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古墳症候群|毎週ショートショートnote

 きっかけは、ひどい肩凝りだった。マッサージに行っても、湿布を貼っても、鉛を流し込んだような重さは取れない。それどころか、重みは日を追うごとに背中から腰、足先へと広がっていった。鏡を見ると、自分の輪郭がぼやけて、土色にすすけて見える。
「あぁ、これは……古墳症候群ですね」
 近所の古めかしい診療所で、医者は呆気なくそう告げた。レントゲン写真には、私の背骨を芯にして、奇妙な「盛り土」のような影が写り込んでいる。現代医学ではまだ解明されていないが、稀に発症する者がいるらしい。いにしえの地層や、忘れ去られた埋葬地の記憶に同調してしまう、魂の先祖返りのような病だという。
「治るんですか?」
「治るというよりは、定着すると言ったほうが正しいでしょう。無理に抗うと、心が先に崩れますよ?」
 医者はそれだけ言うと、処方箋の代わりに一掴みの腐葉土を差し出した。
 それからの一週間で、私の生活は一変した。まず、横になるのが苦痛になった。どうしても頭を北に向けて、膝を少し広げた独特のポーズでなければ眠れない。上空から見れば、私はきっと完璧な「前方後円墳」の形をしていたはずだ。
 肌の質感も変わった。指先を弾くと、乾いた素焼きの陶器を叩くようなコンコンという音が響く。喉が渇くと、水ではなく湿った土の匂いを欲するようになった。
 不思議と恐怖はなかった。ただ、言いようのない静寂が体の中に満ちていく。かつてあった焦燥感や未来への不安は厚い土の下に埋もれて、何層にも重なる沈黙へと変わっていく。

 ある夜、私はたまらなくなって深夜の公園へと這い出した。月明かりの下で土の上に横たわると、ようやく深い呼吸ができた。耳の奥で、数千年前の風の音が聞こえる。遠い昔に途絶えたはずの、誰かの祈りが聞こえる。
「……ああ、そうか」
 私は理解した。私は私として死ぬのではない。私は誰かを守るための「器」になろうとしているのだ。私の中に、これから何百年も眠り続ける「主」を迎え入れるために。
 私の手足は次第に地面と溶け合い、指の間からは瑞々しいシダの芽が吹き出した。視界の端で自分の肌がひび割れ、埴輪はにわのような質感を帯びていくのが見える。
 もう声は出ない。でも、意識の底で確かな充足感があった。私はもうすぐ、地図に載ることのない、名もなき丘になる。風が吹き、雨が降り、長い年月が私の上を通り過ぎていくだろう。
 明日、誰かがここを通りかかった時――。
 私の形をしたその盛り土を見て、ふと、懐かしいような、背筋が凍るような感覚を覚えるかもしれない。
 それが私がこの世に残す、最後の挨拶だ。

(了)


たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
お題は「古墳症」です。

うん。なかなかいいのが書けた気がする。


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