にもなんだか、いい。
年を重ねると、こういう「ちょっと上質な生活道具」が妙に心にしみる。

翌朝、フタを開けると、ネットの中にはくるりと丸まった髪の毛たち。
ごっそり取れていて、しかも、なんだか整っている。
まるで「はい、どうぞ。捨ててください」と差し出されたような。
いつもなら、あのねっとりした憂鬱がのしかかる場面で、私は軽く笑っていた。
「……すごいな、これ」

心の中でつぶやく。
その言葉を聞いたかのように、カウンターで眠っていたプクが、顔だけこちらに向けて、小さく「にゃ」と一言。

歳を重ねるごとに、「減らしたいもの」と「守りたいもの」が、はっきりしてくる。
余計な手間。
溜まるイライラ。
小さな不快感。
そういうものを少しずつ、生活からそぎ落としたくなる。
そのぶん、自分のための時間や、静かな朝、ちゃんと淹れたコーヒーの香り
そういうものを、ちゃんと守りたくなる。
この小さな道具ひとつで、それがすこし叶った気がした。

店は、今日も閑古鳥が鳴くように静かだ。
でも、排水口は詰まらないし、プクはあたたかそうにお昼寝中。
私も、少しだけ気持ちに余裕がある。
──それだけで、もう十分なのかもしれない。
そんなふうに思えた朝だった。
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