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【鈴木詩織】中編:画面の向こうの君と、中庭のベンチで。

お昼休みのチャームが鳴り、
私の心臓は一気に跳ね上がった。

「よし、作戦開始なのだ!」と、
委員長の佐藤さんが声をかける。

ギャルの高橋さんは「祐樹、引っかかるかな」と楽しそうだ。

音楽室の渡辺さんも、
お弁当箱を抱えて嬉しそうに微笑む。

私の名前は鈴木詩織。

前田祐樹くんに恋をする、
普通の女子高生。

だけど今日、
私たちは彼を翻弄するための特別なステージへ向かう。

四人で並んで中庭へ出ると、
初夏の風が心地よく通り抜けた。

木製のベンチに腰掛け、
私たちはいつも通りにお弁当を広げる。

するとすぐ、
植え込みの影に隠れる前田くんの姿が見えた。

「来た、祐樹だよ」と、
高橋さんが小さな声で私たちに合図する。

私は緊張のあまり、
お箸を持つ手が少しだけ震えてしまった。

まずは、
私の隣に座る佐藤さんが先陣を切ってくれた。

彼女はお弁当の卵焼きを頬張り、
少し大きめの声で言う。

「やっぱり、お母さんの作る卵焼きは最高なのだ!」

前田くんの体がピクリと動き、
佐藤さんを凝視するのが分かった。

作戦通り、
まずはあの特徴的な口癖で彼の意識を引きつけたのだ。

続いて、
高橋さんがカバンから黄色いパッケージを取り出す。

「詩織、レモンの飴食べる?」と、
私に一個手渡してくれた。

その瞬間、
高橋さんの手首から爽やかな柑橘の香りが漂う。

前田くんは今度、
高橋さんの手元へと視線を激しく動かした。

彼の困惑する表情が見えて、
私は胸の奥で小さく足掻く。

「詩織、次、前田くんがこっち見てるよ」と渡辺さんが囁いた。

目が合いそうになり、
私は慌てて前田くんから視線を外す。

途端に強烈な緊張が襲い、
私はいつもの癖で左の髪をいじった。

指先で髪をくるくると丸めながら、
心臓の音が彼に聞こえそうだと思う。

これがルイの言っていた仕草だと、
彼は気づいているはずだ。

さらに渡辺さんが、
膝の上で指を軽やかに動かし始めた。

彼女の唇から、
ショパンの美しいノクターンのメロディが漏れる。

口癖、飴、仕草、ピアノ。

ルイの特徴が、
今ここに揃った。

植え込みの陰で、
前田くんが完全にパニックになっているのが分かる。

頭を抱えそうな彼を見て、
愛おしさと申し訳なさが同時に込み上げた。

その時、
私のスカートのポケットでスマホが短く震えた。

前田くんからだ。

「今、中庭のベンチを見ているよ。君はどこにいるの?」

画面の文字を見た瞬間、
私の胸は甘酸っぱい痛みで満たされる。

「みんな、前田くんからチャットが来た!」と、
私は小声で告げた。

「よし、じゃあ一斉にスマホを見よう!」と高橋さんが提案する。

私たちはタイミングを合わせ、
四人同時にポケットからスマホを出した。

そして、
画面の文字を確認し、
一斉に小さく微笑んでみせる。

前田くんが「嘘だろ」という顔をして、
さらに頭を抱えるのが見えた。

誰もスマホを独り占めしていない。

全員がルイの可能性を持っている。

私たちの完璧な連携に、
前田くんは完全に迷宮に迷い込んでいた。

お昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、
私たちは席を立った。

「大成功だったね、詩織」と、
佐藤さんが優しく肩を叩いてくれる。

「祐樹、完全にハチの巣状態だったじゃん」と高橋さんも笑う。

だけど教室に戻る途中、
私の胸には小さな不安が芽生えていた。

こんな風に彼を騙すような真似をして、
嫌われたらどうしよう。

文字だけのルイを好きでいてくれる彼に、
私は意地悪をしすぎた。

授業中、
二列斜め後ろの席にいる前田くんの気配を感じる。

彼はペンを握ったまま、
窓の外をじっと見つめて溜息をついていた。

その寂しそうな横顔を見て、
私はもう駆け引きはやめようと決めた。

放課後、
みんなが帰った教室で、
私は一人パソコンの前に座る。

「今日の中庭、私を見つけられなかったみたいだね」

私はルイとして、
彼にメッセージを送信した。

すぐに彼から「四人ともルイに見えて混乱した」と返事が来る。

私は深く息を吸い込み、
真実を打ち明けるための文字を打った。

「ごめんね。実はね、あの四人はみんな私の大切な友達なんだ」

「私が君とのチャットを嬉しそうに話すから、協力してくれたの」

驚くだろうか、
それとも怒るだろうか。

私は指を震わせながら、
最後のヒントを打ち込んだ。

「私は、君が一番よく見ている場所の、すぐ近くにいるよ」

「明日の放課後、もう一度だけ中庭のベンチで待っているね」

送信ボタンを押し、
私は祈るように画面を閉じた。

明日、
私はルイではなく、
鈴木詩織として彼と向き合うのだ。


つづく

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次の配信 6/19(金)18:00




#とらねこ
#とらねこ村
#画面の向こうの君と 、中庭のベンチで
#創作大賞2026

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