第10話:サクラ色の約束と、二人の明日
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「私が、あなたからそれを受け取ったのよ」
彼女が誇らしげに浮かべた笑み。
だが、睦月は驚く風もなく、どこか愛おしそうに小さく首を横に振った。
「そうか……君が、僕の備品をそんな風に大事にしてくれていたなんて思わなかったよ。
でもね、君が言っている『約束』は少し違う」
睦月は静かに歩み寄り、私をかばうように前に出ると、机の上のサクラ色の手紙へと手を伸ばした。
「僕は君に『あすかの心に刺さる言葉』を教えたんじゃない。
君が『神代さんに認められる記事や文章を書きたい』と相談してきた時、
僕はただ『自分の素直な愛や情熱を言葉にすれば、きっと想いは届く』と励ましただけだ」
睦月の言葉に、彼女の表情がピタリと固まる。
「そして、この便箋の文字。
一ノ瀬さんの筆跡を模写した完璧な文字……。
君は僕を喜ばせるために、そしてあすかに振り向いてもらうために、一人でこの手紙を作り上げたんだね」
「……っ!」
彼女の目から、溢れ出るように涙が零れ落ちた。
「だって……だって!
神代さんはあんなに輝いていて、乙羽くんと二人でどんどん遠くへ行っちゃうんだもの!
私だって、二人と一緒に夢を見たくて……!」
四人は、息を呑んでその光景を見つめていた。
手紙をめぐる複雑な疑惑と、絡み合った少女たちの感情。
その中心にあったのは、憎しみでも悪意でもなく、ただ「二人への強い憧れと愛」だったのだ。
「ありがとう」
私が口を開くと、全員の視線が私に集まった。
私は彼女の元へ歩み寄り、涙で濡れたその手を優しく包み込んだ。
「手紙、すごく嬉しかったよ。
文章が少し熱狂的すぎて驚いちゃったけれど……
そこに込められた想いが本物だったって分かって、すごく安心した」
「神代さん……」
「それにね、私は誰のものにもならないし、遠くへなんか行かないわ。
みんなと一緒に、この学校で笑っていたいもの」
私の言葉に、補習室の冷ややかだった空気が、まるで春の陽気のように和らいでいく。
「……まったく、人騒がせなラブレターね」
一華がやれやれと肩をすくめ、眼鏡の位置を直した。
「なーんだ、結局愛されすぎて困っちゃっただけじゃん! ウケる!」
美月が吹き出し、詩織もほっとしたように胸を撫で下ろしている。
「あすか先輩! うちの憧れも本物ですからねー!」
ひなたがいつもの笑顔で飛びついてきた。
誰も傷つかず、誰も取り残されない。
全員のついた小さな「嘘」や「意地」は、私と睦月を想う優しい愛の形へと溶けていった。
全員が帰り、すっかり静まり返った夕暮れの教室。
二人きりになると、緊張の糸が切れた私は、その場にへたり込みそうになった。
それを睦月がしっかりと受け止めてくれる。
「あすか、よく頑張ったね」
「むつき……っ」
彼の胸に顔を埋めると、ずっと張っていた気が緩んで涙が溢れ出してきた。
睦月は私の背中を優しく撫でながら、そっと抱き上げて教卓の端に私を座らせた。
「みんなの前では強がっていたけど、本当はすごく怖かったんでしょう?」
「……うん。でも、睦月がずっと側にいてくれたから」
彼の手が私の頬を優しく包み、指先が髪をそっとなぞる。
「あすか、僕の本当の『サクラ色の約束』を聞いてくれる?」
睦月は私の腰を引き寄せ、おでこをコツンと合わせた。
至近距離で見つめ合う彼の瞳には、熱い情熱と、一途な愛が宿っていた。
「僕は君をトップVtuberにする。
でもそれ以上に……
一生、君の隣で君だけを愛し続けるよ。
誰にも君を渡さない」
耳元で囁かれた情熱的な告白に、胸がキュンと締め付けられる。
「私を一番輝かせてくれる、世界でたった一人のプロデューサーで……
私の恋人」
西日の差し込む教室で、私たちは甘いキスを重ねた。
校門を抜けた帰り道、つないだ手にギュッと力を込める。
夜空を見上げると、手紙のシールと同じ、きらきらと輝く銀色の星が浮かんでいた。
サクラ色の迷宮を抜けた私たちの前には、どこまでも温かく、光に満ちた明日が広がっていた。

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次回は、この物語の裏のお話です。
公開は8/22(土)21:00です。
お楽しみに!

