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老化に寄り沿う介護って? (超要約版)

 最近、「なんでもない場所でつまずく」「気づかないうちに手足に青アザができている」なんてことが多くなってしまいました。年をとると、筋力が落ちたり病気になったりするだけでなく、もっと根本的な「からだの感覚の変化」が起きているようなのです。
 今回は、フランスの哲学者メルロ=ポンティが考えた「身体図式(しんたいずしき)」という言葉を使って、お年寄りのからだに何が起きているのか、そして私たちがどうやって介護(サポート)をすればいいのかを、整理してみます。

1.科学のデータだけでは分からない「からだの実感」

 お年寄りの健康状態を調べるとき、病院や介護の現場では「体重」「筋肉量」「脳のテストの点数」「要介護度(どれくらい助けが必要かのレベル)」といった、数字やデータ(客観的な事実)がよく使われます。
 でも、お年寄り本人の気持ち(主観)になってみると、どうでしょう?
「あなたの筋肉は〇%減りました」と言われても、「ふーん、そうなんだ」と思うだけで、毎日の生活のなかでそれをリアルに実感することは難しいですよね。
 つまり、科学的なデータだけでは、お年寄りが実際にどんなふうに世界を感じ、困っているのかを100%理解することはできないのです。そこで役立つのが、「からだの感覚」を心の内側から考える哲学のヒントです。

2.からだのOS(基本ソフト)「身体図式」とは?

 私たちが毎日を過ごすとき、自分のからだをどうやって動かしているでしょうか。例えば、目の前にあるリンゴをつかむとき、「まず肘を15度曲げて、指の筋肉に力を入れて……」なんて、いちいち頭の中で計算しませんよね。頭で考えなくても、からだが勝手に動いてくれます。
 これは、脳とからだの中に「自分のからだの形や、どう動かせるかを無意識に把握しているネットワーク」があるからです。これを哲学の言葉で「身体図式(しんたいずしき)」と呼びます。
 パソコンやスマホに例えるなら、「からだのOS(WindowsやiOSのような基本ソフト)」のようなものです。このOSが裏で24時間ずっと働いてくれているから、私たちは意識しなくてもスムーズに歩いたり、物をつかんだりできるのです。

■「身体図式」と「身体イメージ」は違う

• 身体イメージ(外からの見た目): 「私は身長160cmで、ちょっと太っているかな」など、意識して頭に思い浮かべる自分の姿。
• 身体図式(内からの無意識): 暗闇の中でも、自分の手がどこにあって、どう動かせば頭をかきむしれるかが「なぜか分かる」感覚。

3.からだは「道具」を使って拡張できる!

 この「身体図式(からだのOS)」の面白いところは、自分の皮膚の限界を超えて、外側へとはみ出して広がるという性質です。
 一番分かりやすいのが、目の不自由な人が使う「白い杖(つえ)」です。
最初はただの「手に持っている棒」ですが、毎日使って慣れてくると、まるで「新しく伸びた長い指先」のようになります。杖の先が地面のデコボコに当たったとき、その感触を手のひらではなく「杖の先端」で直接感じているような感覚になるのです。
 同じように、車や自転車、お年寄りが使う「車椅子」や「歩行器(シルバーカー)」も、慣れてくればその人の身体図式の一部(からだの拡張)になります。
 新しい道具を使いこなせるようになる(=習慣にする)ということは、からだのOSをアップデートして、自分のからだの範囲を広げることなのです。

4.年をとると、からだのOS(身体図式)がバグを起こす

 では、本題の「老化(年をとること)」について考えてみましょう。
 年をとると、筋肉が弱くなるだけでなく、この「身体図式(からだのOS)」がうまく働かなくなったり、現実のからだの動きとズレ(バグ)を起こしたりします。

• 「私はできる!」のズレ

 若いころの身体図式(OS)のままだと、頭のなかでは「このくらいの段差なら楽に飛び越えられる」「手を伸ばせばあの荷物に届く」と思っています(これを哲学では「私はできる(I can)の論理」と呼びます)。しかし、実際のからだはそこまで動きません。この頭のなかのOSと、実際のからだの能力のズレのせいで、お年寄りはなんでもない場所でつまずいたり、物を落としたり、ぶつかってアザを作ったりしてしまうのです。

• 空間や時間がバラバラになる

 私たちは無意識に「自分の手がここにあって、あそこにあるコップまではこのくらいの距離だな」と空間を感じ取っています。また、過去の経験(自転車の乗り方など)を今に活かし、次の行動を予測して、時間をスムーズにつなげて生きています。
 しかし、老化によって身体図式が弱まると、「自分の手足が今どこにあるか」が分からなくなったり、次の動きを予測できなくなったりします。すると、お年寄りにとっては世界全体がギクシャクした、とても生きづらい場所に変わってしまうのです。

5.これからの介護に大切なこと

 お年寄りをサポートする「介護」とは、単に食事を手伝ったり、車椅子を押したりすることだけではありません。
 本当に大切なのは、お年寄りの「新しく変化していくからだの感覚(新しくなった身体図式)」に、まわりの私たちが優しく寄り沿っていくことです。
 お年寄りが「できないこと」をただ数字で責めるのではなく、「今、あのおじいちゃんのからだのOSは、世界をどんなふうに感じているんだろう?」と想像してみる。そして、車椅子や歩行器などの道具が、その人の新しい「からだの一部」としてうまく馴染むように手助けしていく。
 そんなふうに、相手の内側の感覚を思いやる優しさこそが、これからの高齢化社会を支える一番大切な鍵になります。

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