第8話:鳴り響く審判
前回はこんなお話でした。
静まり返った室内に、私のスマホのバイブレーションだけが重く響き渡る。
画面に浮かぶ【非通知設定】の文字。
5人の視線が、一斉に私の手元へと集まった。
「あすか、スピーカーにして」睦月が静かに、だけど拒絶を許さないトーンで言った。
私は震える指で通話ボタンを押し、画面のスピーカーアイコンをタップした。
『……ふふ、やっと全員集まったみたいね』
スピーカーから流れてきたのは、機械的に激しく加工された、男とも女ともつかない不気味な声だった。
「誰よ、あんた……!」私が叫ぶ。
『誰でもいいじゃない。それより、その部屋にいる全員が、自分のついた「嘘」を自覚しているかしら?』
嘘。その言葉に、部屋の中の全員がハッと息を呑んだ。
『一ノ瀬一華。あなたは毎朝7時半に登校していると言ったけれど、本当はあの日、下駄箱の前で何をしていたの?』
一華の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
『二階堂美月。あなたが三波さんと四葉さんの共謀を見たのは、本当に「一昨日」の放課後かしら?』
美月はちっと舌打ちをして、窓の外へ視線を逸らした。
『三波詩織。あなたは一ノ瀬さんが手紙を書くのを見たと言った。でも、あなたが本当に見ていたのは、別の人のロッカーじゃないの?』
詩織は本を胸に強く押し当て、ぶるぶると首を横に振った。
『そして、四葉ひなた。あなたがあすかの下駄箱の前で乙羽睦月を見たというのは、本当に「昨日の朝」だった?』
ひなたは無言で、爪を強く噛み締めた。
電話の主は、まるでその場にいて彼女たちの過去をすべて覗き見ていたかのように、一人ひとりの綻びを容赦なく突いていく。
全員が何かを隠している。全員が、自分の都合の良いように事実を捻じ曲げて発言していたのだ。
『そして、神代あすか。あなたの隣にいるその男……乙羽睦月が、あの日、あなたの下駄箱にサクラ色の封筒を入れるところを、私はしっかりとこの目で見たわ』
「え……」
私はゆっくりと、隣の睦美を振り返った。
睦月は、相変わらず表情を変えない。ただ、眼鏡の奥の瞳が、冷徹な光を放っていた。
『さあ、本当の嘘つきは誰でしょう? 答え合わせは、明日の放課後、誰もいない美術室で。……来なければ、アスカの正体を全校生徒にバラすから』
プチッ、と一方的に通話が切れた。
ツーツーという無機質な音が、ワンルームの狭い部屋に虚しく響く。
「睦月……あんたなの……?」
私の声は、自分でも驚くほど震えていた。
睦月は机の上のサクラ色の便箋をそっと手に取り、それを光に透かして見つめた。
「あすか、僕を信じるか、彼女たちの嘘を信じるかは、君次第だ。だけど、明日になればすべてが分かる」
一華が、美月が、詩織が、ひなたが。
それぞれの思惑を胸に秘めたまま、一人、また一人と無言で睦月の部屋を去っていった。
残されたのは、私と睦月。そして、狂気的な文字が並ぶサクラ色の手紙。
誰が嘘をつき、誰が真実を語っているのか。
私をこのサクラ色の迷宮に閉じ込めた本当の犯人は、一体誰なのか。
考える隙すら与えられないまま、運命の明日が始まろうとしていた。

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