松尾大社から月読神社へ ― 穏やかな月読尊の気配を辿った道【紀行文】
松尾大社の摂社 月読神社へ
月読尊は、日本神話の三貴子の一人でありながら、不自然なほどに神話での登場回数は低く、また全国に祭られる神社も少ない。謎の神なのだ。
月は私たちの生活にも大きく影響を及ぼし、また月光の柔らかな光は、私たちの傷ついた心を和らげてくれるような気がする。
月の象徴であろう月読尊を祀る神社として知られるこの松尾大社の摂社月読神社には、いちど訪れてみたかった。
松尾大社の一の鳥居から10分ほど。住宅地を抜け、子どもたちの賑やかな声が響く一角に月読神社はある。
松尾大社に比べれば質素な鳥居と山門。しかし多くの参拝客がいた。ライトノベルなどでも最近、月読尊は注目を集めているらしい。
浅葉なつ氏の『神様の御用人』に登場する月読尊は、静かにして温かな神として描かれている。

とても良い話なので、おすすめしたい
鳥居前の案内板には月読神社の祭神や御由緒書が大書してあった。
「月延の石」子授け・安産のご神徳
「むすびの木」縁結び・恋愛成就
「聖徳太子社」学問の神 聖徳太子を祀る
「御船社」海上交通安全・水難除
「解穢(かいわい)の水」自己の罪、穢れを除く

様々な神格が重層的にイメージされている
月読神社も、松尾山を後背に抱える神社だ。
この神社は安産・子授けの神社としても知られており、特に「戌の日」の参拝が盛んらしい。戌(いぬ)は、多産で安産な動物とされ、古来より妊婦にとって縁起の良い存在であるようだ。
また、月読尊が夜を司る神であることからも、生命の静かな誕生・育みといった側面と自然に結びついているのではないか。
身重でありながら出陣し、その後応神天皇を出産した神功皇后の伝承もこの地に伝わり、出産にまつわる信仰と月読尊の性格が重層的にイメージされているようだ。
境内に祀られた「御船社」も、月が潮の満ち引きに関わることが古くから知られており、航海の安全を祈る神として信仰を集めてきたようだ。
かつて松尾山の山麓は、賀茂川・桂川といった水系の合流点でもあり、渡来人や物資の往来が盛んであった。これらの土木工事を指揮したのが秦氏とされる。
こうした歴史背景を考慮すれば、月読尊の「月と潮」を司る性格と航海の守護者という側面から、この地に月読神社があるのは必然なのかもしれない。

月読尊に関する話の中で特に有名なのが、月読尊が「保食神(うけもちのかみ)」を斬った罪により、天照大神と袂を分つ話で、日本書紀にわずか一文だけ記載されており、非常に謎めいている。
それによれば「保食神が口から食べ物を出してもてなしたことに怒り、月読尊がこれを斬った」とされるが、これには「月の神」が持つ清浄性・潔癖性が示唆されているとも考えられる。
これは後世の浄穢思想や、月読尊が「罪穢を祓う神」とされたこととも通底している。
境内には、松尾大社の滝女神のような水量はないが、細い管を伝い落ちる水で穢れを払う場所があった。

月読尊は静かで穏やかな神
月読尊は「日」と「嵐」に挟まれた「静:沈黙」の象徴であり、あえて語られなかったのではないか。語られぬことが、逆に神の神秘性と優しさを際立たせる。まさにこの月読神社の穏やかな空気と合致しているように思える。
松尾山の鞍部から流れ落ちてくる細やかな水の流れを見つけ、月のような優しく清らかな力を感じ、人々は月読の宮を祀ったのだろうか。この月読神社からは和らいだ、落ち着いた優しい雰囲気をずっと感じている。
月読神社の本殿前右手になんともないような石があった。私はこの石が、何か特別な力を持つように思え、手を触れてみた。


すると、清々しくこの身を清めてくれるようなエネルギーを感じた。私の中を静かにめぐり浄化するその力を確かに感じた。
それは、満月に向かって手をかざしたときに得られる、柔らかで清々しい力に似ていた。私はしばらくこの石の上に手を置き、心行くまで体を清めていた。
柔らかな空気に包まれた月読公園
参拝後、月読神社の御朱印をいただこうと思った。
御朱印は、社務所前の箱に入っていたが、お金を入れるところがなく困っていたところ、直ぐに社務所の人が出てきてくれて対応してくれた。
物腰のとても柔らかい女性で好感が持てた。
この神社での心地よい体験に夢見心地であった。
次の目的地に向かうため、境内から山門をくぐり、その向こうに広がる景色を見たとき、その美しさにはっとした。

ほころび始めた桜の向こうで、子どもらが元気で無垢な声を上げて遊んでいる姿を見て、なんとも言えぬ柔らかな、清々しい和やかな気持ちに一層包まれた。これも月読尊の力であろうか。
清らかで優しい包み込むような力が一帯を包み込んでいるようだった。そしてその光景は、涙が出そうになるほどに美しいと感じた。
参考:神様の御用人の著者浅葉なつ先生の公式サイトはこちら
この続き、奈良の天理市から石上神宮へ、そして山の辺の道を辿った紀行文はこちら。
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