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第5話:白紙の挑戦状

前回はこんなお話でした。

「睦月の机にも、同じ便箋が……?」

私は差し出されたサクラ色の紙を見つめた。

手触りは、
私の下駄箱にあったものと完全に同じ、
あの上質な和紙。

だけどそこには一文字も書かれておらず、
不気味なほど真っ白だった。

同封されていた銀色の星型シールだけが、
夕暮れの部屋で冷たく光っている。

「宛名もなし。メッセージもなし。ただ、このセットだけが僕の机の奥に忍ばされていたんだ」

睦月はそう言って、
白紙の便箋を愛おしそうに指先でなぞった。

その手つきは、
まるで優れたクリエイターが新しい素材を吟味しているかのようで、
私は小さく身震いした。

「これって、犯人からの警告? それとも……」

「さあね。でも、これで一つはっきりしたことがある」

睦月は眼鏡の位置を直し、
ホワイトボードに向き直った。

「犯人は、僕とあすかが『一緒にこの事件を追っていること』を知っている。

でなければ、
僕の机にこれを仕込む意味がないからね」

翌日の朝、
私はいつもより一段と重い足取りで校門をくぐった。

誰が敵で、
誰が味方なのか。

昨日聞いた四人の言葉が、
頭の中でぐるぐると渦巻いている。

一華の見た美月、
美月の語る詩織とひなたの共謀説、
そして詩織の目撃した一華の執筆姿。

「あすか先輩! おはよーございまっす!」

下駄箱の前で、
一年の四葉ひなたが突然背後から抱きついてきた。

香水の甘い匂いが鼻を突く。

「四葉さん、おはよう……。ちょっと、苦しいわ」

「あ、すいませーん! あすか先輩があんまり可愛いもんだから、つい!」

ひなたはへらへらと笑いながら手を離した。

その時、
彼女の開いた鞄の隙間から、
一冊の文庫本が見えた。

図書室のバーコードが貼られた、
少し古びた恋愛小説。

『美月は詩織とひなたを疑っている』

美月の言葉が脳裏をよぎる。

物静かな図書委員の詩織と、
派手なギャルであるひなた。

一見、交わるはずのない二人の線が、
その一冊の本を媒介にして、
にわかに現実味を帯びてくる。

「四葉さん、図書室によく行くの?」

私がさりげなく尋ねると、
ひなたの一瞬だけ目の奥の光が消えた……ような気がした。

「え? あー、まあ、たまに? 涼しいし、三波先輩が静かに本読ませてくれるんで、サボり場にちょうどいいんですよねー」

ひなたはいつも通りの軽いトーンで答えた。

だけど、
その視線は私の下駄箱の、
ちょうどあの日手紙が入っていた場所に一瞬だけ固定されていた。

昼休み、
私は確証を得るために図書室へと足を運んだ。

貸出カウンターには、
やはり三波詩織がポツンと座って、
難しそうな純文学を読んでいる。

「三波さん、ちょっといい?」

「あ……神代さん。は、はい、何でしょうか……」

詩織は本を閉じ、
怯えるように身を縮めた。

「四葉さんと、仲が良いの?」

直球の質問に、
詩織は目に見えて動揺した。

指先が本の表紙を何度も無意味にこする。

「よ、四葉さん、ですか……? いえ、彼女は、たまに図書室に涼みに来るだけで……私は、男子も女子も、人と話すのはあまり得意じゃなくて……」

嘘をついている。

そう直感が告げていた。

彼女の視線は泳ぎ、
呼吸がわずかに荒くなっている。

だが、
その時、
図書室の入り口から低い足音が響いた。

振り返ると、
そこには腕を組んだ二階堂美月が立っていた。

彼女の口元は、
勝ち誇ったように歪んでいる。

「ほらね、言ったでしょ。その二人、やっぱり怪しいのよ」

美月はゆっくりと私たちに近づいてきた。

「神代さん、あんたも早く気づいた方がいいよ。その物静かなフリした委員長様も、そこの図書委員も、みーんなあんたを騙して楽しんでるだけかもね」

「二階堂さん、あなただって……」

私が言い返そうとした瞬間、
今度は図書室の扉が勢いよく開いた。

「そこまでにしなさい、二階堂さん。図書室は騒ぐ場所ではありません」

現れたのは、
学級委員長の一ノ瀬一華だった。

彼女の鋭い視線が、
美月、詩織、そして私へと向けられる。

一華、美月、詩織。

そしてここにはいない、ひなた。

図書室の満ちた静寂の中で、
四人の容疑者たちの思惑が静かに火花を散らしていた。

誰もが自分を潔白だと主張し、
同時に誰かを指し示している。

この中に、
あの狂気的なサクラ色の文章を綴った本物がいる。

それとも、
この光景すらも、
別の『誰か』が仕組んだ舞台装置に過ぎないのだろうか。

私のポケットの中で、
睦月から届いたスマホが静かに震えた。

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