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【小説】前編:底辺Vtuberのあすかさんは、僕の部屋で甘えたい

神代あすかはクラスの華だ。

誰もが彼女に憧れる。

だが、
僕を見る彼女の目はいつも冷たい。

ゴミを見るようだ。

理由はわかっている。
僕が冴えない陰キャだからだ。

接点などないはずだった。
あの放課後を迎えるまでは。

夕暮れの教室に忘れ物を取りに戻った。
そこに彼女がいた。

あすかは机に突っ伏して泣いていた。
スマホを握りしめている。

画面には配信画面。
視聴者はわずか3人。
コメントはゼロ。

彼女の裏の顔。
それは底辺Vtuber「アスカ」だった。

「見ないで!」彼女は叫んだ。
激しい拒絶の言葉。

だが、
僕は逃げなかった。

彼女の夢を笑う気は微塵もない。

むしろ、
胸が激しく震えた。

少女の純粋な願いに触れた。

「手伝わせてほしい。君を最高のステージへ連れていく」

あすかは鼻で笑った。
あんたなんかに何ができる、と。

僕は徹夜でレポートを書いた。
Vtuber市場の分析書だ。

現在のトレンド。
伸びている企画。
彼女の強みと弱み。

翌朝、
それを彼女に差し出した。

文字が詰まった10枚の紙。

彼女は怪訝けげんそうに受け取った。

一読して、
彼女の顔色が変わる。

「これ、あんたが全部考えたの?」

驚きを隠せない声。
僕は頷いた。

彼女のキャラクターデザインは素晴らしい。

足りないのは、
初見のリスナーを惹きつける企画力だ。

「まずは切り抜き動画の量産だ。僕が編集を担当する」

彼女は渋々承諾した。
こうして二人の秘密の計画が始まった。

放課後は僕の部屋が作戦本部になった。
毎日が分析の連続だ。

あすかの声のトーン。
笑い方の癖。
魅力を引き出す台本。

僕はあすかの夢を叶える。
それが僕の生きがいになった。

彼女が笑えば、
僕の世界が輝く。

ただそれだけで良かった。

あすかの態度が少しだけ軟化した。
舌打ちの回数が減った。

「まぁ、作業は早いみたいね」
不器用な褒め言葉が嬉しい。

最初の切り抜き動画を投稿した。
SNSの動向を注視する。

数時間後、
小さな奇跡が起きた。
再生数が急上昇を始める。

「嘘、1万再生!?」
あすかが目を見開いて僕を見た。

「まだ一歩目だ。次は生配信の同接を伸ばそう」

僕は淡々と次の一手を提案した。

感情を排して、冷静に。

あすかは僕の横顔をじっと見つめていた。
今までと違う視線。

冷徹な拒絶から、
微かな好奇心へ。

関係が動き始めていた。

あすかは毎日、
僕の部屋へ通うようになった。

学校では相変わらず他人の振りをしている。

だけど二人きりの空間では、
少しずつ素の表情を見せた。

「今日の学校、退屈だったな」
そんな愚痴も零す。

僕は彼女の言葉を静かに聞いた。

そして作業を続ける。
動画のサムネイルを修正する。

タイトルの文言を練る。

彼女の魅力を一秒でも多く、
世界に伝えるために。

「あんたって、本当に私のことしか考えてないのね」

あすかがぽつりと言った。
どこか呆れたような声。

「君の夢が、今の僕のすべてだから」

僕は真面目に返した。

彼女はふいっぽっぽと顔を背けた。
耳が少し赤い。

「変な奴」

彼女の呟きは、
もう冷たくはなかった。

配信の同接数は確実に増えていった。

30人、50人。
あすかの声に自信が宿る。

トークのキレも増していく。

「リスナーが喜んでくれるの、すごく嬉しい」

画面を見つめる彼女の瞳は、
まるで星のように輝いていた。

その輝きを守るためなら、
僕はいくらでも徹夜できた。

データ分析。
競合の調査。
ウケるトレンドの把握。

あすかの魅力を引き出すためのアイデアをノートに書き留める。

彼女は僕のノートを覗き込み、
感心したように息を吐いた。

「ここまでしてくれる人、初めて」
彼女の声が震える。

「僕はただ、君の最初のファンなだけさ」

あすかは僕をじっと見つめた。

その瞳に、
もう侮蔑はない。

そこにあるのは、
確かな信頼と、
名前のつかない熱だった。

一歩ずつ、
僕たちは階段を上っている。

あすかという大輪の花を、
世界に咲かせるために。

僕の地味な日常は、
彼女の夢という色彩で満たされていく。

冷たかった彼女の心が、
少しずつ溶けていくのを感じながら。


つづく



次回配信 6/15(月)18:00

前回の作品はこちら

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