白人至上主義の宴(1) チャールズ・アイゼンスタイン
訳者より:「コロナとの戦い」の中で、ワクチンなど西洋医学の提供する対処法だけを正統と見なし、そこから外れる考え方や中医学(漢方)のような伝統的治療法を軽視して嘲笑する態度が露わになりました。ここに潜んでいるのは文化的な優越意識で、植民地支配を正当化した白人至上主義と同じものです。日本人は明治維新いらい「脱亜入欧」を決意して自分たちを西洋の側に位置づけたので、「アジア」と聞けば異国情緒を連想するほどに「名誉白人」意識を定着させてしまったようです。書籍版『コロネーション』にも収録された2020年のエッセイ、3部に分けて掲載します。今回はその第1部。
白人至上主義の宴
チャールズ・アイゼンスタイン著
2020年8月
ステラ・イマニュエル医師の事件を覚えているでしょうか。今ではもう日々のニュースの落ち葉に埋もれてしまいましたが。それをもういちど掘り起こしてみたいと思うのは、その残骸から明らかになる隠れた文化的人種差別があって、人種差別に反対するはずの左翼さえも、従来の右翼とほとんど同じくらいに苛まれているからです。
イマニュエル医師はカメルーン出身で、ナイジェリアで医学の教育を受けましたが、彼女の参加した右翼系の記者会見では、何人もの医師たちがコロナ公共政策に反対の意見を表明しました。彼女は亜鉛とジスロマック、HCQ(ヒドロキシクロロキン)を組み合わせたコロナ治療での臨床的効果を報告しました。HCQは、言うまでもなくドナルド・トランプとの関連で[FDAの警告を無視して自ら服用し推奨したため]汚名を着せられ、米国など多くの西側諸国ではコロナ治療薬のリストからほとんど排除されてしまいました。イマニュエル医師はHCQがアフリカで広く使われていることも話しましたが、アフリカの医師はこれをマラリア治療薬として熟知しており、効果の無い薬など使わない本物の医師として信用するようアメリカの医師に忠告しました。
米国での臨床研究で共和党員には特に有効だと判明した化学物質HCQについて、私は強い意見を持っているわけではありません。冗談はさておき、医薬品を取り囲む政治的口論の霞を通してそれをしっかり見定めるのは不可能です。その霞は効果の有無より深い問題も見えなくしてしまいます。巨大医薬産業、医学研究への資金提供、文化的帝国主義をめぐる問題です。
何時間もしないうちに、その記者会見はユーチューブ、フェイスブック、ツイッターから削除され、メディアはその医師たち、中でもイマニュエル医師に激しい報復を浴びせました。ここに引用するデイリー・ビースト紙の記事はそのような屈辱の典型です。
小児科医で宗教聖職者のイマニュエルは、医学その他の問題について奇怪な主張をした前歴がある。彼女は嚢胞や子宮内膜症のような婦人科の問題が実際には夢の中で悪魔や魔女と性交したのが原因で起きるとしばしば主張した。
彼女は宇宙人のDNAが現在の治療に使われていて、科学者は人々が信心深くならないようにワクチンを捏造していると主張する。また、月曜には議会に陳情するため首都ワシントンに現れたものの、政府の一部には人間ではなく「爬虫類」その他の宇宙人が牛耳っていると言っていた。
他の解説者は邪悪な魂を追い出すため悪魔払いをするイマニュエル医師の動画を掘り出してきました。私たちは医療政策の問題についてこのような人に聞く耳を持つべきではないのは確かだ、ということになります。
この批判に込められた人種差別は、その標的がたまたま黒人だという事実とはほとんど関係ありません。むしろ、そこに体現されているのは文化的優越性のコンプレックスであり、その中に浸りきっている人にとっては、その教条が現実そのもののように見えるほど染み付いています。
まず、婦人科の問題が悪魔や魔女と夢の中でセックスしたのが原因で起きるという「奇怪な」考えについて見てみましょう。じつは、このような考えは土着伝統文化において一般的なもので、もっと一般的な考えは、霊魂の世界や、先祖、魔術師などと不適切あるいは不幸な関係を持つと、病気や、けが、経済的な不運に見舞われることがあるというものです。したがって、ヒーラー(治療者)は悪霊を払い、呪いを解き、先祖と交渉し、幽霊を追い払うなどして病気を治療します。
そのような文化に生きる人々は、こういった手法には効果があると広く認めます。彼らはなぜそれを信じるのでしょうか? そこには2つの可能性があります。
(1) 彼らは無知と迷信に陥って、いまだに近代科学の光の中に進み出ていないのだが、科学は彼らの原始的な信念のばかばかしさを暴き出し、証拠と理性と真実という見識ある世界へと彼らを招き入れるだろう。彼らは私たちより遅れているのであり、彼らにとっての進歩とは私たちが世界を相手にする優れたやり方を受け入れることだ。
(2) 彼らがそれを信じているのは、実際に効果があるからだ。つまり、この人々は私たちに比べて知性が足りないということはなく、実体験が足りないということはなく、理性が足りないということはなく、洞察力が足りないということもない。
地球は亀の背中に乗っていると言うヒンドゥー教の村人を、あなたは嘲笑うでしょうか? 「蜘蛛の祖母(スパイダーグランドマザー)」が世界を織り上げていると言うホピやディネの人々を、あなたは嘲笑うでしょうか? 私たちの多くはもっと分別がありますが、健康や病についての他の文化の考えを即座に否定する態度に、その嘲りが染み出ています。
奇怪な他者
ここで自分史を少し。私が1987年に台湾に着いたとき、私はまだ10代で、そこで目にした文化には、奇怪と見なされるような信念と現象が普通にありました。人々が「童乩」タンキー(これは台湾語で、標準中国語では「乩童」キートン、つまり霊媒師 [訳註1])と道教法師を頼む場面は様々あります。病気、商売の問題、家族の問題、縁起の悪い建築現場、幽霊など。人々はこのようなサービスにたいていは満足し、高い教育を受けた人や大きな企業でさえ、起工式や、結婚の計画、会社の起業には(風水の専門家、占星術師などとあわせて)そのようなサービスを頼っていました。当時すでにポストコロニアル思想の影響を受けていた私は、このような慣習をすぐに却下する気にはなれませんでした。そうしようと思うなら、私の(生きることと知ることの)方法が彼らのより優れているという、上から目線の確信が必要だったでしょう。このような却下は文化征服というおなじみの植民地パターンの一部だということが私には分かりました。私たちのやり方が最も良いものだと、私たちは本当に確信しているのでしょうか?
イマニュエル医師が行うような悪魔払いは、前からある汎神論の世界観の上にキリスト教を融合したものの典型ですが、それが「奇怪」と映るのは、視野の狭い、文化に縛られた西洋の考え方だけです。メディアはイマニュエル医師を「魔女医者」とか「気ちがい」と呼び、ライブ・リークの言葉では、「宗教的狂人でブードゥー教の巫女」が医学校に通ったのは「そう…、《あの》ナイジェリア」(たぶんインターネット詐欺師の国? ドナルド・トランプの言う「クソ溜め国家」のひとつ?)でした。まさに「ブードゥー教」を誹謗の言葉として使ったことが、私の言いたいことを示しています。ブードゥー教は融合した豊かな伝統の典型で、それを通して土着の人々は植民地主義とキリスト教の襲来に向き合い、改宗したように見えても実際は征服者の宗教を自分の文化に取り込むという逆転をやってのけたのです。他人の無知を匂わせるため「ブードゥー教」という言葉を使う人は、自分の無知をさらすだけです。
同じような見下した口調で語られるのが、西洋医学以外の新型コロナ治療法(や、非西洋の医学全般)についての主流メディアの扱いです。中国伝統医学(中医学)の例を見てみましょう。中国で新型コロナに罹った患者の90%以上が中医学を利用しました。中国の人々と政府はコロナ治療に使われた6種の主な(数千年の歴史をもつ)植物薬の治療効果にとても自信を持っているのですが、西洋の大衆・科学ジャーナリズムは自分の知識を振りかざします。代表的なものを引用します。
ネイチャー誌から、
「中国は実証されていない伝統医学に基づくコロナウイルス治療を推奨している。」
「中医学に十分な証拠はなく、したがってその使用は正当化できないばかりか、危険である。」
NBCニュースから(副題:「科学者が注意喚起」)、
「(中医学は)安全に対する誤った感覚も患者に与え、実証された医薬品や治療法を軽視させてしまう可能性がある。」
「植物薬は、世界中でコロナウイルスと戦う活動の一環として中国が輸出しているが、患者に直接間接の危険を及ぼすものだ。」
BBCから、
「基準が欠如しており臨床試験がほとんど行われていないため、中医学の広範な採用が妨げられてきた。」
「評論家によれば、中国は現在それ(中医学)を海外に売り込む手段としてパンデミックを利用している。」
文化を尊重する態度があれば、何千年にもわたって臨床経験を積み洗練を重ね、文字通り何十万人もの医師が実践している医学の伝統を、これほど簡単に切り捨てることはないでしょう。中国の人々だけでも中医学医師の診察を受ける回数は年間25億回を上回ります。彼らがどういうわけか何千年にもわたって集団的妄想に囚われていると想像するのは、ある種の怠惰な文化的傲慢です。そのメンタリティーはこう言います。「彼らは私たちほどには頭がよくなく、理性的でなく、証拠に基づいていないに違いない。彼らにとっての進歩とは我々の医学を受け入れることだ。我々の方法を彼らに与えることで、我々は彼らを改善できる。なぜなら我々は彼らより良く知っているからだ。」
中医学の却下をあからさまな人種差別のせいにするのは誤りでしょう。西洋医学の支配者層がそれを拒絶するのは、そもそも真剣に見る気が無いからというのが大部分です。結局のところ、科学に対抗できるようなものなどあるだろうか? さらに、中医学の基本哲学を文化的に誤解しているため、洗練され一貫性があり自己充足的なパラダイムの一式を、粗雑で出鱈目な偽薬の集合体と、迷信、当て推量へと貶めます。この文化的優越のコンプレックスが次のようなことを当然と見なします。私たちは彼らより良く知っている。私たちの証拠の水準は彼らより高い。彼らには無理だろうが、私たちは根拠や証拠に存在する明らかな誤りに気付くことができる。こうして、ネイチャー誌とNBCの記事を書いた専門家は、「曖昧な言葉と非薬理学的な概念を使い、特定の効果を解析するために試験する薬草の組み合わせが多すぎる」といって中医学を軽視します。「非薬理学的な概念」とは何でしょう? それは「風の熱」や「脾臓の気」、「肝臓の火」のようなことです。文化に縛られた西洋科学の頭にとって、これらは無意味です。それは、別の文化が全く異なる概念の語彙を使い私たちと同じくらい鋭敏かつ効果的に世界を捉えられるという可能性を認めて、初めて理解できるものです。「薬草の組み合わせが多すぎる」というのは、もっと根本的な無知を意味しています。中医学はホリスティックであり、その処方箋は単純化できません。全体が部分の総和より大きくなるのは、植物薬が相乗効果を持つからです。変数を分離して有効成分を特定する通常の実験方法は(それが調合薬の基礎となるのですが)、中医学の基本的な診断と治療の方法とは正反対です。「基準の欠如」については、処方箋と用量が個々人に合わせて決められるからです。中医学の研究を標準化された還元主義的な手法に従わせるという要求は、文化的帝国主義の行為であり、私たち自身の知識文化の枠組みが彼らのものより優れている場合にしか正当化できません。
アフリカの医学についても同様の主張ができるでしょう。中医学のように何千年もの記録が残っているわけではありませんが、知性ある世界観と知識体系から生み出されたものです。イマニュエル医師のように科学の訓練を受けたアフリカの医師でさえ、治療法を考えるのに役立つよう利用するかもしれません。もしかするとそれが理由で、多くのアフリカ諸国では新型コロナの治療のためキク科ヨモギ属のクソニンジンが広く受け入れられているのかもしれません。HCQと同じく、クソニンジンはマラリア治療薬で、製薬産業から激しい弾圧を受けています。(フランスの公共放送が製作した説得力のあるこの映画をご覧ください。)中国でも何千年にわたり熱病に用いられてきましたが、有毒物質を含んでいるとされ多くの国では禁止されています。そうですね、何十もの活性化学物質を調べ上げれば、高濃度で大量に摂取した場合に病気を引き起こすようなものが見つかるでしょう。(そうやって禁止令を正当化したのです。)いずれにしても、マダガスカル(そう、《あの》マダガスカル)の大統領が新型コロナの治療に効果があると宣伝したので、現在この薬草は再び注目されるようになりました。案の定、西洋のメディアは「WHOが警告する中、何の証拠もなく、新型コロナを治療しようとアフリカ諸国はハーブの元気薬に期待」というような見出しで応じました。ああ、あの遅れたアフリカ人だ。このような見出しに好んで使われる言葉は「未実証」です。また、「魔法の薬」という言い方(これは狂気じみた誤描写で、私は実際にアフリカ人がそのように主張するのを読んだことがありません。)薬草療法には医薬品に費やされるような何十億ドルという研究資金が無く、医学支配者層がその使い方を知らなかったり完全に敵対したりする場合、「未実証」なのは当然だと私は思いました。ここで私が言いたいのは、この無知が、つまりシステム全体に及ぶ植物薬の大仰な過小評価が、科学主義の福音を伝道者のような熱意をもって愚かで遅れた人々に押し広げていく文化的覇権の一部でもあるということです。
(第2部につづく)
訳註1:「乩」は神、「童」は仲介者の意味。
原文リンク:https://charleseisenstein.org/essays/the-banquet-of-whiteness/
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