【あすか編】第4話:反転する容疑
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「……睦月、冗談だよね?」
引きつった笑みを浮かべ、
彼の机の上にある銀色の星型シールを見つめた。
あのサクラ色の封筒を閉じていたものと、
完全に一致している。
睦月はいつもの穏やかな、
だけどどこか底の知れない笑みを崩さない。
「冗談だよ。これは僕が動画編集用に通販で買った既製品さ。誰でも手に入れられる。……でも、もし犯人がこれを『僕の部屋』で見たことがある人物だとしたら、話は変わってくるよね」
睦月の部屋に入ったことがある人間。
それは私だけのはずだ。
学校では関わりのない彼の部屋に、
他の女子生徒が立ち入る理由なんてない。
……本当にそうだろうか。
私の知らないところで、
誰かが彼の部屋の扉を叩いていたとしたら。
ぞわりと背筋が寒くなる。
私の不安を察したように、
睦月が私の腰を引き寄せ、
膝の上に抱き上げた。
「あすか、僕を疑ってるの?」
「疑ってない……けど、心がざわざわするの……」
睦月は私の顎を指先でクイと持ち上げた。
「僕はあすかだけのプロデューサーで、男だ。……忘れないで」
制服の上から胸をギュッと強く掴まれ、
小さく悲鳴を漏らす。
♢
翌日。
私は昨日の事件を整理するため、
一人で校内を歩いていた。
「神代さん、ちょっといいかしら」
声をかけてきたのは学級委員長の一ノ瀬一華だった。
誰もいない渡り廊下。
彼女は凛とした姿勢で佇んでいる。
「昨日の乙羽くんの話、気になってね。あなた、本当に犯人に心当たりがないの?」
「一ノ瀬さんこそ、何か知っているんじゃないの?」
「私は毎朝7時半に登校しているわ。だから見てしまったのよ。昨日の朝、二階堂さんがあなたの下駄箱を熱心に覗き込んでいるところをね」
一華の言葉が本当なら、
美月が手紙を入れた可能性は高い。
だが、
その日の昼休み、
当の二階堂美月に屋上に呼び出された。
「ねえ、神代さん。あんたさ、乙羽くにベタベタすんのやめてくんない? 目障りなんだけど」
「私は別に、ベタベタなんて……」
「嘘おっしゃい。あんたたちの空気感で分かるのよ。……あ、そうそう。忠告しといてあげる」
美月は不敵に微笑み、
私の顔に指を突きつけた。
「あんたの可愛い後輩の四葉ひなた。あの子、図書室の三波詩織と放課後、怪しい手紙を回し読みしてるのを見ちゃった。あんたへのラブレター、あの二人が共謀して書いたんじゃないの?」
一華は美月を疑い、
美月は詩織とひなたを疑っている。
混乱した頭を抱えて図書室へ向かうと、
カウンターにいた三波詩織が怯えた瞳で私を見上げた。
「神代さん……私、本当は、一ノ瀬さんが補習室で、あのサクラ色の便箋に何かを必死に書き殴っているのを見ました。あの綺麗な文字は、一ノ瀬さんのものに間違いありません……」
全員が自分以外の誰かを指し示している。
♢
放課後、
睦月の部屋に駆け込み、
私は集めた証言を全てノートに書き出した。
「一華は美月を、美月は詩織とひなたを、詩織は一華を犯人だと言っている。……睦月、これってどういうこと?」
睦月はノートの文字を見つめ、
静かにペンを回した。
「みんな、自分を容疑者から外すために嘘の目撃証言をしている可能性があるね。……あるいは、この中に一人だけ、本当のことを言っている人間がいるか」
睦月はそう言って、
引き出しから1枚のサクラ色の便箋を取り出した。
手触りは、
私の下駄箱にあったものと完全に同じ、
上質な和紙。
「……どうして、それを持ってるの?」
「今日、僕の机の中にこれが入っていたんだ。宛名はなくて、中身は白紙。ただ、銀色の星型シールが同封されていた」
誰かが、
今度は睦月をこの迷宮に引きずり込もうとしている。
それとも、
このサクラ色の迷宮を創り出している張本人は……。
私は睦月の顔を見つめた。
彼の優しい笑顔が、
今はひどく遠いものに感じられた。

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