[序章③: 電子レンジの気配]もしも、せっかちな電子レンジが私を急かしていたら
〜この家には、気配がある 〜
現実の中に、少しだけズレた瞬間があります。
それが、この電子レンジの前です。
この家の電子レンジは、
他のものたちに比べて、少しだけ賑やかな存在です。
ボタンを押すと、
いつも同じ無機質な音で返事をしてきます。
ピッ、という短い音。
それだけなのに、
なぜか「分かった」と不器用に応えられている気がします。
温めている間、
中で四角い光が灯り、何かが回りだします。
ただそれだけのはずなのに、
少しだけ急かされているような、不思議な気持ちになるのです。
「もう少しだよ、待っててね」と言われているような、
小さな気配。
もちろん、電子レンジは何も言いません。
でも最近、ときどき思うのです。
スタートボタンを押した直後、
ほんの一瞬だけ、奇妙な“間”がある気がするのです。
まるで、
一度こちらの様子をじっと窺ってから、
「よし」と動き出しているような。
そんな、ただの気のせいです。
ただの機械です。
そう分かっているのに、なぜか目が離せなくなります。
温めが終わったときの、電子音。
今日はいつもより、少しだけはっきりと響いた気がしました。
まるで「お待たせ、できました」と誇らしげに言っているようで、
私は小さく笑ってしまいます。
電子レンジは今日も、健気に働いています。
本当は、何も言わずに。
それでも私は、
扉を開けるたび、なぜか少しだけ
「お疲れさま」と声をかけたくなるのです。
この家の中で、静かに、でも愛おしくおしゃべりをしているモノたちの物語を、ひとつのマガジンに全部まとめてあります。
家事の合間に、あるいは夜眠る前のひとときに。
いつでもこの扉を叩いて、彼らに会いにきてくださいね。
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