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【小説】中編:底辺Vtuberのあすかさんは、僕の部屋で甘えたい

作戦は順調だった。
あすか のチャンネル登録者は急増した。

あすかは配信に手応えを感じていた。
表情が明るくなる。

「今日の企画、すごく楽しかった!」
彼女は無邪気に笑う。

その笑顔を見るたび、
僕の胸の奥が少しだけ熱くなった。

最初はただの義務感だった。
夢を追う人を助けたい。

だが最近、
あすか自身から目が離せなくなっている。

髪の甘い香り。
真剣な眼差し。
感情豊かな歌声。

彼女は一人の魅力的な女の子として、
僕の心に侵入してきた。

ある日の夜、
連日の動画編集で僕は猛烈な眠気に襲われた。

作業机に突っ伏したまま、
意識を失うように眠ってしまう。

あすかが部屋に残っていることも、
忘れるほどの睡魔だった。

時計の針は深夜の一時を回ったところを指していた。

薄れる意識の境界で、
誰かの気配を感じた。

温かい気配だ。
そっと背中に何かが触れた。

小さな、震える温もり。
あすかだった。

彼女は眠る僕の背中に、
そっと抱きついた。

衣類の擦れる音。

彼女の心臓の鼓動が、
背中越しに伝わる。

「……バカ」

あすかの小さな呟きが聞こえた。

「なんでそんなに一生懸命なの。私、意地悪したのに」

彼女の心の葛藤が伝わる。
声はとても優しかった。

僕は目を開けることができなかった。
狸寝入りを決め込む。

さらに気配が近づいた。
頬に、柔らかい感触が触れた。

ほんの一瞬。
触れるか触れないかの、
微かなキスだった。

「いつも、本当にありがとう」

彼女の吐息が耳元をくすぐる。
心臓が爆発しそうだった。

寝た振りを続けるのは拷問だ。

あすかは気づいていない。

僕の胸の高鳴りを知らない。
彼女は静かに部屋を出て行った。

ドアが閉まる音が響く。

僕は上体を起こし、
赤くなった顔を両手で覆った。

もう誤魔化せない。

僕はあすかを、
一人の女性として見ている。

翌日、
教室での彼女はいつも通りだった。

少し冷たい。

だが、
時折目が合うと、
彼女は慌てて視線を逸らした。

その頬が微かに赤みを帯びている。

僕の勘違いではない。

二人の間に、
言葉にできない甘い空気が流れ始めていた。

学校帰りの夕暮れ、
いつものように僕の部屋に集まる。

あすかはどこか落ち着かない様子で、
髪を指で弄っていた。

「ねえ、昨日の夜さ……」

彼女が恐る恐る切り出す。

僕は心臓が跳ね上がるのを抑え、
冷静を装って振り返った。

「昨日? ごめん、僕、編集の途中で寝落ちしちゃって」

あすかは目に見えてホッとした表情を浮かべ、
それから拗ねた。

「ふん、相変わらず締まりがないわね。風邪ひくわよ」

口調は手厳しいが、
その目は優しく僕を労っていた。

彼女が淹れてくれた温かいお茶が、
僕の五臓六腑に染み渡る。

「あすか、次の配信だけど、コラボの誘いが来ている」

僕は画面を見せた。
同規模の人気Vtuberからの打診だ。

あすかは身を乗り出した。

「本当!? 私、やってみたい!」

彼女の距離が近い。

肩と肩が触れ合い、
また胸が騒ぎ出す。

彼女の成長が嬉しい。

だけど、
少しだけ寂しくもある。

僕の手の届かない、
遠いところへ行ってしまうような。

そんな不安を察したのか、
あすかが僕の袖を小さく引いた。

「どこにも行かないよ」

彼女は僕の目を見て、
静かに言った。

「私が輝けるのは、あんたが隣にいてくれるからだし」

その言葉だけで、
僕の不毛な不安は綺麗に吹き飛んだ。

あすかはもう、
僕をゴミを見るような目では見ない。

お互いの存在が、
なくてはならないものに変わっていた。

夜が更け、
作業の手を止めて二人で夜空を見上げた。

ベランダから見える星は、
都会の片隅でも確かに光っている。

「もっと上に行こうね」

あすかが僕の手の上に、
手を重ねた。

その手の温もりを噛み締めながら、
僕は強く頷いた。


つづく




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